プレゼントfor

裂けないチーズ

プレゼントfor

 私の家のトイレにはもうとっくに香りの消えたフロアフレグランスがいる。隅で固くなってもう動かない。ゴミになっている。だからと言って簡単に捨てられるものでもなかった。

 高校三年になってからはじまった誕生日プレゼントの習慣に私は最初乗り気ではなかった。Mが突然みんなで金を出し合えば結構いいものが買えると言い出した時は余計な事を言わないでくれと思った。プレゼントは学校の帰りにショッピングモールで買う。わざわざ遠出するほどのやる気はだれも持っていなかった。それでもみんな真剣考えて選んでいた。もちろん私もやるからには喜んで欲しかった。最初に誕生日を迎えたSには革製の筆箱をチョイスした。結局高校生が徒党を組んだところで大したものは買えなかった。それでもプレゼントを受け取ったSは芯から嬉しそうだった。喜んでいた。しばらくして今度はYの誕生日が近づいてきた。プレゼントの選定を始めていい事を思いついた。私の誕生日は六人のなかで二番目に遅い。プレゼントの値段を少しづつ上げていけば私の頃にはなかなかいい物が貰えるのではないか。まずは前回より少し高い値段と不釣り合いな商品を推薦する。それを却下させ、今度は少し高いが質の良いものを持ってくる。早速作戦を実行した。結果から言って作戦は成功した。何軒か回って高めのカーディガンを買うことができた。前回から五百円ほどアップしたが5人で割るので大した負担ではなかった。勢いそのまま3人目も成功させ、4人目のプレゼントはマフラーと手袋で合計七千五百円になった。順調に作戦が成功し、私は自分は一体何が貰えるんだろうかとワクワクしていた。そうやって迎えた誕生日当日。しかし、いくら待ったところでプレゼントが渡されることは無かった。流石に催促することは図々しいかと思って少し待つことにした。テストや受験で忙しい時期だから予定が合わないのだろう。一応サプライズという体をとっているからそれを私に伝えることはできないだろうし。結局一週間程度待ってみたが全く気配がなかった。痺れを切らした私はグループラインで催促することにした。誕生日プレゼントとだけ打って送信した。土日を挟んで学校に行くと朝一番でプレゼントを渡された。内容はステンレス製のジョッキとフロアフレグランスだった。後で調べたら合計六千五百円くらいで少し値段が下がっていた。でもその時はそんなことより友達から誕生日プレゼントを貰ったという事実が本当に嬉しかった。値段を知った後もそれは変わらずプレゼントは値段じゃないなと思った。ちなみに遅れた理由は普通に忘れていたらしい。あと私のプレゼントを買いに行った五人はそのせいでコロナウィルスに罹った。卒業式の前に感染できてむしろ良かったねと思った。

 私はいつかトイレにいるフレグランスを捨てるだろう。でも今はまだ捨てられない。それはゴミ袋をリビングで閉めてしまうから。トイレまでゴミを取りに行くのがめんどうくさいから。それから友達からもらったプレゼントだから。

 私は今一人で暮らしている。親から支援を受けてはいるが実家にいた時よりは幾分か自由だ。そしてこれから成長にしていくに連れて私はどんどん自由になる。できることが増えてできないことが減っていく。でもそれは自由だろうか。

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