悪夢か。

ー翌日ー

 

 翌日、サナダは、22世紀島の地下に位置する地下神殿のような施設にやってきていた。とある情報筋によると、どうやらサナダは、小学生を対象としているであろう施設見学の募集に応募して当たったらしい。ただ、サナダが応募した理由は「見学」などという生半可なものではない。


 この施設には、「よろず」と呼ばれる怪物が幽閉されている。そのうえ、この「よろず」という怪物は、電気鯰に姿が似ていることからある程度は想像がつくかもしれないが、大量の電気エネルギーを放出する能力を保持している。このことから、この島の電力会社である22世紀電力は、島の電力の50%をこの怪物に提供してもらっている。


 だが、30年ほど前から、時々、この怪物の殺害を目的とした殺害未遂の事件が起こっている。しかも、今回もまた殺害を計画しているという情報が入ってきた。情報源は、東南アジアの銀行員。不可解な送金を発見し、我々に通達した。営業秘密の漏洩防止よりも22世紀島のことを思ってくれたそうだ。


 サナダは、その銀行員が提供してくれた情報を顧み、この地下神殿のような施設の見学に来ていた。ちなみに、サナダは「よろず」の生存区域を知っている。この施設特有の呼称で言うと、特異生物管理棟23号隔離水槽である。


 さすがに、その部屋に入ることは、背水の陣となることが予期される。そのため、サナダは、特異生物管理棟の周辺に何か殺害の事前準備となる物品が落ちていないか確認する。

ー落ちていたら、殺害防止策も立てやすくなるのだが。ー


 ドカーン。確認をしていると、近くで爆発が起こった。サナダは、頬を爆風で飛んできた破片で切ってしまった。血が滲み出る。だが、痛がってばかりもいられない。すぐさま、その場をあとにする。現在、銃器等を持たないサナダでは、高確率で多勢に無勢と思われた。


 ーピリピリ。ピリピリ。ー 地上でコンビニに待機していたサカモトのもとに電話がかかってきた。


「サカモト、聞こえるか。」


「聞こえます。どうしたんですか。」


「特異生物管理棟付近にて爆発が起こった。私は、顔に擦り傷を負った程度で軽傷だ。だが、水がいくつかの貫通した穴から水が漏出している。23号隔離水槽からの漏出の可能性が高い。だから、車に詰め込んでおいたたくさんの栓を持ってこれるだけ持ってきなさい。急速な水位低下も危ぶまれる。」


「分かりました。」


ーえぇっと。これだよな。うん。これだ。ーサカモトはありったけの栓を取り出し始めた。


 サカモトとサナダがこんなに急ぐのには理由がある。というのも、22世紀電力は、これまでも多数の原発におけるテロ発生を許してしまってきた。そのために、この「よろず」からののエネルギー供給に活路を見出したのだが、こういう一刻を争うような有事の際にもすぐに出てこないエネルギー安全保障に相当疎いことで知られていたのだ。


「サナダさん、栓を持ってきました。」サカモトの声が、高速で空を切る矢のようにサナダの心を刺激した。


「サカモト、ありがとう。今すぐに刺そう。」


こうして、この件は一件落着とすることができた。

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