第2話 手紙

「今日も暇だなー。誰も来ないし」

私ことあがたは途方に暮れている。最近お客さんが少ない。

明後日になっても人が来なかったら閉店にするか。

よし。今日はもう終わりにして帰ろ。

「あ…あの」

「どうされましたか?」

お客さん来た。閉店発言は撤回!

「ここが噂の時間屋さんですか?」

「そうです」

私がぱっと見た限り、お客さんは子供だ。どこかの指定の学校鞄を背負っている。男子高校生って所か。

「実は…過去に行きたいんです」

「どうして?」

「去年死んだ母に…お礼を言えてなくて。このままでいいのかなって思い…。後悔しているんです」

なるほど。でもこれは過去に行く必要あるの?

「過去に戻ってる母親にお礼を言いたい、と?」

「…はい」

彼は思ったより本気らしい。ここははっきりと。

「駄目です」

「え?変えられないんですか?」

「ええ。決まりです。例外を除き」

「…」

ちょっと言いすぎちゃったかも。男子高校生(DK)かなり凹んでる。

DKはカウンターに両手を押しつけた。

「ーですが、未来は変えられますよ」

「え?」

「どうぞ」

私がDKに出したのは一枚の便箋と封筒。DKが驚く。

「これは何ですか?」

「見ての通りの物です。さあ、書いて下さい。お母さんへの思いを」

DKは涙ぐんでいた。涙がぽろぽろ落ちる。

「俺には書けそうに…ありません…」

「では代筆します」

ここは、ある物と引き換えにやりたい事ができる。

「思い出を私に貸して下さい」

「貸す…?思い出を…」

DKはひどく怖がっていた。そしてつぶやく。

「まさかここは…思い出を貸すお店…」

「そうです」

とは言ってもすぐに返すよ。私、嘘はつかないから。

「どうぞ。思い出を貸します。代筆して下さい」

DKが私の目の前で倒れ込んだ。悲しみか、苦しみか。私には分からない。

私はDKの額に手をかざした。


…DKはお母さんが大好きだったんだね。お父さんが省かれてる…誕生日会。

去年の秋、DKの母親はバイクにはねられて即死した。

DKが病院に駆けつけた時には遅く、母親は動かない。

泣き叫ぶDK。これでもかと言うぐらい泣いていた。


「さあ君。お礼を書こうよ」

私はペンを握ってすらすらと文章を書いた。

DKは眠っているのか目を閉じている。


「…ここは?」

「時間屋です。ようやく目を覚ましましたか」

DKが動き出した。10分は寝ていたね。

私はDKに封をした封筒を渡した。

「あそこの白いポストにこれを入れて下さい」


DKは言われた通りに封筒をポストに入れた。

「俺の名前…言います。えっと俺…勝治大登かつじ だいとです」

…。本当にD・Kだった。ごめんなさい。

「私は縣。もう帰りますか?」

「ーはい。お世話になりました。ありがとうございます。一つ…質問していいですか?」

「どうぞ。答えられそうなら答えますね」

何となく気が弱めだな。D・Kは。

「ここって何の為にあるんですか?」

「おかしくなった時間軸を修正する為にあります。そして未練を消すこともできますね」

D・Kは一瞬ポストを見た後、振り向かずに去って行った。

「またここに行きたいです。さようなら」

ーその願いは叶うかどうか分からない。


彼は不思議に思っていた。どうして昨日の帰り道にぼんやり歩いていたら、時間屋とかいう変な店についたか。

どうして亡き母に手紙を書いたのか。

「だよね。やっぱりあれは夢だ。帰り道に寝てたんだ」

D・Kはベッドの上でゴロゴロしている。寝ぼけているようだ。

「…これは?」

ふと机の上を見ると、封筒が一枚置いてあった。

『大登へ』と表には書いてある。裏には『母より』。

D・Kは無我夢中になって封筒を開け、手紙を読んだ。

紛れも無い。これは亡き母からの手紙。

D・Kはただひたすらに泣いていた。嬉しいのか、切ないのか。

感情がぐちゃぐちゃに入り混じった涙だったが、D・Kはつぶやいた。

「ありがとう。これでスッキリした」

もうこれで時間屋に行く必要は無い。


D・Kの思い出、アツすぎるわー。家族の絆っていうのかな。

お母さんも安心したって言ってたから良かったよ。

様々な未練を無くすのがここー時間屋、いや、私の仕事だ。


 

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