第15話『主人公は身も心もデッケェですわ』
前回のあらすじ:入学まで時間が経ちました
さて、あれから月日は経ち…9年の歳月が過ぎ、いよいよ学園への入学の日になり…
「…って9年!?」
9年って言ったらもう…中身換算で言ったら4X歳になっちゃうぞ、私。
というか9年分のエピソード全部すっ飛ばすって中々こう、もうちょっとやることとかあったんじゃないのか!?
「まあ…言ってもやってることと言えば順当にダンジョンを攻略して順当に日々の鍛錬に勉強に…って感じでしたからねえ」
「ソウダゾ」
「そ、それはまあ…」
ちなみに9年経ってもモブーナは相変わらずで、ぬるぽは…何か人のような姿を形取るようになって、人の言葉もちょっと覚えたようだ。
…私?私はと言えば…
「あらぁ?ニエリカ、相変わらずちんちくりんですのね~え!」
「う、ぐ…え、エリカ様…」
…懸念していた通り、9年経ってもほとんど身体は成長しなかったようで。
いや正確に言えば全く成長していない訳は無いのだが、多分、恐らく、きっと。
ぐう、年相応に成長している周りが羨ましい。
「まあまあ、そういう体質なのだろう、私は気にしていないぞ!ハッハッハ!」
マーロイ殿下との関係も相変わらず続いている。
そして…例によって誤解は解けていない。
というか思いっきり『ニエリカ』って呼ばれている気がするのだが、ここまで来るとむしろ病気か呪いの類なのでは?と疑ってしまうレベルだ。
…いや、もしそうだとしたら何の呪いやねん、という事になってしまうのだが。
「…あ、ありがとうございますわ、殿下」
学園生活もやはり一筋縄ではいかないのだろうな…と、今からやや憂鬱ではある。
そして、そんな事を話ながら桜並木の学園への道を歩いていると…ふと思い出したことがある。
…そういえば、本編で主人公と初めて出会うのはこの道だったような…
そう思いながらちらりと後ろを振り向く。
すると…そこには、いや正確にはかなり遠くにだが、主人公の姿を視認する。
(やはり…ここで会うことになるのね…ママリア…)
『ママリア・スウィチ』、このゲーム…ディアスト本編における主人公である。
平民の生まれながら、豊富な魔力量と、類まれなる武術のセンスに恵まれ、特例ながらこの学園に進学。
マーロイ様を始めとする様々な生徒達と交流を深めていく…というのがゲーム本編の主な流れだ。
ちなみにプレイヤーの選択次第ではあるのだが、彼女は基本的に誰にでも優しく、一部のプレイヤーからは『聖母』とか呼ばれていたとか。
確かに名前も『マリア』じゃなくて『「ママ」リア』だもんなぁ…まあこれは一説によれば本当はマリアの予定だったらしいのだが、バグでデフォルトネームの頭文字が2文字続いてしまった結果こっちがデフォルトネームとして広まってしまったらしい。
それを裏付けるように、最初の取説ではちゃんと『マリア』表記になっていた。
…まあ、「ママ」リアが広まりすぎた結果、公式側もママで認識するようになってしまったのだが…。
(というか、本編の私…というかエリカ様、そんな聖母にいじめじみたことをしていたのよね…なんというか、ちょっと心が痛くなるわ…)
まあ、最もこれはマーロイルートでのみの話ではあるのだが。
他のルートでも絡みが無いわけではないのだが…いじめと言う程ではないが、何かと突っかかってくる自称ライバルポジションみたいな役割だったような記憶がある。
と、まあそんな事を考えていると、主人公の姿が近くに…
………近くに…?
(あれ……目の錯覚かしら…心なしかママリア様がこちらに来る距離感が…何かおかしいような………)
何かこう…近くに来ているはずなのにまだだいぶ距離があるというか…
他の生徒と比べても何かこう…距離感がおかしいというか…
「…うん?何か…地響きのような音が聞こえないか?」
マーロイ様にそう言われ、自分も耳を澄ませてみる。
…うん、確かに地響きのような音が聞こえてくる。
というかこれ、実際に地響きが起こっているような…
そして心なしかママリア様が近づく度に地響きが大きくなっているような……
(…そういえば)
彼女と対面する、となった直前、私はあることを思い出す。
会話シーンでの立ち絵…何故かママリアだけはレイヤーがバグっていたなあ…と。
背景の小物の向こう側だったり、教室の窓の向こう側だったり、時には山の向こう側だったりして、少し可愛そうだと思ったものだが…
まさか…
(ま、まさか…あれはバグなんかじゃなくて…)
こちらに近づく地響きはどんどんと大きくなっていく。
そしてもうここまで来たら嫌でも違和感に気づく。
デカい。
明らかにデカいのだ。
桜並木よりも頭一つ…いや2つ3つ抜けているかもしれないその巨体は、どんどんこちらに近づいてくる。
ズズゥン…ズズゥン…という明らかにヒロインが出して良い効果音ではない音を響かせながら、1歩、また1歩とこちらに近づ…
(…うん?これはもしかして…?)
ハッと思った時には時すでに遅し、私は彼女に踏み潰され…
…ては居なかったが、彼女が足を下ろす位置を少しでもズラしていたら本当に踏み潰されていたかもしれない。
(ハアーッ…ハアーッ…し、心臓に悪い………!)
『うーん…ここがマテル王立学園ですかぁ~…どんな学園生活が待っているのかしら…』
「ちょ、ちょっとぉ!貴方、人を踏み潰しかけておいてその態度は何なんですの!?」
『………?何か声が…ハッ!あ、貴方は!』
良かった、なんとか気づいてくれたか。
『で、でで殿下!?す、すみません!気付かずに通り過ぎてしまう所でした…あの、私こんな体格ですから人の顔を見分けるのがあまり得意じゃなくて…』
違う、そっちじゃない。
「あ、ああ…うん、いや、それは別に構わないんだが…」
『…ハッ!もしかして隣の方は殿下の婚約者の方でいらっしゃいますか!?す、すす、すみません!ご挨拶が遅れて…私「ママリア・スウィチ」と申します!よろしくお願いしますぅ!』
うん、そっちでもなく。
「あ、いや、彼女は私の婚約者ではなくてだな…こいつは俺の親友の婚約者だ。で俺の婚約者は…」
『え、ええ!?じゃ、じゃあ殿下の婚約者の方は何処に…』
「………その、君の足元だ」
『!!?!?!?!?!?!??!?!?!?!??!?!?!?!?!?』
ママリアがカエルのように飛び上がり、後ずさる。
彼女が着地した際、一際大きな地震が起こり、近くに居た生徒たちが全員こちらを見たせいで、嫌でも注目を浴びることになってしまう。
…いや、この状況はどうあがいても注目を浴びないほうが無理というものか。
何故ならば…
『す、すみません!すみません!なんとお詫びをしたら良いか!殿下の婚約者だと気付かなかったばかりか、気付かずに踏み潰しそうになってしまうなど!』
「あ、あの…ママリアさん…?」
ママリアはその巨体で、私に対し土下座をしてきたのだから。
『このお詫び、どう償ったら良いか…!すみません!私は平民の立場なもので身分取り上げはできませんので…ハッ!であればこの命捧げさせて頂きま』
「ちょ、ストップストップ!待って待って!一旦ストップ!」
『ふぇ…?』
「命を捧げるとかそういうのはいいから!まあ、その…今回はボーッとしてた私にも否があったし、何より別に私も無事だし…」
『し、しかしぃ…』
「あーもう!別に気にしてないって言ってるのよ!というかこれから入学式なんだから、あんまりそういう服が汚れるようなことはしないの!」
『ふぇ………あ、ありがとうございます!!!!』
「ああもうほら、顔を上げて…」
彼女が顔を上げると、改めてその大きさに気づく。
…うん、顔のサイズだけで私の身長ぐらいあるわねこの子。
『す、すみません…』
「ああもう、可愛い顔が台無しじゃない、ほら、笑って笑って!」
『あ、えと…えへへ…こう、ですか…?』
「ええ、それで良いわ。ま、次からは気をつけなさいね?」
『は、はい………あ、そ、そうだ、お名前をまだ…』
「ニエリカ・キュービックよ」
『ニエリカ…様…』
…うん?何かこう…嫌な予感が…
そう思った瞬間、急に横から大きな力が働き、身動きが取れなくなる。
彼女に掴まれたのだと気づいたのは、そのすぐ後だった。
『…ニ、ニエリカ様!ど、どうか私を貴方のお側に仕えさせて下さい!!!!!』
「ぐぇ…痛…握力強…ちょ…もう少し…緩め…」
『ああ!!!!!!ご、ごめんなさい!!!!!ごめんなさい!!!!!!!!!』
ぜぇ…ぜぇ…今度こそ入学前に本当に死ぬかと思った…
というか何でモブーナと言いこの子と言いこんな感じなんだ、もしかして平民出身って貴族に対して何かこう…あるのか???
「はぁ…はぁ…その、そんな重く捉えなくて良いから…ね?」
『あ、あぅ…はい…』
「その…とりあえず友達から始めましょう?ね?」
『う、うぅ…ニエリカ様の寛大なお心に深く感謝致しますぅ……』
駄目だ、聞いてるのか聞いてないのかさっぱり分からない。
まあただ…一つだけ分かることは…
学園生活も、平穏にはいかなそうだということだ。
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