天藍少女と花咲く恋の世界

三冠食酢

第1話

桜ヶ丘高等学校 現在12時35分


昼休みという事もあり1.2.3年生の多くの学生が一斉に食堂へと向かう中、―沖穹 優吾おきそら ゆうごは向かってくる人の波をかき分けるかのように逆方向に進んでいた。


「ちょ……!ちょっとどいて!あぁ……もう!」


弁当箱片手に学生たちを押しのけていく。除けて、分けて、押し進める。

それがなだれ込んでくる人に対してできる一学生の力である。それにしても人が多すぎるだろ。渋谷かここは。


「なんでいつもいつもこうアイツはあそこにいるんだ……」


向かうは中庭。

周りに花々が美しく咲いており、春には1本の桜が咲気誇っている学生にも人気な場所だ。

静かで、ベンチも多く、風通りもいい快適な場所と言っていいだろう。だがそれは昼休みじゃない場合の話だ。


昼休みの時間には食堂で昼食を食べを終わった多くの学生達が中庭にやって来る。

嵐のように大勢来て、雷の如くうるさくて、そして何も無かったかのようにみな帰っていく。

昼休みの中庭とはそんなとこだ。


正直いって中庭で食べるより教室で食べた方が断然いい。机で食べれるし、何より、なんかそっちの方がいい。


それに、あんな人の多い昼休みの時間に中庭で弁当を食べようなんてする人の気が知れない。そもそもあんなところ飯を食う場所じゃない。

人多いし、うるさいし、人多いし。


だけど、そんな場所だからこそ彼女はいつもそこにいるんだろうな━━━━━━━━━━━━━━━


人をかき分けてはかき分けて、優吾がやっと中庭に着くと、多くの人と、様々な花々が咲くき誇る場所に一人、彼女は丸渕メガネをかけ、本を片手にベンチで座ってお弁当を食べている。


「……やっぱりまたここか」


「いいじゃないですか 私ここ好きなんで」


彼女は読んでいる本を置き、どこか自慢げに雨宮 凛あめみや りんは笑顔でそう言った。


雨宮 凛。同じクラスで成績優秀、運動神経抜群、文武両道の才色兼備、まさに完璧超人……とかではなく至って普通のどこにでもいるような女の子だ。


綺麗な目をしていて、背が他の人より少し低くて、よく友達と喋っていて、たまに一人で本を読んでいるどこにでもいる普通の可愛いJK。


同じクラスだから知っているが雨宮さんは結構乙女だ。たまに小っ恥ずかしい乙女な事を平気で言ってくる。

そうゆうところでは、ちょっと変わった人かもしれない。


そんな、どこにでもいるちょっと変わった普通のJKには秘密がある。


「ほらほら、早く隣来てくださいよ〜」


「分かったから焦るな……」


「はやくはやく〜」


雨宮はニマニマと小声で嬉しそうに、こっちに来いと言わんばかりの手招きをする。

僕はそれに従うように雨宮の隣へと座る。


「やっと私の隣に来ましたね!それじゃあ……そのご褒美に卵焼きあげます!」


「いらねぇよ!てゆうか……そうゆうの恥ずかしいからやめろ。周りからなんて言われるか……」


「……周り?周りなんて誰もいませんよ。私達二人の世界なんですから!」



━━━━━━━━━雨宮 凛は普通の女子高生である。一言足すとすれば、「ちょっと変わった」が入るくらいだろう。

そう。ちょっとだ。ちょっと変わった女子高生。

ただ、ちょっと変な力を使う女子高生だ。


「私やっぱりこの2人だけの空間が大好きです」


雨宮 凛は世界を創れる。比喩じゃない。眉唾じゃない。正真正銘世界を創れる。

誰も居ない世界。雨宮 凛と沖穹 優吾以外が居ない世界を。


「ほんと雨宮のその目って綺麗だよな」


「え〜なんですか もっと褒めてくれてもいいんですよ〜!」


「褒めねぇよ!」


この世界を創っているのは、雨宮の目だ。雨宮自身そう言っていた。

その言葉通り、この世界に居る時雨宮の目は天藍のように綺麗な青へと色付いている。


なんでこんなこと出来るか聞いたことあるが、「子供の頃から出来たけど知らん!」とだけ言われた。

知らないならしょうがないな!とはならんがもうぶっちゃけどうでもいい。


そう、ぶっちゃけどうでもいいのだ。この世界は僕にとっては甘すぎる。なぜならここは雨宮 凛による独裁政権の世界。


「ほらほら〜優吾くん!今日こそは私を好きにさせます!絶対に!」


この世界は、僕を堕とすための、天藍少女の花咲く恋の世界である。



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