第14話『屋敷の地下は██████でいっぱいだ』

前回のあらすじ:バグを発動するにも運動神経が必要でした


さて、結局この間のダンジョン探索はどうなったのかと言えば、まあ特に何も起こらずに探索を終えたというのが正直なところだ。

(主にモブーナが強引に引っこ抜いたせいで)ボロボロになりながらも、無事合流し、その後はまあ順当に最深部まで進んで攻略したという感じである。

そして冒険から戻ってきて数日。

私は何をしているかと言えば…


「…ふっ、くっ!」


パチンコで空を飛ぶ特訓をしていた。

…いや、正確には勿論それだけではなく、ちゃんと剣とか魔法とかの特訓もしているのだが。

それはそれとして空き時間を利用してパチンコバグをちゃんと利用できるように特訓しているという形だ。


「お嬢様、こうです、こう!沈む前に足を上げる感じで…」

「縺薙≧縺ァ縺吶h?」

「くっ…わ、分かってるわよ!頭では!」


ちなみに原理を説明したらモブーナは当然ながら、ぬるぽですら普通にやってのけてみせた。

…あれ、これやっぱり主人公だけに許された技だったりする…?


「またまた、私は別に主人公ではありませんよ」

「ステータスが主人公のそれを大きく上回っているでしょうが!」


まあ、ステータスの高さが=何でも出来る訳ではないというのは、先日の冒険で身を持って実感しているのだが。

マスクデータのようなものがあるのかもしれないが、攻撃力が高くても剣の振り方を知らなければ意味がないし、知力が高くても勉強をしなければ宝の持ち腐れになるのだ。


「まあ、一朝一夕で身につくというものでもありませんし…また度々ダンジョンに潜ってとりあえず地道なレベル上げから始めましょう。ステータスが上がって困ることはありませんからね」

「…そうね」


バグを使いこなすまでの先は長い…そんな事を思いながら自室へと戻る。


…そうして屋敷内を歩きながら、ふと思うことがある。

『エリカ複製バグ』を発動したのは一体誰なのか?、ということだ。

何故こんな事を言うのかと言えば…理由は明白、このバグを発動できると思われる人間が、誰も条件を満たしていないからである。

その条件というのが『エリカをパーティーメンバーに入れ、ある特定のダンジョンに出発する』なのだが…

…そもそも、『特定のダンジョン』に行くための前提条件を満たしていない。


まず、このバグを発動できると思われる人間…これは先日一緒にダンジョン探索をしたマーロイ、カーヴィル、そしてエリカ本人の3人だ。

その中で私と会った時に何も知らなかったエリカ様は除外して残りが2人。

だが2人とも、そもそも先日探索したダンジョンをまだ攻略していないというではないか。

そう、つまり先日の探索が『初クリア』ということになる。

そして前述した『特定のダンジョン』というのは…次に攻略する想定のダンジョンなのだ。


つまり、条件から考えるのであれば『私が今こうして複製されていること自体がありえない』のだ。


(まあそれにマーロイ様もカーヴィル様も私が複製されている事自体に驚いていましたし、あり得ないと言えばあり得ないのよねえ…仮に動機があるとしたらカーヴィル様だとは思うけれど…ううん…)


そんな考え事をしながら歩いていると、私はあることに気づく。


(………ん?『開かずの扉』が開いている…?)


エリカ邸1階、とある部屋に入るための扉、通称『開かずの扉』。

いつ調べても『鍵がかかっている』と表示され、壁貫通バグも無効、正規のアイテムにもバグアイテムにも開けるための鍵は存在しない…といったものだ。

とは言え『手段を問わないのであれば』入る方法が無い訳ではなく、『メモリー領域を直接弄ることで』中に入ること自体は可能だ。

とは言えそれをするためには改造ツールを使用する、ないしはデータを吸い出し直接編集する必要がある。

勿論、正規の方法でメモリー領域にアクセスするようなバグ技も無い訳では無いのだが…現状、安定して『この扉を開ける』だけといったことはほぼ不可能だったはずだ。

それに………そもそも『こんな事が出来る』のは、『何かを知っているから』に他ならないだろう。


(………ごくり)


私は、意を決して扉の中に入ることにした。


ちなみに扉の中がどうなっているのかと言えば…まあ、言ってしまえば地下室への階段なのだが、厄介なことに『降りられない』のだ。

つまり、地下室の存在だけを匂わすような部屋…だったはずだ、原作であれば。

だが、まあこの世界においては流石に匂わせだけということもなく、ちゃんと地下に降りられる階段となっていた。


(…けど、この先が何処に繋がっていて、何があるのかは私も知らないのよね)


そう、階段の正規の繋ぎ先…すなわち屋敷の地下室。

そこに行くための手段は『正規の方法では』存在しない。

つまり、ただバグらせるだけでは絶対に見られない部屋、ということだ。

そして私は残念ながらそういった知識には疎く、ついでに言えばそういった遊び方自体もあまり好きではなかったため、自分の目で確認したことは無いのだ。


(つまり、私自身の目で見るのは初めて…と言う事になるけれど…ワクワク半分、不安半分…多少不安のほうが大きいかしらね)


1歩、また1歩と階段を降りていく。

下に進めば進むほど、不安も大きくなっていく。

…もしかすると、キュービック家の闇に触れてしまうのではないか?

あるいは、実はラスボスの部屋に繋がっているのではないか?

悪い考えばかりが浮かんでいき、そして膨らんでいく。


(…まあ、案外ボツになった部屋で、『何も無かった』…ってのもあるのかもね、はは…)


そうして階段を降りきった先、そこにあったのは…

私の想像の外にある部屋であった。


(…何かしら、ここ…まるで…研究室のような)


『ディアスト』の世界観にまるで似つかわしくない小部屋。

なにかの培養槽のようなものがずらりと並べられており、その中には…


「………えっ」


私だ。

私が居る。

培養槽の中に居るのは私だ。

いや、『私』というのは語弊があるかもしれないが…『エリカ・キュービック』その人が、培養槽の中に居たのだ。


(しかもこれ…よく見てみれば…この間バグアイテムを取得した時のポーズによく似ているような…?)


普通であればこういうものはもっと『T』ポーズだったりするはずだ。

そうでなければこんなポーズで置いてあるはずがない、するとこれには何かしらの意図が………


「…!?」


そんな事を考えていると、私は何者かに頭を殴られ………そのまま気絶してしまった。


「…すまないね、ニエリカ…いや、『桜井 結愛』。君にはいずれ全てを話すときが来るのだろう…けど、残念ながらそれは今じゃないんだ。分かってくれ…」




……

………

「う、ううん…」

「大丈夫ですかお嬢様!!!!!!!!!!!」

「うわぁ!?」


私を心配するモブーナの大声で目を覚ます。

あれ、私は一体何をしていたのだっけ…


「もう!!!!!心配したんですよお嬢様!!!!!!ルイリオ様から聞きましたよ、階段で足を踏み外して転んで気絶したって…」

「え、ええ…」


ああ、そうだった、確か階段を降りる時に転んで、それで気を失ったのだっけか。

…何か忘れているような気もするが…駄目だ、何も思い出せない。


「けれど、ご無事で何よりです…本当に…気をつけて下さいね?」

「…ええ、ごめんなさいね、モブーナ、心配をかけたわね」


まあ、ともかく、そんな事故があったというのに無事だったのは本当に良かった。

これからは気をつけることとしよう…。




―――そうして月日は流れ…

舞台はゲームの本編…『マテル王立学園』へと移り変わるのだった。

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