第5話 無礼者に手加減はしません
私は今、闘技場の真ん中でアカディアと名乗る女と相対しています。
何やら教師がどうたらとのたまっていましたが、エルル様に対して無礼な態度を取った時点で、相手が誰であれ生かすつもりはありません。
さて、属性も熟練度も未知の相手ですが、どれほどの腕前なのでしょうか。
「先に気絶、又は降参した方が負けでいいですね?ルゥさん」
「構いませんよ。」
私がそう返事をすると審判役であろう男性の方が出てきました。
なぜエンディミール様が審判をしないのでしょうか?
「それでは双方、配置について。」
辺りを見渡してみると・・・いました。
奥の方にエルル様と隣り合って観戦していらっしゃいますね。
「始め!」
何やら楽しそうにお話しされておりますね。
「よそ見をしているとは大した度胸ですね。」
エルル様が楽しそうなのは非常に喜ばしいですが、それを隣で眺められているエンディミール様に少し妬いてしまいますね。
「『ファイアランス』!」
そういえば決闘をするという話だったはずですがいつになったら始まるのでしょう?
糞女の方に向きなおると、炎で作られた槍がその手から放たれようとしているところでした。
さながら小手調べというところでしょうか、だとすると些か見くびりすぎではないでしょうか。
私は右手を掲げ、魔力を込めました。低級魔術『ウォーターウォール』、特に何の変哲もない水の壁ですが、この程度の魔術を防ぐには十分でしょう。
女から放たれた『ファイアランス』が『ウォーターウォール』に触れると、大量の水蒸気と共に『ファイアランス』は跡形もなく消えていきました。
アカディア先生の『ファイアランス』とルゥの『ウォーターウォール』がぶつかったことによって、二人が立つ闘技場は一面水蒸気に覆われてしまった。
別に大した魔術を防いだわけでもないのに会場は大盛り上がりしている。
「この程度で盛り上がりすぎじゃない?」
「まぁ・・・ほら、みんな学生だから」
エンディが何か裏がありそうな顔をしながら目を背けたけど、別に私が知っていたところで関係ないかな?
しばらくして蒸気が晴れてきた。
そこには涼しい顔して立っているルゥと、その様子に驚いている様子のアカディア先生だった。
「ルゥさん、まさか無傷で凌ぐとは思っていませんでした。」
「あの程度で傷をつけられると思われていたのでしたら、大変不愉快ですね。」
『ファイアランス』なんて低級魔術を真面目に敵を傷つけるために使っていたのでしょうか?
だとしたら相当戦闘が下手じゃないですか?
ろくな効果も期待できない魔術に魔力を使うなんて無駄でしかありません。
少なくとも1000年前の戦争時にはそんな魔力の無駄遣いをしている魔術師はいませんでした。
或いは、平和な時代が続いたことによって基本戦術が変わったりでもしたのでしょうか?
いずれにせよ、こうなると私から仕掛けないとキリがなさそうですね。
久しぶりに対人の感覚を取り戻してみましょうか。
今度はルゥが仕掛けだしたみたいだ。
ルゥを中心に大量の魔力が溢れ出したかと思えば、すぐにそれは大きな水の塊となり、波と化した。
「さて、アカディア先生はあれをどう凌ぐのかな?」
アカディア先生の実力がどれほどの物か楽しみにしていると、隣にいるエンディが声を震わせながら言った。
「アカディア君では・・・あれを凌げない・・・。」
「え?」
今ルゥが発動している上級魔術『タイダルウェーブ』は防御の腕に覚えがある魔術師で無ければ流石に無傷とはいかないけど、それでも真面目に防御すれば死ぬような攻撃ではないはず。
「今の魔術師は平和ボケしているせいでここ100年ぐらいで到達者になれた者はいないんだ・・・。」
震わした声をそのままにエンディが呟いた。
それは非常にまずいんじゃないの?
もしこれを無傷で凌ぎ切って見せたら、流石に崩すのは骨が折れそうなのですが、どのくらい防いでみせるのでしょうか?
「すべてを飲み込んでください『タイダルウェーブ』。」
作り上げた大波を無礼者に差し向けました。
しかし、作り上げた大波は対象に当たる前に見慣れた雷によってすべて蒸発させられてしまいました。
「ルゥ、ストップ。」
金髪の長い髪を揺らしながら、私の『タイダルウェーブ』をいともたやすく消して見せたエルル様は、そう言うと無礼者の方へと向かわれました。
そこで初めて気づいたのですが、無礼者は完全に腰が抜けた状態で、地面にへたり込んでしまっていました。
さらに観客席に大勢いたはずの学生もほとんどが姿を消し、残っている一部もあの女と同じように腰が抜けてしまっている様子でした。
「アカディア先生、どうする?」
こうして、生意気にもエルル様に声をかけていただいた無礼者が降参を宣言したことで、此度の決闘は幕を閉じたのでした。
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