17 コニーの部屋で
私は寮のコニーの部屋に来ています。今日は図書館に行く時間はありませんでした。お兄様が私とコニーを案内してくれて、学院のあちこちでいろんな人と会話して、図書館に行くほどの時間は残らなかったのです。有意義な時間を過ごせましたけどね。
案内が終わっても夕食のために食堂に向かうにはまだ早かったので、お兄様とはひとまず別れました。お兄様が女の子同士で仲を深めたらどうかと
「何もない部屋ですが……」
「ふふ。あなたも言っていましたが、本当に荷物を置いてすぐに図書館に向かったのですね」
「あう……恥ずかしいです……」
本当にコニーには親近感がわきます。私も本を読むのが大好きですから。
部屋には備え付けの家具と控えめな量の荷物があるだけで、まだ生活感はありません。コニーは平民ですから荷物も多くはないのでしょう。荷物もきちんと整理してあるわけではなく、いてもたってもいられず図書館に向かったコニーの姿が目に浮かびます。
「私とコニーの部屋はすぐ近くですから、いつでもお互いの部屋に訪問できますね」
「え? そうなのですか? 貴族様はほとんどの方が別の階だと聞いていたのですが」
「私はこの学院で自分の身の回りのことは自分ですることも身につけようと思いますから」
寮は男女別で、規則としては異性の生徒の立ち入りは禁止されています。その男女別の寮でも階で区別はあります。それは貴族と平民という区別ではありません。部屋の整理や掃除などを自分自身でするか、それとも学院で雇用しているメイドにさせるかの違いです。なお生徒の自立性を養うためとして、実家から専属の執事やメイドを連れて来ることは許可されません。
当然と言うべきか貴族のほとんどは細々とした仕事は全てメイドにさせることを選ぶそうです。その場合は学費に加えてメイドに仕事をさせるための料金も請求されます。ですから平民出身の生徒は裕福な商人の出でもない限り自分で身の回りのことをしなければなりません。学業の邪魔にならないように、食事の準備や洗濯などの時間がかかる作業は全ての生徒がサービスを提供されることになっていますけどね。
お兄様も寮では身の回りのことは自分でしています。それもお兄様が平民の人たちにも慕われている理由の一つなのかもしれませんね。
「あの……ところでオリヴァー先輩には恋人はいらっしゃるのでしょうか?」
そのコニーの様子は、恋する乙女と言うよりはまだ
「お兄様にはたぶんまだ恋人はいないと思います。今はまだ恋愛より学業を優先したいと言っていましたから」
「そうですか……」
コニーがちょっとホッとしたという様子になりました。
私は
「ですが私とコニーはライバルになるのかもしれませんね」
「……え?」
コニーはなんのことかわからないという様子です。
「お兄様は養子で、私とは血縁的にはいとこなのです。お兄様がワイズ伯爵家の次期当主なのですが、現当主であるお父様との結びつきを強めるために、お兄様と私が婚姻することもありうるのです」
「ええっ!?」
コニーが絶望というか、望みはないかもというような顔をします。この子も表情豊かでかわいいですね。
「ふふ。冗談です。私とお兄様は実の兄妹のように育ってきましたから。お父様とお母様もお兄様のことも実の息子のように愛していますしね」
「そ、そうですか」
コニーは露骨にホッとした顔をしています。私はコニーをちょっとからかってみたのです。お兄様は時々私をからかうのですが、確かにこれは楽しいですね。ただ私もコニーをからかうにしても害のない範囲にとどめないといけません。今回はコニーの淡い恋心をからかったのですが、少し悪趣味だったでしょうか。
「ただ、お兄様を巡るライバルがいるのは事実だと思います」
「そうですよね……パトリシア先輩はどう見てもオリヴァー先輩のことが好きですよね……」
「ええ」
パトリシア先輩の様子はどう見ても恋する乙女のそれでした。そのお相手はお兄様だとしか思えません。お兄様は恋愛には
「それに私は平民ですし……」
「望みを捨てるのは早いと思いますよ?」
「え?」
「お兄様は、自分は政略結婚をすることになるのだろうと言っていました。つまりあなたがワイズ伯爵家にとって有益な存在になれるならば、その可能性はあります」
「!」
「お兄様は政略結婚でも妻となる人を大切にするでしょうし、お兄様自身があなたを愛するならなおさらです」
「は……はい!」
コニーも素敵な笑顔ですね。この子は美人ですし、お兄様と並んでも見劣りはしないでしょう。この子がお兄様にふさわしいのかはまだわかりませんが。ですがワイズ伯爵家には平民を見下す風潮もありませんから、もしこの子がお兄様と婚姻しても居心地が悪いと感じることはそうはないでしょうね。あくまで可能性はあるという程度で、難しいことも事実なのでしょうが。
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