何のための人生か。

ー爆破が発生した件の3日後ー


「サカモト、あの件は、事件か事故か。どっちだと思う。」カトウがサカモトに、デスクワークをしながら訊いた。


「どうしてそんなことを訊くんだい?」サカモトは言った。


「いや、あのな。実はな、今、俺のPCに、とある情報提供者からこんな情報が送られた。あの爆発のとき、特異生物管理棟では、人徳に反するような凄惨な人体実験を行おうとしていたという。ただ、その際、被験者となっていた人物は、水色世紀の内通者であったと。ただ、今回、内通が発覚し、凄惨な人体実験の被験をさせられようとされたが、足首に爆弾をつけて、実験の実施寸前に爆破を行ったらしい。」


「なるほど。ただ、なぜ外部の組織である22世紀電力の施設を使った?」


「いいか。逆にそこがミソなんだ。22世紀電力の施設を使い、しかも、あの「よろず」と呼ばれる怪物が幽閉される23号隔離水槽付近で実験を行おうとした。分かるか。因みに、私は、その内通者に罰を与えることだけが目的ではなかったと思っているぞ。」


「えぇと。」


「まったく。勘が悪いのか知り得ていないのか分からないが。「よろず」は雌雄同体だ。つまり、私は、被験者の生殖細胞と「よろず」の生殖細胞の間で受精を行おうとしていた可能性があるとみている。」


「えっ。でも、我々人類とよろずでは、生物種が全く異なるのではありませんか。」


「そう思うか?実は、最近、知りえた情報なんだが、よろずは機械生命の可能性があるとの情報を得た。この情報は、よろずが生物としては考えにくいのにもかかわらず、この島の電力の50%を常に供給していることから、一理あると思う。つまりだ、よろずは機械生命であり、人間とのハイブリッドの作製も可能。これを利用し、水色世紀は、莫大なエネルギー源を大量生産することを試みたとすれば、納得がいくだろう?」


「確かに、では、そのあたり、翌日にでも、サナダさんと調査しましょう。」


「そうだな。それが良いと思う。」


ー翌日ー


「大丈夫かな。」


この日、サナダは、サカモトとカトウ(今は、コンビニで若者向けの雑誌を読んでいる。)を車に乗せ、4日前にサカモトが待機していたコンビニの前の駐車場に停まっていた。


「どうしたんですか。サナダさん。」


「いや、というのもな、その人体実験を行おうとしていた証拠を集めると言ってもな、証拠周辺に水色世紀の関係者がまだうろついていて、多勢に無勢になる可能性もあるんだな。」


「いや、サナダさん、それに関しては、安心してくれて大丈夫です。つい先日、22世紀電力の社員が特異生物管理棟の周辺を捜査しました。そのため、おそらく当分は、あの施設にはでてきません。」


「なるほど。ただ、証拠がその社員によって回収された可能性はないか。」


「残念ながら、可能性としてはあります。ただ、行ってみなければ分かりません。ですから、ひとまず行ってみましょう。」


「分かった。」


サナダは腰を上げた。



ー特異生物管理棟にてー


「この扉、開けるぞ。」


「はい。」


地下に降りたサナダは、特異生物管理棟の入り口となる扉を開けた。


「うっ。なんか腐敗臭がする。」カトウが口を腕で覆った。


なんと、扉のすぐ向こうには、若干、腐敗が進んだ、人の死体が置かれてあった。


「おっと。これはいけない。さぁ、皆、手を合わせなさい。」


ー成仏できますように。ー


「よし。では、行くぞ。」


3人は足を踏み入れた。


緑の不気味な光。赤き不気味な光。青き不気味な光。とにかくあやしげな光が3人を照らし、この神殿から彼らを出そうとする。だが、彼ら3人の気概に足元にも及ばず。


「サナダさん、何かが書かれたメモが。」サカモトが言った。


「証拠か。」サナダは食いついた。


「えぇ。かろうじて判読できるほどの文字が文として羅列されているように見えます。」


「読めるか。」


「えぇと、被験者の生殖細胞を抽出し、、、、。まぁ、断片的なんですか。」


「大丈夫。確かに充分な証拠とみられる。持ち帰って精査しよう。それとだ、もっと証拠があるかもしれない。特に、このメモ。メモを重点的に探そう。」


「はい。」


ー調査終了後ー


調査の結果、3人は、4枚の、メモの切れ端を入手した。つなぎ合わせて解読を試みると、「財閥撲滅、社会是正」、「人体実験成功、電力大量確保へ道筋」などといったことが書かれていた。


