バッドエンドは似合わない
ずんださくら
第1話
「あなただけの物語を演じよう!没入型演劇ゲーム『メリー』を今すぐ体験しよう!お求めは下記の電話番号へ_____ 」
***
「みんな、卒業おめでとう。卒業しても元気でね。」
「先生こそ、退任したら執筆に専念するんでしょ?頑張ってね。」
「出版したら教えてね?絶対読むんだから」
ここはある田舎の中学校。駅からは少し遠いけど、自然豊かで色んなお店も近いから、生徒からの評判は高い。
ただ…
「でも、なんだかさみしいね。私たちが大人になっても、もうこの校舎はないって考えると…」
「こればっかりは、少子化を恨むしかないねぇ」
もうこの学校には3年生40人しかいない。
その3年生でさえも、今日で卒業だ。
「それで先生、どんな物語を書くかは決まってるの?」
「うーんそうだねぇ、異世界転生ものか、デスゲームか、はたまた悲劇の恋物語か…正直まだ迷ってるんだよねえ」
「…先生って、歳の割に描くマンガのセンスは若いよね」
「そうかな?あはは…」
そんな俺たちの最後の担任を受け持ってくれたのは、この物腰柔らかな漫画家兼公民教師、
道野先生は決してもう若いとは言えない年齢だが、処女作がラブコメ、小ヒットを出した前作は日常系ギャグ漫画と、若者向けな上にジャンルが広い。
他の先生はさっさと帰ってしまったと言うのに、道野先生だけは教室に生徒が居なくなるまで、こうして残っていてくれている。まだ教室には4,5人の生徒がいる。当分先生は帰れないだろうな。
俺の名前は
卒業生の1人だ。
「黒谷もさみしい?何?泣いちゃう?」
「寂しいに決まってるじゃん。…泣きはしないけど…俺は大学県外だし、みんなと会えなくなるのはフツーに辛いよ」
「いがーい。あんま喋る方でもなくなかったー?」
いや別に、人並みくらいには喋ってたけど…。
コイツは
「センセー、さっさと描き始めなきゃ、流行る時期も逃すよ?」
「マンガを描くにもイメージの練り上げは不可欠なんだよ…」
誰にでもよく喋る。
先生にその言葉遣いはどうなんだお前…
今くらい生徒の卒業の余韻に浸らせてあげようぜ…
そんなわちゃわちゃした校舎に近づいてくる者があった。家が遠い子の保護者だろうか?
「?先生、あの方は…?」
「ああ、遠野くーん?保護者の方が来られたよ」
「ん、ありがとうございます。じゃあごめんねみんな、もう帰るから〜」
遠野はメガネをかけた文学少年…のような印象が強いが、実は陸上競技で県大会優勝まで上り詰めた瞬足である。
遠野のお父さんは小説家だから、道野先生と話が合うらしい。
「先生、お世話になりました」
「いえいえ、こちらこそ…」
この会話は保護者と教師としてだろうか、それとも…。
「さあ帰るぞ。はよせい。」
「もう行けるよ。じゃあねみんな、元気で。」
「うん、遠野くんも元気で!」
「あ、そうだ。先生?」
遠野のお父さんが道野先生を呼んだ。
「もし小説のストーリー作りに困っているなら、最近プチ話題になってる演劇ゲームをやってみてはいかがです?」
「演劇ゲーム…メリーとか言いましたっけ。でもあれ、発売はまだ先でしょう?」
「私の知り合いがテスターを探してまして。演者とシナリオライター、舞台袖係に別れて役になりきってお話を演じるゲームなので、人数はいりますが…」
遠野のお父さんはちらりとこちらを見る。
「…俺らにやれと」
「え面白そうじゃん!クラスラインでみんな誘っとくね!1回くらい、みんな集まれるっしょ?」
「紗枝お前…行動早すぎだろ」
「まあみんなが乗り気ならやってみます。シナリオも、用意しておきますよ。」
「なら、声を掛けておきますね。日程などはおって報告します。」
そうして、紗枝の鬼バイタリティと道野先生の鬼コミュ力のお陰で俺たち卒業生全員が明後日、没入型演劇ゲーム『メリー』の体験に参加することが決定した。
***
その日の夜。
ある子から俺の元へ一通のメッセージが届いた。
「誰だろ?紗枝は…どうせ今頃寝落ちだろうし」
メッセージは紗枝の友達、日芽からだった。
そうおもって、スマホの指紋認証ロックを解除してメッセージを開くと、その内容は予想とは違うものであった。
「明後日さ、集合より早く来れない?頼みたいことがあるんだ。」
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