転生魔王様、世直し道中

@kodukikentarou

第1話

転生魔王様、世直し道中!

~悪徳暴君勇者をボコります!~

腐臭のする瘴気の混じった、おどろおどしい堀。

空には暗雲立ち込め、稲光。

魔王城。

玉座の間に於いて、人と人ならざる異形の者が死闘を繰り広げる。

人々の希望、勇者、ケイト・バーンシュタイン。

それに付き添うは魔法使い、僧侶、武闘家。

一方はこの城の城主、魔王、バッケ・ゲルドア。

ゲルドアは既に満身創痍。

・・・人間には敵わないな。

そう思った次の瞬間、勇者の聖剣が体を貫いた。

不思議だ。

痛みがない。

死とはこう言うものなのだろう。

徐々にこの意思は、記憶に至っている物全ては消え去るのだろう。

心残りが一つ。

彼女さえ無事ならば、このまま滅ぶのもまた一興。

決して許されない関係。

お守り、もっとも魔王が作った物なので効力はあるかは分からないが、せめて、焼け石に水程

度効いてほしい。

頼む、敵対同士だった神、コーラル・ウェイン。

敵同士だったからの願い。

もしまだ、魂と形容される物が残っているのなら、その魂を滅ぼしてでも、彼女を守ってほし

い。

彼女がいなかったら俺は本当に世界を滅ぼしていただろう。

頼む、頼む・・・。

顔は無いのだろうが何か、熱い物が流れ落ちるのを感じる。

彼女は、彼女は・・・。

ふと、目を開ける。

見覚えのない女性が俺の顔を覗き込む。

「目を開けたわ!ママですよー」

何事か?俺は勇者に討伐されたはず。

・・・あれ?身動きが上手くできない。

横を見る。

鏡だ。

ぼんやりしており、はっきりは見えない。

だが、徐々に焦点が合って来たのか、それが見えた。

・・・何で人間の赤ん坊なのだろうか?

感覚的には莫大な魔力は未だ健在。

使う事は今の所ない。

などと考えていると

「徴税兵だ!金を出せ!」

窓の外を見ると老若男女問わず、殴り飛ばし、金になりそうな物を剝いでいく。

「お、この女、いい値つくぜ!」

こう見ていると、魔族の方が正当だと思う。

現に俺が魔王をやっている時は税は取らず、必要最低限の物品だけ貰っていた。

それだけ。

こんな品位を疑う様な事は決してしない。

まるで盗賊だ。

その盗賊まがいの正規の兵士様が、曲りなりともうちの親に暴力をふるおうとしたので

野蛮だなと思ったので、ちょっと虐めてやるか、と種火を飛ばす。

ケツに火を点けてやった。

「アッつ!?カーチャン熱いよー!?」

皆何が起きたか理解が出来ていない。

俺はオムツを脱ぎ捨て

「元賢者、ファフニードル、俺の目が黒いうちは蛮族まがいの兵など叩き返すぞ!」

何故魔王と名乗らなかったのかと言うと、聞こえ、悪いよな?という配慮。

どんちゃん騒ぎ。

赤子と言えど、賢者がいる事が何より心強いのだろう。

けれども、ああ云う輩は、

「昼間はよくやってくれたなぁ!反逆罪で全員晒し首だぁ!」

あーあ、脳みそ沸いてるな。

更に驚いたのが

「魔法であたしに勝とうなんて100年早い!この勇者、ケイトのパーティーのキューレス・

カミレンの前ではね!」

おいおい、マジか。

勇者一行。

確か魔王・・・俺を倒したら勇者は姫と結婚して、その栄光を称えて君主にすると言い切って

いたような。

それでもって、勇者パーティーの各々に領地が与えられるって言っていた。

勇者が今、君主か。

強盗、盗賊まがいの正規兵達。

それで、底がしれた。

暴君に成り下がったと。

しかも、その勇者のパーティーのこの魔法使いの・・・魔女?はもう少し、いや、お世辞にな

るのでストレートに言うと、百貫デブコングに成り下がっていた。

情けない、こんな奴らに負けたなど、末代までの恥とは人間の言葉。

やりたい放題がまかり通っているのなら、コーラルは何をしているのであろうか?

色々試考錯誤してはいるが答えに至らない。

カミレンは俺と対峙すると

「クソガキ、舐めてると殺すよ?」

こんな魔法使い崩れに負けると?

