プラトニック・スウィサイド

石田くん

第一章

 夏が落ちて行く。太陽が落ちて行くように。僕が落ちて行く。太陽が落ちて行くように。

僕はそんな場面を妄想した。しかし夏は毎年来て、太陽は毎日昇るということは忘れていた。それは最も大事なことだった。晩夏、夕日が少し尾を引く中、駅のホームに立った僕は、項垂れて点字ブロックを見つめていた。小太りのサラリーマン、痩せっぽちの学生、眼鏡をかけた女子高生が三対二対一の割合で、次の急行を待つ列に並ぶ。この時間帯に帰れるのは珍しく、とても嬉しいことだが、満員電車で帰ることに変わりはなかった。

 僕は先ほどから抱いていた違和感を思い出した。僕の一人称は私だった。それ程私は疲れていた。疲れていた?疲れていた、というのはおかしい、だって私は疲れさせられているのだから、とも思ったが、疲れることしかできない職場に就く他なかったのは私の責任かもしれなかったから、疲れさせられている、とはっきり言うのはやめた。

 寂しかった。これは今に始まったことではなかった。思えば高校時代の終わりから寂しかった。私が通う高校では、私のように大学受験をする人は少なく、学年百人程の内数名だった。私の友人達は明るく、頭が悪く、受験はしなかった。他の大学受験をする者は教室の隅にいた眼鏡達、それは男とも女ともつかない、だけで、そういう奴らを心のどこかで馬鹿にしていた私とは当然関りがなかった。その頃から、私は少しずつ寂しくなっていった。猫を飼いたかった。それほど寂しかった。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る