第29話『世界の命運?なにそれ美味しいの?』

前回のあらすじ:世界の運命を託されました


…さて、世界の運命を託され、王城へ向かってから早数日。

今の私達は何をしているかと言うと…


「お嬢様、今日も美味しそうな猪が狩れましたよ!」

「あら、良いわね!森の恵には感謝しないとね」

『ええ、本当ね~』


「忘れ去られた遺跡」に拠点を張り、野宿をしていた。


「いやーでも、まさか『私達3人が居なかった世界』として世界をやり直すなんてね~」

「ええ、そうですね、お陰で街にも学園にも屋敷にも居場所が全くありませんでしたからね」

『私なんか街に入ることすらままならないわよ~?まるで魔物が来た!みたいな扱いをするんだもの…』


…そう、王妃様のやろうとしていた企みは、既に行われていたのだ。

世界から私達3人というイレギュラーを消し去り、「本来のディアストの正しい流れを取り戻す」…

…街の様子を見る限り、それは達成されていると見ていいだろう。

となれば今更我々がしゃしゃり出た所で世界を混乱させる事にしかならないだろう。

であれば忘れ去られた存在である私達は慎ましやかにこうして気ままなその日暮らしをするのが良いのだ。

そう、全てはこれで万事解決なのだ。


「………いやんな訳ねえだろ!?」

「うわあ!?女神様!?」


なんて話をしていたら、後ろから突然女神様に声をかけられる。


「あ、丁度良い所に、女神様も食べますか、猪」

「あら、お気遣いありがと…じゃなくて!貴方達なんでこんな所で油を売っているの!?世界の運命はどうしたの!?」

「いや…どうしたもこうしたも…ねえ?カクカクシカジカですよ」

「いや諦めるの早すぎでしょ!?もっとこう…世界のすべてを敵に回しても戦い続けるとか…そういう覚悟は…」

「無いですね、それして何かメリットとかあるんですか?」

「いや………私に褒められる…とか…」

「………そう、ですか…」


まあ実際、万事解決かどうかと言われると全然そんな事はないのだが、実際問題現状だと付け入る隙が全く無いのだ。

…世界が改変される以前に同じことをやったとして国家反逆罪にならなかったかと言われれば微妙な所だが、今の状態で王妃様に挑んでも…まあ、ハッキリ言ってリスクしか無い。

世界の誰しもが自分たちを知らない中、国家の中心人物に闘いを挑むなど…無謀でしか無い。

その上勝ったとして世界が元に戻る保証も無いとなれば…まあ…それでも戦う選択をする人も中には居るのだろうが…多くの人はこういった選択を取らざるを得ないだろう。


「いや!じゃ、じゃあ前回で『騒動の鍵を握るのは貴方だと思ってる』とか言っちゃった私の立場はどうなるのよ!?」

「さあ?買いかぶりすぎですよ。そもそも私、本来はただのしがないプログラマーですし」

「う…そ、それは…」

「本来世界の命運とかそういうのとかは無関係で居たいんです。そりゃあ…まあ確かに、エリカ様の事とかは少し、ほんの少ーし気がかりですけども…本人が私の存在を知らない以上はただのお節介にすらなりませんよ。…あ、この肉美味しっ」

「いや…それは…いやでも…う…」


…なんだか少し女神様が可哀想になってきたが………とは言え打開策が無い以上は、表立って動く訳にも行かず、と言う訳だ。


「まあ…女神様の言葉を借りる訳じゃないですけど…これもまた『運命』って言ってたじゃないですか」

「いやそもそも戦いを挑んですらなくない!?」

「だからそもそも戦いを挑む前に負けたんですって、私達は」

「負けたて……」


女神様の表情がどんどんとがっかりとした顔になっていく。

そんな彼女に更に追い打ちをかけるように、モブーナ達が話し始める。


「…でも実際、私としてはニエリカ様さえ居ればどこで何をしていても幸せなんですよね。だから別に現状でも不満は無いと言うか…」

『ああ、それ私も同じです!今の生活も悪くないというか…というか別に私、主人公の座を取り戻したいとか無いですしね。え?主人公に返り咲いたとしてまたあのバカ王子にちょっかいかけられるの?ってなりますよ』

「それに、それを言ったらそもそも私は本来のゲームの世界線なら今この場に居ない訳で」

『まあ私達から積極的に本来の世界を取り戻したい!みたいなのは無いですよねえ』

「ニエリカ様が望むならともかく…ねえ?」

「こ、こいつら…」


あ、女神様が憎しみとか諦めとか怒りとかそういうの全部織り交ぜたみたいな顔になってる。

とは言えなあ…こればっかりはなあ………


「はぁ~~~~~~~~~~…………いやもうなんか…前回前々回で大層に語ったのが全部アホみたいじゃないですか私……」

「それは…その…すみません」

「いや、もういいわ、君等も偶然来ただけやもんな、うん。それを私が勝手に運命とか思って色々話しただけやもんな、ええ?」

「あの…その…本当申し訳なく…」


マズい、これはマズい。

女神様があまりにも不甲斐ない我々に対してだる絡み説教モードに入りそうになっている…!


「いやまあね、分かるよ?命運を託されて、戦おうと思って、全部手遅れで、はい諦めますってなる気持ちはね?でもさあ!ちょっと潔く諦めすぎじゃねえ!?」

「う…け、けどこれ以上はどうしようも…」

「どうしようも無くてもさあ!私としてはさあ!命運を託した立場としてはさぁ!頑張って欲しいのよ!そんな早々にメインクエストぶん投げてサブクエストばっかりやって飽きるオープンワールドゲーみたいなのじゃ無いんだからさあ!」

「い、いやその…」

「…そうだな、私としても君たちには頑張って欲しいと思っているのだが」


女神様とそんな話をしていると、その場に予想外の乱入者が現れる。

それは…


「あ…る、ルイリオ様!?何故ここに!?」

「探したぞ、ニエリカ。君に…いや、君たちに頼みたい事があってここに来た。…聞いてくれるね?」

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