ふん、さっきの100年早い、返すならば100万年早い。

俺は小さな手で、ちょいちょいと挑発する。

脳みそが元々沸いている沸点低いこのデブをキレさせるのには十分である。

「く、クソガキがぁ!死に晒せぇ!」

大きい炎の丸い玉をだす。

でも丸い玉はいいが、形が所々歪で、中途半端なモノと直ぐ分かる。

ふう、こんな雑魚に負けたのか。

我ながら恥ずべき点と思える。

しょうがない、お手本でも見せてやるか。

俺は詠唱無視で、カミレンの数十倍の巨大な炎の玉を出す。

それを呆けて見上げていたので

「おい、豚、ポークソテーにしてやろうか?」

と発破をかける。

その一言。

戦意を削ぐには十分。

現に顔に血の気が無い。

「ひい!にげ・・・」

逃がさない。

逃がしたらもっと厄介な事になりそうなので。

俺の作った炎の玉は無数の矢となり、野蛮な連中を焼き殺す。

慈悲などない、むしろ絶望的に弱者なので虐殺してやる方が慈悲ではないだろうか?

ここで逃がしたら、他の勇者のパーティーを連れてくるだろう。

厄介事とはその事である。

粗方焼き殺した所で、何やら村人達は俺の事を畏怖の視線で見てくる。

幾ら横暴な人間達でもその人間をゴミカスの如く命を奪った。

俺は

「すまない、俺は賢者なんかじゃない。魔王ゲルドア、それが俺の本当の名だ」

空はどこまでも広い。

龍の様な従魔を創ってその空を駆る。

しかし、赤ん坊の魔王は恰好がつかない。

服ぐらいから何とかするかぁ・・・あ、でも金持ってねぇや。

だったら・・・

旧魔王城。

城荒らしにあったのだろう、宝飾品の類がごっそり無くなっていた。

だが俺の城。

俺しか知らない第二の宝物庫と呼べる所は見つかってなかった様だ。

大量の金塊の山から金塊3本持って出る。

何やら腐臭がする。

そこはかつて俺の軍勢が襲った街、いや、要塞都市。

結局攻めあぐね、撤退した都市だ。

して、その強固で豊かな街から似つかわしくない臭いが何でするのか?

