第13話『パチンコで空を飛んでみたかった』
前回のあらすじ:ダンジョンで壁抜けをしてパチンコを手に入れました
「…!こ、これは…!」
妖精の森ダンジョンの宝箱に入っていた何の変哲も無いパチンコ。
これは、ディアスト各地のダンジョンに配置されている、所謂ダンジョン固有のお宝アイテムである。
そしてこのパチンコは『妖精のパチンコ』と呼ばれるもので、まあ…言ってしまえば普通のパチンコなのだが、これで遠距離攻撃が出来るようになると言う訳だ。
だが、このゲームをプレイした人間にとっては、このアイテムの真の価値はそんなものではない。
このアイテムの真の価値、それは…
空を飛ぶことだ。
…何を言っているのか分からないと思うが、実際にそうなのだ。
まあ詳しく説明すると、パチンコを引く→発射する瞬間、一瞬だけ接地判定が生まれる→その瞬間にジャンプする、を繰り返すことでどこまでも上昇できる…つまり、擬似的に空を飛べると言う訳だ。
(RTA的には最重要とも言って良いアイテムね…とは言え、別にRTAを目指している訳じゃない身としてはただの便利な飛行用アイテムと言う感じかしら)
とは言え、これがあれば天井の判定を抜けてさっきの部屋に戻るのも簡単だろう。
ということで、早速使ってみることにする。
(ええと、確かこんな感じよね…?)
パチンコを引いて…ジャンプ
そうして空中でまた引いて…ジャンプ………
……………
(いや無理ゲー過ぎるッ!!!)
そりゃそうだ、あんな真似はゲームだから出来るのであって、生身の体でやるのはどう考えても容易いことではない。
というか、普通にジャンプしてから着地前にパチンコをもう一度引くのがまず無理過ぎる、そんなの二段ジャンプとか出来る人じゃないと不可能だろ!
…そう考えると、ディアストのバグは『主人公並の身体能力ありき』のバグが少なくないというのを身を持って実感する。
(『能力』はレベルを上げれば上昇するんでしょうけども、運動神経とかは流石に………)
ちゃんと運動しよう、そう心に誓うダンジョン探索中のひとときであった。
(…さて、空を飛べないとなると、他にパチンコで出来ることと言えば…)
まあ、色々言ったもののパチンコを使って出来るバグはもう一つある。
パチンコを使うと視点が一人称になることを利用した壁抜けなのだ…が………
(………いやそもそも視点の概念ッ!!!)
そう、本来のディアストのアクションRPGパートは三人称視点なのだが、一部の武器や行動をするときだけは一人称視点になるのだ。
なるのだ…が…そもそも自分自身がゲームの登場人物になっているのだから、視点の概念なんてものは当然あるわけがない。
…となると視点系のバグも使えなくなる訳だが…
(うーん、これも使えないとなるとこのパチンコ…まあまあゴミになりそうね…ま、試しにやるだけやってみましょ)
本来のやり方は、壁に密着して一人称視点になる武器を使い、その後壁の方を向くと壁の向こう側が見える、場所によっては抜けることも出来る、というものだが…
(うーん…とりあえず壁に密着してパチンコを引いてみましょう)
先程吹き飛ばされてすり抜けた壁を背にし、パチンコを引く。
そして壁の方を向く…
(………!?)
お、おお…!?
まるでそこに何も無いかのように腕が壁に吸い込まれていくではないか。
これは…もしかするともしかするのでは!?
(ゲームだと壁の向こう側が見れた…ということは頭もすり抜けるはず……)
………少し怖いが、意を決して壁に頭を突っ込んでみる。
すると、腕と同じ用に吸い込まれていく感覚があり…
…マーロイ・シュタットネスと目が合った。
「うわぁっ!?」
「わぁ!?!?!?一体何なのだそれは!?!?」
「あ、いえ…その……なんとかして壁を抜けれないかと……」
「壁を……抜ける………?お前は何を言っているのだ………?」
うん、そりゃそうだ。
普通に生きている人にとっては『壁を抜ける』なんて発想、絶対に出てこないに決まっている。
となると…今の私は奇人変人、ないしは頭のおかしくなった人と見られているのだろうか。
「あ、いえ、その、これは…」
「プププッ、実に無様ですわね~っ!神頼みならぬ『妖精頼み』でもしたかったんですの?」
「う、うむ…そうだな…エリカ、流石に今の姿はちょっと…」
「う、く…す、すぐにそちらに向かいますから、あまり見ないで欲しいですわ!」
く、くう…壁抜け中の姿を誰かに見られるというのがこれだけ屈辱的とは想像もしていなかった。
こうなったら早いところ抜けて向こう側に…
(………あら?)
向こう側に…行けない。
そうか、この技で壁抜け出来ない壁はあくまで向こう側が見えるだけ、それはつまり…上半身しか抜けられないということか!
「…どうした?エリカ?」
「あ、いえ、その………どうも上半身しか抜けられないみたいで…」
「………」
や、やめろ!
その『哀れなものを見るような目』はやめてくれ!
いや実際今の姿は『穴に飛び込んだら出られなくなった動物』のその姿以外の何物でも無いのだが…!
「ええと…とりあえず…戻りますわね…」
「あ、ああ…後で合流しよう…」
凄く、物凄く微妙な空気になってしまったが、とりあえず向こうに無事を伝えることは出来た。
さて、とりあえず壁抜けも出来ない事が分かった以上、地道に移動して合流するしか…
「お嬢様あああああああああ!!!!!!!!!!!」
「うわぁ!?何、何!?!?!?!?」
そう考えていた矢先、下半身側でドドド…という地響きの音とともに凄い気迫の声が聞こえてくる。
「お嬢様!!!助けに来ました!!!!!!!!」
それはモブーナだった。
…うん、確かに壁の向こう側に居なかったな~とは思ったが。
「え、ああ!?モブーナ!?で、でもここまでどうやって…」
「魔物共を蹴散らして最速でやってきました!!!それでもこんなに時間がかかってしまい申し訳ありません!!!」
「い、いえ…それよりもちょっと待ってくれればすぐにそっちに戻」
「少しお待ち下さいお嬢様、すぐにそこから引っ張り出して差し上げます!」
「え、ちょっと待、違」
こちらの声が聞こえていないのか、モブーナは私の静止も聞かず私の下半身を抱きかかえる。
「あ、ちょ、待、いまのでパチンコ落とし」
「そりゃああああああ!!!!!」
モブーナが私のことを力任せに引っ張るとボゴォ!という音とともにダンジョンの壁が崩れ、同時に私が引っ張り出される。
ああ、壁抜け状態じゃないとこういう事になるのね…
モブーナの手で少し宙を舞いながら、私はそんな事を思うのだった…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます