婚約している恋人の中身が転生した三十代のおじさんになったけど大丈夫ですか?
鍛冶屋 優雨
第1話
気がついたら、俺の目の前には男がいて俺の両方の二の腕を掴み、キス顔をしていて、もう少ししたら、お互いの口がくっつく・・・いわゆる、キスっていう状態になるところだった。
おいおい!
待て待て、これはどういうことだ!
なんの悪夢だ!
とりあえず、俺は
「止めてください!」
なんて口に出してみたけど、出た声は綺麗な女性な声だった。
なんだこの綺麗な声は!
俺の声ってこんなに綺麗な声だったっけ?
俺はいったいどうしちまったんだ?!
俺の自問自答には応えは出ず、目の前のキス顔男は俺の綺麗な声に反応して、一瞬止まり、不審な顔をしたが、再度キス顔になり、俺に迫ってきた。
さあ!
淑女及び一部の紳士諸君!
この世界において、古来から女性や一部の男性にはこんな不条理な状況になることが多々あったことだろう。
こういった場合、どうすれば良いのか?
もちろん、「必ずこれ!」という方法はない!
その時、その時の状況に合わせて柔軟に対処することになるのだが、まず、
「嫌!」
という拒絶をした方が良い。
特に、声の聞こえる範囲に人がいそうな場合は有効だ!
拒絶をすることによって相手に
「彼女も同意していた。」などという言質を取られないようにしておく事が重要だ。
では、周りに人がいない。あるいは、拒絶をしても相手が止まらない、例えば今のような状況だが、これは実力行使しかない。
もちろん、実力行使をすることにより、相手が逆ギレして、こちらに被害を及ぼす可能性も高い。
殴られると痛い。
それは真理だ。だけど、無抵抗でいて、自分が臨まない状況になるのはどうなのだろうか?
もちろん、ご自身の中の天秤にかけて、痛みと自分が臨まない状況で天秤が傾く方の対処をすべきだろう。
俺としては男にキスをされるのはノーサンキューなので、今から反撃に移る。
状況としては、今の俺は立った状態で、自分よりも身体の大きな男に、二の腕を掴まれて、キスを迫られている。
ここからの反撃方法は?
1 頭突き
これは良い!相手はキス顔のために目を瞑っている状態だから、頭突きをしたら、相手の顔面にクリーンヒットするだろう!
だけど、相手が傷害や暴行で訴えてきたらどうしよう?
顔に傷がつくことで、こちらが悪いイメージがつくかもしれない。
2 膝蹴り
これも良い!
特に相手が男である場合、下腹部にある急所に当たれば、相手は別の意味で天国への階段を昇ることになるかもしれない。
もちろん、こちらも傷害や暴行の対象になるし、タイトなスカート等で足が上げにくい場合や、相手がこちらの動きを察知した場合、咄嗟に内股になられたら、威力が半減してしまう可能性がある。
3 大声を出しつつ、腕を相手の腕を手の平側に素早く引き、強制的に相手の拘束から逃れる。
これも良い!
どういう事かというと、例えば、他人に手首などを掴まれた場合、相手の指先側に自分の手を素早く引いたら、手の構造上、相手は保持することが難しいので、抜け出すことができるのだ。
今の状況だと、俺は
「止めてください!」
と相手が引くぐらい、大きな声を出しつつ、左に大きく動くすると、俺の右腕は、相手の拘束から抜け出すことができるわけだ。
後は、俺の左の二の腕を外側から掴んでいる相手の右腕を内側から掌底で打ち抜けば、ほら、簡単に相手の拘束から抜け出すことができた。
ここで肝心なのは掌底ってことだ。
格闘技の経験がある人なら咄嗟の場合でも拳を作ることができると思うが、知識だけの素人の俺なんかは拳を作ることができずに自分の拳を痛めてしまう。
そこで掌底だ。
掌底とは手の平の付け根部分で相手を打突することだ。
掌底だと拳を握らないから咄嗟に手を出すことができて、拳を痛める可能性も少ないのだ。
目の前の男は咄嗟にとった俺の対応に驚いたのか顔を強張らせて固まっている。
うん?
目の前の男は、昔、姉に無理矢理見せられたアニメ
「上司に婚約している恋人を奪われたけど、昔から俺の事を狙っていたヤンデレ社長令嬢と結婚することになったから、やり直そうと言われても無理です!」
の主人公の婚約者を奪う上司の柊木廉(ひいらぎ れん)にそっくりだな。
おや?
俺は、今、この男からキスをされてそうだったんだよな?
確か、柊木は女を取っ替え引っ替えしていたけど、男には興味はなかったはずだぞ?
俺は周りを見ると時間は夜だったらしく、窓ガラスに、顔は綺麗だけど、どこか厳しい印象を与えるような顔をした女性が映っていた。
その姿は俺の動きと連動していたから、どうやら俺の姿らしい。
そしてその姿は・・・、上司に奪われる婚約者の女・・・、豊見城紅葉(とみしろ もみじ)にそっくりだった。
「ええ〜!!」
俺はパニックを起こしてその場を離れようとしたけど、
「待ってくれ!紅葉!」
柊木の声が響く。
いや、何を名前呼びしてんだ!?
紅葉はお前の彼女じゃあねぇ!
なんて思ったら少し落ち着いてきた。
俺は誰なんだ?
俺の名前は?
えっと。確か、金澤拓真(かなざわ たくま)、女ではなく男で、年齢はアラサーていうか三十代だったはず。
これってアニメ世界に転生したってやつか?
じゃあ、俺は死んでしまったのか?
それとも単なる夢か?
でも、今、柊木を掌底で殴った手の感触では、夢ではないはず。
俺は怖くなって自分の身体を抱えるような格好で慄えていると、
「どうしたんです!何か困り事ですか?」
騒ぎを聞きつけたのか、警察官が2人、声をかけつつ、こちらに向かってきた。
俺は自分の格好を見た。
スカート、そんなには高くはないけどややヒールのある靴・・・、駄目だ、こんな格好だと走って逃げるのは無理だな。
俺は大人しくしていたが、そんな俺の態度から声も出せないような状況だと判断したのか、警察官は少し優しい声になり、
「警察です。もう大丈夫です。安心し下さい。」
と俺に話しかけてきて、柊木と俺の間に少しだけ強引に身体を割り込ませ、もう1人の警察官は柊木と俺との距離を離そうとしていた。
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