若干興味があるような。

そこで降りて様子なりとも見てみるかと。

竜の角を持ち、降りるよう命じる。

「ひっでえな」

思わず口にしてしまう。

そこは骨と皮だけの人々。

屍すらそこら辺に放置されており、不衛生極まりない。

俺の足にやつれこけた女性が

「み、水を恵んで下さいまし・・・」

ふむ。

どうしてこうなったか聞きたいし、リカバリの魔法を。

俺は相変わらず詠唱しない。

詠唱などする奴はとんと、修行不足だ。

女性を魔法陣で囲うと、発動。

あっという間に死臭が染みついていた女性に活力が戻った。

美人だった。

妾にしたいぐらい。

その女性は、驚き

「あ、ありがとうございます!さぞや名のある方とお見受けします!」

お礼は言われたが、俺からすればこんな事、お茶の子さいさい。

朝飯前の軽い運動にすらならない。

それを考えると、才能の無い人間は何かあれば死する事しかないのなぁ・・・などとしみじみ

思う。

俺の親父、ぶっちゃけると先代の魔王は俺の才能をかって英才教育をつけてくれた。

今、目茶目茶それが役立っているので、感謝しかないのだが、親父は人間界にやたら興味を持

ち人間に扮しては街をよく闊歩していた。

なので悪は悪とよく言っていたものだ。

ただ、正義は茶を濁していた。

正義とは何なのだろうな・・・。

今、どこをほっつき歩いているのか分からない親父の言葉である。

俺もよく分からない。

目の前の女性は本来なら死を待つだけの存在だったかもしれない。

助けてハイ正義、では何か納得がいかないのだ。

高尚な事は嫌いなので切る。

本題に入ろう。

「何でこんな惨状になっている?かつては王都より栄えていると言われていたろう?」

女性は顔から血の気を退かせ、顔をうつむきにし

「勇者のパーティーの僧侶、ロルディスがこの都市に凱旋で入ってきたのが始まりです」

ロルディス。

コーラル神団の僧侶。

自尊心が高い、ナルシスト。

勇者のパーティーの中にあって、本当に僧侶か?と思わせる言動が目立っていたらしい。

自己犠牲の念など持ち合わせている訳がなく、自己中心的な思考を持つ。

隙あらば、勇者を暗殺して、自分こそ勇者と名乗らんとしていたと聞く。

嘘誠、どちらかはしらないが。

どちらにせよ、そんなエセ僧侶が入ったらどうなるかは何となく分かる。

「重税でもかけられたか」

女性はこくんと頷いた。

しかしそれ以外の事を告げられた時、耳を疑った。

「死者の兵団を連れて・・・」

僧侶のくせに落ちるところまで落ちたな。

そんな奴消し飛ばした方が世の為、人の為。

もっとも、元魔王が人間と言っていいのだろうか?

「おーおー、たむろってるたむろってる」

街の中心部で死者に囲まれ、その中心にはいかにも僧侶でしたよ、のロルディス。

パンにバターを乗せ、ソーセージにワイン。

ともかく贅を極めた朝食が出ていた。

ま、アホだから何事もなかった様に消し飛んでもらうか。

俺はこの間、出した炎の玉の何百倍もの玉を作り、放つ。

一瞬。

言葉を発する事すらなく、消えて貰った。

そう、苦しいだの痛いだの、そんな悲鳴を上げる事は、聞く方が「あーあ・・・お約束」なの

で耳に苦痛。

タコでもできた日にはどう落とし前つけるか。

そんな死体蹴りはしない。

いや、死体などない。

今、消し炭、煤にしてしまって、風にそよいでどこか行ってしまったのであって。

街の住人の、4分の3は助からなかった。

それでも俺に感謝してくるのだが、その都度

「俺は元魔王、憎悪の念を受けるに値する」

と返した。

そんな中、この街で一番最初に拾った命、女性、アリス・アクリディリアスが

「私も連れて行って下さい!絶対足手まといになりません!」

何でも聞く所、何とこの街の衛兵長を務めていたそうで腕は立つらしい。

しかも、的確な、痛い所をついて

「いくら元魔王様でも、外見が赤子では舐められるでしょう?」

具の根も出ない。

確かにこの先不自由な事が起きるかもと。

幻術を使えばいいのだが、アレは大変なのだ。

どういう風に相手に見えるか、微調整が大変難しい。

面倒なのであまり使いたくはない。

と、言うか、魔王「様」?

部下達からは当然、様がついていたが、人間は当然つけていなかった。

それを急に様付けされたら気分的に複雑怪奇。

「モーモの里、寄ってみますか?」

アリスが俺を背負い、剣を腰にさし終わった頃、俺は地図を見ながらどこに行くかこまねいて

いるとそう一つ提案。

モーモねぇ・・・。

ミノタウロスの一族だ。

戦闘民族でありながら、のほほんとした平和主義の民族である。

だが怒らすと本当に怖い。

昔、里長と酒の席で殴られて、角をへし折られた苦い思い出がある。

その後、城まで来てめちゃくちゃ謝られた。

いや、俺が悪いのでいいよって言ったのだがどうしても、と言う事で高級なチーズをもらった。

あまりの美味しさに感動した俺は、金の延べ棒5本と、同盟を交した。

「モッキュ!」

里の入り口でまだ若いであろうミノタウロスと、言うよりどこかのファンシーな人形師が作っ

たかの様な可愛い二匹に止められるが、里長の知り合いと言ったらあっさり通してくれた。

長は体調が悪いらしく、お見舞いで来る事も禁じられていたが、俺の名前(魔王時代)を出し

たらあっさり。

警備が甘いのか、それとも里を襲う命知らずがいないと思っているのか?

どちらも里長の決めた方針なので異を唱える立場ではない。

木と煉瓦の蹄鉄場という看板を下げた建物。

そしてあちらこちらに牧草、水車。

村の一番奥の建物。

ここは東洋の畳敷きだ。

靴を脱ぎ、上がる。

「モ・・・スマン、流行り病にかかってモ、薬師からすらさじを投げられた立場でモゥ」

狂牛病。

エーテルは飲んではいるが気休め程度の上、病状は悪化の一歩らしい。

ブラウンが俺を見ると

「ゲルドア、お前も色々あったモ?」

俺は多くは語らない。

しかし、恐らく、勇者のパーティーは世界のあちらこちらで平民を縛り上げ、搾り上げている

と今までの事から十分分かる。

気に食わなかったら、ふっ飛ばせばいい。

だが、仮にも魔王。

人間の為の事をするのはいい事なのか?