「サナダさん、このメモ、『財閥撲滅、社会是正』というところが気になりませんか。」カトウが言った。


「あぁ、これまであの組織は、何が目的なのか釈然としなかったところがある。だが、今回、目的が見えていたかもしれない。」


「見えましたか。推測で良いので教えてくれませんか。」


「いいぞ。教えるぞ。私の推測だが、この財閥撲滅とエネルギー大量確保は、計画として連結されている可能性がある。というのも、この島の10の巨大財閥のうち8財閥が電力会社を所有している。あの22世紀電力だって、神谷財閥が所有している。つまりだ、水色世紀の計画は、電力全体を支配する財閥が君臨する歪む経済構造を是正することなのではないかということなのではないかということだ。」


「えっ。ということは、実は、水色世紀は慈善団体なのですか。」


「いや、そんなことはない。先日、地下鉄の駅構内でテロがあっただろ。あれは、水色世紀にいた人物が実行した。証拠として、あまり知られていないが、水色世紀が実行したという声明を出していたし、指紋も採取され、水色世紀にいた人物が実行したと確定した。」


「なるほど。理想は良いが、過激な手段を厭わない、危険組織ということですか。」


「そういうことになる。それにだ、決して正当な手段でこの経済構造を是正するとは限らない。」


「えっ。」


「財閥幹部の暗殺の可能性がある。この島には警察がいないから揉み消しはたやすい。」


「一理ありますね。その線、覚えておきます。」


ー22世紀電力に勤めた人ー


今、ここに、かつて、サナダが地下神殿のように感じた施設に左遷された人物がいた。

名は、今宮。22世紀電力ひいては神谷財閥そのものに嫌気がさしていた。というのも、彼女は元々、神谷財閥幹部候補であったものの、カミヤ会長の経営方針に、上司に連れてきてもらった役員会議の場で反対するなどし、会長の怒りを買って左遷に追い込まれたのだ。


だが、意外にも、彼女は、自分が左遷されたことを機に、もはや達観した気になっていた。

ーそろそろ、この社会の奥底に眠ってしまいそうだ。ー 彼女はそう感じた。


勤務が終わり、彼女はタイムカードを切った。そして、居酒屋に入り、酒で辛いことを忘れようとした。だが、店に入る前に彼女の目にはこんなものが入ってきてしまった。

「水色世紀は素晴らしい思想団体」。そう。水色世紀の勧誘ポスターだ。


水色世紀は、こういう弱っている人につけこみ、搾取するだけ搾取する。そういう手口がこの組織の常套手段なのである。


ー良いかもしれない。ー


今宮は、そのポスターを見て何か引き込まれるものを感じてしまった。ここまでくれば、もう後戻りはできないも同然。彼女は、その場で入会することにしてしまった。


ー水色世紀の事務所にてー


「本当に来てくれるなんて嬉しいよ。今宮さん。」事務所の応接室で顔立ちの整ったスーツ姿の若い男性が今宮に言う。


「ありがとうございます。」


「ふふ。じゃあ、この書面にサインして。そしたら、もう君も水色世紀の一員だから。」


「はい。」


今宮は、サインをした。


「できました。」


「ありがとう。これで本当の本当に君も水色世紀の仲間だね。」


とにかく親しげな口調で話す男。胡散臭く思えるが、弱っていた今宮は引き込まれるしかなかった。いや、引き込まれるようと願ったというのがもっと正確な表現かもしれない。

ただ、そのようなことはどちらでもよくて、問題は、彼女のその後の動向だ。


彼女は、4月に地下鉄でテロを起こした犯人を見張る仕事が、水色世紀への協力の最初だった。


次の仕事は、水色世紀の研究所における事務職だった。ただ、これは、無機質にライフル銃を撃ち、殺しを厭わない眼光の鋭い人物を目撃してしまい、精神を病んで辞職した。

ただ、良くも悪くも精神を病んだ人も見捨てないのが水色世紀の特徴。


彼女は、病院に通いながら治療をしていたにもかかわらず、水色世紀は再び言葉巧みに勧誘し、再雇用。かつての職場の一つであった特異生物管理棟での爆破をやらせた。


そして、今、洗脳され、もはや正常な判断などできなくなっていた彼女は、最後になるかもしれない大仕事をやろうとしていた。




ー4日後の夜の、22世紀島の港湾にてー


この時、この港湾施設では、コンテナを隠れ蓑にしてうろつく怪しく漆黒の人物がいた。今宮だ。

ー22時16分頃、この港に着くはずの神谷財閥幹部がいるはず。ー


この日、22時16分、この港湾には、神谷財閥幹部のカミヤがいた。彼は、老年であったが、真摯に若者を尊重する姿に皆が尊敬していた。ただ、皆が尊敬していたわけではなかったようだ。

というのも、今、この漆黒の女は、今、カミヤが到着しようとしている今、殺気立っている。

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