悪役モブテイマーは超ポジティブ~ザコモンスター達を神獣に超育成してたら破滅シナリオ回避楽勝!あれ、主人公ルート入りしたみたい?
御手々ぽんた@辺境の錬金術師コミック発売
第1話 前世の記憶
「ここが新しい我が家ですか……こほっ」
荒れ果てた室内には深く埃が積もり、まともに息をするのも難しいほどだ。恐る恐る私が触れた机はそれだけで限界がきたのか、片足がとれかけ、ぐらりと揺れる。積もった埃の一部が舞い上がる。
「エルファネットお嬢様……早速、片付けを始めますね」
「はい。 お願いします、レーゼ。──私は、外へ……周囲を見回ってきます」
「はい、お気をつけ下さい」
「大丈夫よ、この仔がいるもの」
私、エルファネット=リィ=ハーゼンクロイツはここへ来る途中で、人生で初めてテイムしたハウンドドックの仔を撫でる。
そして、私に唯一同行してくれた使用人のレーゼに感謝の笑顔を向けると、外へ出る。
私についてくるハウンドドックの仔。出口のドアを通ると、ここに来る時も見えていた小さな坑山が、正面に見える。
ハーゼンクロイツ伯爵領の所領の中でも小さなそれは、かつてはそれでも大切な魔石の採掘場だったらしい。
外に出て少し歩いたところで、立ち止まる。レーゼの視線がなくなったことでほっとした私は、思わずそのまま屈みこんでします。
ジョブ獲得の儀式でテイマーという、魔物と触れる忌み職を授かってしまった私は、歴史ある伯爵家には相応しく無いと、この辺鄙な土地に追放同然の処遇で追いやられてしまったのだ。
そんな私を見捨てずについてきてくれたのは乳母姉妹のレーゼだけだった。そのレーゼをあまり心配させたくなくて、何とか保っていた気持ち。それが一人になったことで一気に折れてしまう。
そんな私の足元へ、とことことハウンドドックの仔が来ると、ペロペロと私の指先をなめてくる。
「──ふふ。君がいたね。慰めてくれてるの? ありがとう」
「バウ」
「そうだ、君に、名前をつけてあげましょう」
そうして私がハウンドドックの仔の名前を考えようとした時だった。
急に頭が痛くなる。
「え……あ……、くっ、ぅ……」
目の奥でチラチラと見たことの無いような光が瞬く。
これまでに経験したことの無い痛み。まるで自分自身の存在が失われていくかのような、突然の恐怖が襲ってくる。
それは、死を覚悟させるほどの痛みだった。
──そんな。私、こんなところで……ううん。それも、いいかも、しれない。こんな場所で暮らしていくなんて、考えられない……
痛みに悶え、思わず私は生きることを諦めかけてしまう。その私の頬を、ハウンドドックの仔が何度も何度もなめてくる。
まるで諦めないで、頑張ってと、必死に励ましてくれているかのようだ。
そんな温かな感触に、次に私の脳裏に浮かんだのは、ともに育ってきたレーゼの笑顔と、優しい抱擁だった。
もし私が死んでしまえば、こんなところまで私のためについてきてくれた彼女を、どれ程悲しませてしまうだろうか。
──それは、嫌。そんなの、いやっ!
次の瞬間だった。痛みの質が変わる。
私の存在を侵し、消し去ろうとばかりに押し寄せていたものが、少し収まる。代わりに私の脳裏に、別の何かが溢れだす。
それは映像であり音であり、そして知識だった。
その奔流のような情報の波も、ようやく収まる。
ポツリと、思わず呟いてしまう。
「私、ゲームの世界に転生してた、のね」
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