魔王と言うものはどう言う定義になるのか?

そんな神妙な面でいたので

ブラウンは

「モキュ。深くは詮索しないモ。せっかくだから、チーズと牛乳飲んで行くモー、今年は出来

がいいモ」

「クリームシチューモー、ゆっくり味わって食べるも」

木目がお洒落な木製のお皿にやはり木製のスプーンを取って一つすくい口に運ぶ。

相変わらず美味しい。

搾りたてミルクにチーズのコク。

本当の、牛だからか美味しい調理法を知っている。

「おかわりあるモー、どんどん食べるモー」

村の入り口で大きな物音がしたのはおかわりを食べている時だった。

アリスは剣を持って突っ走る。

俺も走ろうとしたが・・・

「赤ん坊、いや、ゲルドアさん、モーの背中に乗るモ!」

コック帽をかぶったモーモー。

その眼には、先程までの優しさは無く、戦いに臨むその眼をしていた。

精霊達が次々にモーモの里を破壊する。

もちろんモーモ達も反撃するが攻撃が届かない。

いや、肉薄するが近距離で魔法を炸裂させられ重傷を負うモーモ。

獣医モーモが次々運ぶ。

アリスも高く飛んで脳天から切り裂こうとしたが、精霊お得意のマジックフィールドではじか

れる。

ち、と舌打ちしたアリス。

物理攻撃が届かなければ、いかに屈強な戦士でも苦戦する。

この状況、説明が欲しい。

ならば問おう。

この精霊達を引き連れている者に。

乗ってるモーに

「このまま突っ込め!」

「分かったモッキュ!」

俺はやはり詠唱なしにかまいたちを放つ。

元だが魔王を名乗っていたのだ。

他の追随を許さないほど強力無比。

地はえぐれ、空は裂かれ、精霊の半分近くを屠る。

その強力な魔法を見て恐れ戦く精霊達。

俺はこれぐらいでいいだろうと

「これ以上被害を出したくなければ、率いている者!前に出ろ!」

一体の精霊が前に出てきた。

殺さない。

ケースバイケースだが。

そもそも、殺す、殺さないではなく、存在を抹消する事でしか殺す方法はない。

その大声で出てきた精霊に対し

「何故荒らす?友好を保ってきていたのだろう?」

無言。

いや、喋れない・・・?

違和感。

俺はその精霊の懐に入る。

そして、腹に一撃。

「ゲホ・・・!」

その精霊が何かを吐き出した。

ワーム(呪虫)。

こんな高等術、普通の者にはできないだろう。

何があったか?

推察はこうだ。

何者かがこの精霊に呪いをかけ、モーモ達を殲滅しなければ死に至ると脅し、そして今に至る。

単純明快である。

精霊達を率いて侵攻してきたのならこの精霊は族長だろう。

「すまない・・・モーモ・ファー・ブラウン・・・罰なら俺の命で払う」

草原の精霊、ブルー・ハーブは剣をブラウンに渡し、かしこまる。

ブラウンはふぅ、とため息。

何もかも背負ったため息だ。

口を開く。

「モーモ族は戦闘民族なのは知ってるモ?その謝罪は死んでいったモーモ達を侮辱しているよ

うなものモ、仲直りの印にチーズでも食べて来るモ。誰も憎んでいないモー」

俺はふと笑い

「ブラウン、お前も大分丸くなったな。昔だったら首ぐらい斬り落とすだろ」

出された搾りたての牛乳を飲みながら笑う。

翌朝。

俺はブラウンの干し草の上で寝ていた。

ブラウンは静かに、息を引き取っていた。

「モーキュ、モキュキュ」

何と?

若いモーモは言葉が出ない、と言うより、学校があるのだが、血が騒ぐのか演武授業しか現れ

ず、頭が痛い所らしい。

その学校の授業には共通言語の授業もある。

それを受けていないので、当然の如く、共通語が喋れない。

聞く事は出来るが。

モーモ語は発音の違いで喋る、とは亡きブラウンの言葉。

一言に「モ」でも例えば「モォ」怒っている、「モー」何か訪ねている、と言ったところだろう

か?

話がずれた。

このモーモは何が言いたいのだろう?

何やら唐草模様の風呂敷に色々突っ込んで背負っている。

「如何やらこのモーモさん、一緒に旅をしたいそうで」

旅は道連れ世は情け。

そうだな、モーモ族のモーモを仲間にしておいて損はないだろう。

モーモ族はそんじょそこらの格闘家より遥かに強い。

大規模な盗賊団が襲って来た時、モーモ1頭で始末した。

たかが1頭。

なめてかかったが結果的に恐怖を与え尻尾巻いて逃げて行った。

何があったか?

ちょん、と盗賊の一人に攻撃。

その瞬間、2キロ近くぶっ飛ぶ。

別の盗賊がそのモーモに切りつけようとダガーを振り下ろすが、ひょいっとかわして蹴り。

地面に大穴を穿つ。

そこまでやられて盗賊の頭目らしき大男が出てきて

「甘く見てたぜ・・・俺がちょくせ・・・」

この男が啖呵を切る前にモーモが懐に踏み込み、ラッシュ。

ボディーボディー、顔が落ちてきたところに顎に膝蹴り。

瞬間、多分200メートルくらい跳ばされたそうな。

泡を吹く頭目を見て、蜘蛛の子散らす。

オリハルコンでできた鎧すら打ち破る。

それが、モーモ族なのだ。

それだけ強いモーを仲間にいれられたら、なんとも頼もしい。

「こちらこそよろしくな」

「モ、モ、モ♬」

その場でくるくる回って喜ぶ。

だがあまりにグリップが強いのかその場の土が10メートル程抉れ、穴が開いてはまるモーモ。

俺が風魔法で何とか救出。

名前を聞くと

「モーモ・モモモ」

アリス略で

「モーモ・ホルスタインだそうですよ」

ほうほう。

「モースタインでいいか?」

この時、俺でも考えた。

ネーミングセンスねぇな・・・俺。

何やらどんより心の中で落ち込む。

この名前を出す前に考えがつかなかっただろうか?

