復讐代行(仮)

凛5雨

第1話 事件概要(前編)

2012年8月15日。広島県呉市の灰ヶ峰の麓にて一体の遺体が発見された。遺体の身元は当時15歳の高橋那海だと判明し、複数の痣や傷から警察は殺人事件と断定し捜査を開始した。

同年10月3日。広島県警呉署は殺人及び死体遺棄の疑いで市内に住む少年少女ら7名を逮捕した。逮捕された者のうち5名は犯行を否認していたが、同年12月には全員が犯行への関与を認め、裁判員裁判により主犯格の少年2人には懲役15年、残る5名には懲役5年から10年の刑がそれぞれかされた。

ここからは捜査によって明らかにされた事件概要を説明する。事件のあった2012年8月15日から約3か月前、主犯格である少年Aは自身の所有する大型バイクにより単独事故を起こした。幸い少年Aに大きな怪我等は無かったが、バイクの修理費用として50万円程を工面しなければならなくなった。そこで少年Aは仲の良かった少年B、Cと共に原付バイクを使用したひったくり事件を画策し、実行に移した。約1ヶ月の間に20件以上のひったくり事件を重ねた彼らは、少年Aが必要としていた50万円以上の金を手にしたが、犯行に味をしめそれ以降も同様の事件を起こしている。

少年らはそのようにして手に入れた金を使って市内にあるガールズバーで豪遊するようになり、そのうち店員である少女D、Eも少年らの犯行に加担するようになった。少女らは、店に来る客の中から大金を持っていそうな者をリスト化し、それを少年らに流すことで効率よくひったくりを重ねる事に成功した。この一連の事件による被害額はおよそ200万円にのぼるとみられている。

同年7月、少女Dはかねてから仲の良くなかった被害女性高橋那海さんを襲う計画を少年らに持ちかけた。少女D、Eと高橋那海さんは同じ専門学校に通っており、元々仲が良かったのだが男女関係のトラブルによって険悪な関係になっていた。当初、少年BとCは「高橋那海を襲ってもあまり稼ぎにならない」と計画を受け入れない姿勢を見せていたが、主犯格の少年Aだけは「性的暴行をしてみたい」と犯行に乗り気であった。

結局最終的には全員が犯行に加担する事を決めた。これには主犯格である少年Aが所謂不良のリーダー格であり、BやCが逆らえなかった事が起因していると考えられた。少年らが立てた計画はこうだ。先ず少女DとEが「仲直りしたい」「直接会って謝罪したい」等と言って被害女性を呼び出し、その後カラオケ等で時間を潰しえから閉店後のガールズバーに被害女性を連れ込む。そしてそこに少年らが合流し、被害女性を暴行してしまおうというものだった。少女Dは勤務態度も良く、店を閉める作業を任される事もあった為ガールズバーの合鍵を所有していた。

犯行当日、少女DとEは高橋那海さんを呼び出すことに成功し、その旨を少年AにLINEで伝えた。少年らは時間が来るまで近くのパチンコ屋で時間を潰すことにして、再び連絡が来るのを待った。少女らは予定通りカラオケで時間を潰していたが、午後0時をまわったあたりで高橋那海さんが「そろそろ帰らないと親に叱られてしまう」と言い出した為このままでは計画に狂いが生じると感じ、トイレに行くふりをしてDとEでどうするべきかを話し合った。

話し合いの中で、少女Eが違法に手に入れた睡眠薬を使って眠剤ハイという遊びを常習している事から高橋那海さんのジュースに砕いて粉末状にした睡眠薬を入れてしまおうと決めた。味の違和感に気付かれないよう、ドリンクバーでココアを入れ、その中に睡眠薬を混入してから少女らは部屋に戻った。

それから約1時間後、高橋那海さんは薬の影響で眠り込んでしまった。ガールズバーの閉店は1時なのでそろそろ会計を済ませてカラオケを出ようとしたのだが、想定していた以上に薬が効いてしまい被害女性が全然目覚めなかった為、少女らは仕方なく少年Aを呼び出した。ぐったりとした高橋那海さんを抱えて店外へと連れ出す様子がカラオケ店の防犯カメラにしっかりと写っており、これが少年逮捕の切り札となった。

そうして被害女性をガールズバーに連れ込んだ少年たちは、まだ意識が朦朧としている彼女に対して様々な性的暴行を行った。そのうち被害女性の意識がハッキリとし、彼女は泣きながら必死に助けを乞うたが少年たちは聞く耳を持たず、それどころか泣いて暴れる彼女を静かにさせようと殴打したり首を絞めたりと非道の限りを尽くした。その様子を少女D、Eの両名はスマホで録画したり、時には罵声を浴びせ、火のついた煙草を被害女性の体に押し付ける等した。

このような地獄の時間は約3時間にも及び、高橋那海さんの体には無数の痣や火傷が残った。時刻は朝方の4時に差し掛かっており、少年達は被害女性をどうするか議論を重ねた。少女Dは「動画もあるし、これで脅せばコイツは何も喋れないだろう」と言ったが、少女Eは「それでも警察に駆け込まれる可能性がゼロではない」と反論した。少年BとCは恵まれた家庭環境であり、良い大学に通い世間一般では優等生で通っていた為、この事態が警察にバレることを酷く怖がった。

そうして答えの出ない議論が続いていたが、その均衡を破るように少年Aが口を開いた。


「殺して山に捨てよう」


その言葉に一同は一瞬固まったが、次第にそれ以外の選択肢が無いのではという空気が流れ始めた。何より彼らの決断を急かしたのは、後1時間もすれば辺りが明るくなってしまう事だった。少年AはBに車を取りに行くように命じ、Bは家へと一旦戻り父親の車に乗って戻ってきた。夜明けまではあと20分程だ。少年達はまだ意識のある被害女性により一層激しく暴行を加え抵抗出来なくしてから、Bの乗ってきたワンボックスに彼女を押し込んだ。

「灰ヶ峰方面に行け」

少年Aの命令に、Bは灰ヶ峰方面へとハンドルを切る。なるべく人目につかないよう一度西畑方面へと車を走らせた後、くねくねとカーブの続く山道へと入った。



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