第3話 今更青春始めるの?
「落ち着かれましたか?エルル様。」
ルゥが不安げに聞いてくる。
「うん、少しだけ落ち着いたよ。ありがとうねルゥ。」
ルゥは、それを聞くと安堵した様子で微笑み、そういえばと次の話題を切り出した。
「850年ほど前にエンディミール様より言伝をいただいておりました。」
「言伝?なんて言ってたの?」
少々お待ちください。と言ってルゥは席を立った。少しして戻ってくるとその右手には封筒が握られており、左手には何らかの制服が抱えられていた。
嫌な予感しかしない・・・。
「こちら、アストライア魔術学院の招待状となっております。エンディミール様曰く、生前アストライオ様がよくおっしゃられていた夢を叶えるための物とのことです。」
「夢?魔術を後世に教えて欲しいとかなのかな。」
自慢するつもりはないが、私も戦争時に『雷帝』の二つ名で恐れられた程の魔術師だ。雷属性の魔術に関しては、賢者と呼ばれてるエンディよりも使える自信がある。
とはいえ、1000年間のハンデが私にはあるから言い切ることはできないんだけど・・・。
「いえ、エルル様はアストライオ様に拾われてから、魔術の鍛錬か、戦争しかしてこなかったそうじゃないですか。なので、年相応に友達と遊んだりさせてあげたかったと、生前よくおっしゃっていたのですよ。」
「つまり、生徒として学院に入学して青春しに来いって?」
「そういうことです。」
「1000と100歳は年下の子たちと???」
「私も一緒に入学するのでそこはお相子です。」
「いまさら何を勉強しに行くのさ?」
「青春を送るのがメインなので勉強しなくてもいいと思いますよ?」
「・・・行くのめんどくさいんだけど・・・。」
「でも、これがアストライオ様の遺志ですよ?」
涙目で訴えかけるような目線が痛い。
「・・・仕方ないな。」
アストライオの名前を出されると強く出れず、ついそっぽを向いてしまった。
結局、未だに父親離れができていないのかと思うと、少し恥ずかしい。
あらためてルゥの顔を見たら、さっきの涙目が嘘のような満面の笑みで
「ではそういうことで、準備をしないといけませんね。早速明日制服を着て、エンディミール様のところに向かいましょうか。」
と言いながら制服を広げていた。
・・・嵌められた。
家に来たばかりは、おとなしくて可愛かったルゥがどうしてこうなったのやら・・・。
まぁ、私がアストライオに似たようなことをよくしていたのを見て覚えてしまったのだろうね。
そんな事を思いながら、ルゥによって着せ替え人形にされた私は、まだ見ぬ学院生活を内心楽しみにしながら、1000年ぶりの起床初日を過ごすのだった。
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