03 転生少女は大賢者を目指す 02

 そして食事も終わり、家族の団らんの時間です。家族四人がそろうのは久しぶりです。私より二歳年上のオリヴァーお兄様は、ワイズ家初代ザカライアの名を冠した全寮制の学校、ザカライア学院に通っているのですから。お兄様は年度変わりの長期休暇を利用して帰省しているのです。



「お兄様は学院では問題はありませんか?」


「ああ。仲良くしてくれる人たちもいるし、楽しんでいるよ。全く問題がないとはいかないけど、それも対処できている」


「オリヴァーは成績も良くて人望もあると通知を受けていますしね」


「うむ。なによりなことだな」



 ザカライア学院。それはアーヴィン王国が成立する前からある、知識、魔法、そして騎士としての力と精神性を養うための学院です。現在の学院はワイズ伯爵家との直接のつながりはなく、王国に対しても独立性を維持しています。王国の貴族、そして王族さえも、一定年齢において学院に入学することがなかば義務のようになっています。高貴な者も一度家を出て、社交性を養えという意味もあるそうです。お父様とお母様もかつて学院に入っていたそうですね。

 なお学院には高貴な身分の人ばかりではなく、優秀な平民も奨学金を与えられて入学する資格を得られます。学院入学は平民にとって数少ない栄達への道の一つらしいですね。ただ貴族出身の生徒には平民出身の生徒を見下す人もいるとか……

 学院に入学している人でも生徒によって得意不得意はあり、魔法使いとしても戦士としても優れている人はほとんどいないそうです。大まかに騎士として鍛えることを優先する人たちと、魔法使いおよび賢者として学ぶことを優先する人でクラス分けされるそうですね。ただ厳密に分けられているわけではなく、他方のことを学んでもいいそうです。

 そしてお兄様は優秀な成績をおさめており、さすが知の名門ワイズ伯爵家次期当主と尊敬されているそうです。お兄様は謙虚けんきょな方ですから、家族に自分からそれを言うことはないのですが。学院からの通知を受け取ったお母様が、私も見習いなさいと毅然きぜんと、それでいて優しく言ってくれたのです。そう、私も近いうちにザカライア学院に入学する予定なのです。



「だがオリヴァーに続き、エマもこの屋敷からしばらく離れるとなると、寂しくなるな」


「ほんの数年の我慢ですよ。あなた」


「うむ……だがエマが心配で心配で……」



 お父様もお母様も家族を愛しています。ただお父様はそれがちょっと行きすぎのようで、私としては少し不満もあります。私が頼りないのも事実であろうとは理解できるのですが。



「オリヴァー。お前もエマの面倒を見てやってくれ」


「お任せください。父上。ですがエマは父上が心配するほどか弱くはないですよ」


「はい。お父様が心配してくださるのはうれしいです。ですがあまりに心配されると、私が頼りないと思われているのではないかと思えて……もう少し信じてほしいです……」


「おおおお!? エマ、そんな悲しそうな顔をしないでおくれ! お前を信じていないわけではないのだ!」


「あなた。エマの言うとおりですよ。あなたはエマに対して過保護すぎます。ですがエマも、お父様はあなたを信じていないわけではないと、わかっているのでしょう?」


「はい。それは重々承知しています」



 お父様は私に対して過保護すぎるのです。それも私を愛してくれているからこそなのですが。お父様も私の知識と魔法の実力は見所があると認めてくれていますし。

 ですが私も、この程度では周りの人たちから私は大丈夫だと思われるほどではないということも理解しています。それも含めて、お母様とお兄様は私を認めてくれているのです。私も未熟なりに頑張っているのだと。



「ですがあなたも心配しすぎです。魔法の威力については、エマを上回る者はそうはいません。下劣なやからに絡まれても、自力で退けられるでしょう」


「その前に私が対処しますけどね」


「お兄様がいてくれるのは心強いです」


「うむ。オリヴァーも頼りにしているぞ。エマを守ってやってくれ」


「はい。お任せください、父上」



 私は魔法使いとしてはまだそこまで多くの種類の魔法は使えないのですが、使える魔法の単純な威力では、私以上の人は人間種族にはそうそういないそうです。魔法に優れている種族にはちらほらいるかもしれないそうですけどね。私にはまだまだ足りない部分も多いですし。私も精進しょうじんあるのみです。

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