第一章 殺意渦巻く戦乱の世
第一話 乱世
第二次戦国時代の異名を取る混沌の時代。
かつては
平和を愛する劉円に反旗を翻す者はいなかった。劉円政権は長きに渡り君臨し、日輪に
しかし、
倒幕を
腕に自信のある者は猫も
殺し屋の暗躍により、名を揚げることは死に直結した。台頭する
こうして、世の勢力は
そんな血で血を洗う
要人の護衛を
その無双の力に、人々は
《
◇
誰もが殺し屋の脅威に怯える中、
日輪の南端に位置する深い
播宗は農業に人員を注いでおり、戦力に数えられる
それでも、播宗城は築城から三十五年が経過している。倒幕以降も国が健在であるのは極めて稀なことである。
人間は誰しも、睡眠という生理現象には抗えない。無防備を曝してしまう深夜の襲撃は暗殺の基本であり、単純明快かつ効果的な手口だ。
現われた殺し屋は、
しかし現代に於いて、夜半の襲撃は常に想定されている。播宗も例に漏れず、夜の警備を怠るはずもなく対処に応じていた。
だが殺し屋にとっても、当然ながら夜警の厳しさを想定している。力押しで事を為せるよう己を鍛え上げ、領主についての前情報を綿密に調べ上げている。
忍はあらゆる忍術を駆使して、目標を討つべく城内を駆け回った。播宗の家臣は忍の動きを捉えることができず、領主の目前まで侵入を許してしまっていた。
あわや大惨事であったが、来襲した忍は床に倒れて気絶している。ある者の働きによって、領主を手に掛けられる前に忍を打ち倒すことができたのだ。
荒れ果てた寝室の中で、領主の田鍋は打ち震えていた。
「また刺客……。もう、こんな生活は
田鍋の傍らに、彼を護衛する小さな人影があった。
肌と瞳を除けば全身が黒一色。まるで夜のような装束に身を纏う、
「お主が播宗の領主である以上、避けては通れぬことだ。
忍を討った少女は一言の苦言を放ち、脇差の刀身を腰の鞘に納めた。
その刀身に返り血はない。
腰まで掛かる少女の艶やかな黒髪は、戦闘の直後だというのに全く乱れがない。
「さぁ、その忍の者にとどめを刺してくれ」
田鍋の要求に対して、黒髪の少女は首を横に振った。
「……何度も言うが、わしは殺生をせぬ。こ奴は領外の茂みにでも放り投げておくが、それでよいな?」
少女がそう告げると、田鍋は壁に拳を突きつけて声を荒らげた。
「あなたが刺客を殺さないから私は狙われ続けるのだ! 修羅狩りと契約をしているというのに命を狙われるなんておかしいだろう!」
怒気が込められた田鍋の異論を聞き、黒髪の少女は頭を掻いて嘆息を洩らした。
「わしの遣り方が気に食わぬと言うのなら、他の者にでも護衛を頼めばよかろう。わしは主義を変えぬ。……それから、わしとの契約も残すところ後一週間だ。どうする? 延長はやめておくか?」
「それは……」
田鍋は頭を抱えて返答に困っていた。だが選択肢はないも同然である。
「……あなたの手腕を信用している。だが、契約のことは考えさせてくれ」
「承知した。もしよければ、わしの知る
思いがけない提案を聞き、田鍋は少女の肩を勢いよく掴んだ。
「――ほ、本当か!? お願いする! 早速、明日にでも会わせてくれ!」
先ほどまでの憂い顔とは打って変わり、その表情は希望に満ちて輝いている。
田鍋の即答には一切の迷いがみられず、少女の心は少し傷付いていた。
「決断が早い……もうわしと契約を延長する気はないようだのう。もっと悩んでから決めてくれてもよいのではないか……? わしが嫌いになったのか……?」
少女の呟くような質問に対して、田鍋からの返答はなかった。彼は既に布団に潜り込み、安心したように
少女の名は――
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