軽率な弁は自分でもお笑い種である。

身から出た錆。

笑った後始末は、後悔の念しかない。

慰めてくれても、唯々落ち込む。

いっそ笑ってくれと。

それを悟ったアリスは何とか緩衝材を挟むべく

「ほ、ほら!あんまり長くもなく・・・」

ホルスタインもフォローを入れるべく

「モッキュー・・・モ!(略、そんな落ち込まないでほしいモ、いい名前モ!」

流石温厚温和なモーモ族、いい慰め方である。

何回も言うが、モーモ族は確かに戦闘民族だが平和主義で好き好んで戦おうとはしない。

だから敵意のある者が里に来たらまず戦闘を回避する為、話し合いをして同意が得られなかっ

たら止む無く戦うと言った所である。

相手をこちらの不利益にならない程度で立てるのもお手の物。

モーモ・ホルスタインこと、モースタインは俺の創ったデカくてゴッツい竜の上で、初めて空

を駆る事が嬉しかった様。

そんなモースタインを傍目に、次にどこに行くかと相変わらず考える。

モースタインが世界地図を唐草模様の風呂敷から出す。

「モ!」

蹄で指す。

そこには

「霊学都市紫天?」

霊学と魔学、似て非なるのだが、何百年前、霊魔大戦という、世界を二分する戦争が起きた。

今は友好条約が結ばれ、表向き平和、だが裏は暗殺合戦である。

俺は陰陽師と事構えた事がある。

闘い難かったのをよく覚えている。

紫天の門をくぐると活気にあふれいい街と言うのが分かる。

モースタインを見た一人の中年の男が

「モーモ・ホルスタインじゃねぇか!?それに、剣聖アリスまで!」

どうやらこの一人と一頭、界隈ではかなり有名らしい。

ふむ、しばらく滞在するにはいい街かもしれない。

仮にも勇者だった男。

考えもなく戦いを挑むのは若干勇気がいるし、何より情報が欲しい。

「そっちの赤ん坊は何か生意気そうだな?」

生意気は余計、と言うより自分の性格上、愛嬌振り撒く事が出来ないので、男の鳩尾に一発。

轟音と共にかなりすっ飛んだ。

綺麗な物を吐き出しながら。

その姿、汚物レインボー。

「げ、ゲルドアぁ!?こんなちっこくなって!?」

ちっこくても俺は俺。

それ以外に何物にも例える事がない。

俺は出されたココアを飲みながら

「情報通を探してる、俺の城の玉座の後ろにあった魔剣ベルゼブブを探しててな。あれさえあ

れば元の姿になれる」

モースタインが何か言いたそうにしている。

先程のこの男に俺が食らわしたボディーブローを見て

「モッキュ!」

どうやら一つ稽古をつけてもらいたいらしい。

本来、稽古はモーモ同士のみに限られ、井の中の蛙。

そこで若いモーモ達は里長から許可をもらい世界中で武者修行に励んでいるそうな。

モースタインもそろそろ旅に出たいと思っていたところらしい。

そう言う事なら特に問題なしなので肩を貸す事に。

俺も転生して本気を出していないので組手はありがたい。

「モモモ・・・」

空気が闘気、いや、これは純粋な殺意だな、流石戦闘民族モーモ族。

一般人ならこの空気を吸ったら失神してしまう、そう言う意味で瘴気にも似る。

軽くステップを踏んでモースタインは間合いに突っ込んで来たので、それに合わせてこちらも

ガチンコ勝負に打って出る。

モースタインも俺と同じ位の身長なので、無暗には攻撃はしない。

リーチが互いに同じくらいなら、手の内を最初からは出さない。

スタミナの我慢比べである。

元魔王対戦闘民族。

かなり好カード。

モースタインが前足で真空の刃を作り飛ばしてくる。

なら、こちらは魔力で周辺から集めた水気で水刃。

失敗と思った。

水刃は目視可、一方真空の刃は目視がほぼ不可能である。

しかも、切れ味は真空の刃の方が上。

浅はかだと放った後後悔する。

避けた所にモースタイン。

「く・・・?」

蹄鉄が顔を掠める。

仰け反った所に更に一発入れる前にふと、モースタインの足が取られる。

そう、先程の水刃の残骸の水たまり。

それが凍っている。

滑った。

「モ!?」

体勢が崩れた所で

「終わりだぜ」

拳を突き出す。

勝った、それは錯覚だったのだろうか。

いや、それは確かにある身体的な特長。

尻尾を失念していたのである。

俺の拳を尻尾で弾かれ、慌ててバックステップ。

モースタインが追撃にくるが・・・。

「はいはい、ここまでにしましょう?いくら街の外とはいえ、見物人が増えますからね」

とアリス。

確かに俺ら二人の周りには街から出たであろう見物人、馬車に乗った商人。バカラまで始める

奴がいる始末。

しかし驚いたのが、俺とモースタインが本気でやり合っていたのに、アリスは互いの隙を見極

め、体を張って入り、差し入れ止めた。

人間業ではない。

そう言えば、気にしていなかったが、さっき、剣聖と呼ばれていたような?

アリスのプラチナブロンドの髪が靡く。

モースタインが拳を退く。

それだけの威圧感がある。

元魔王だった俺も背中に冷たい物が走り、こちらも闘気を払う。

「ツリッツオ・・・あの破戒僧か」

聞いて顔を思い浮かばせる。

何でも、自ら牢屋に入り経を書き、肉体の鍛錬に勤しんでいるらしい。

それがこの街、霊学都市紫天の領主の館の地下にいるそうだ。

でも何でツリッツオに会わねばならないのだろう。

首を傾げると

「モーキュ、モモッキュ」

分からん。

やはりモーモー語は難解だ。

俺が眉間にしわを寄せていると

「モースタインさんが言うにはツリッツオが魔剣のあり方を知っているかも、だ、そうです」

ツリッツオが?何故?

色々ますます分からないが・・・唯一の情報だ。

乗り込みますか。

紫天の中央部にそれはあった。

嫌味のない、質素な風貌な屋敷。

そう、領主の館。

門番はモーモとアリスを見るや

「お、お通り下さい!」

顔パスで門をくぐる。

「これはこれは・・・モーモ・ホルスタイン殿にアリス殿まで。何か御用かな?」

一見人がいい好々爺だ。

腹積もりは大層ありそうだが。

下手に話をねじって出すより正攻法、要は包み隠さず本題に入ってしまおうというのが一番だ

と言う訳である。

アリスが切り出す。

「ツリッツオ僧に会いたい」

この領主は眉毛一つ動かさずに

「君達の探し物はこれだろう?」

領主が虚から取り出したのは、一本の禍々しいロングソード。

纏う空気は邪気、の一言に尽きる。

何より、存在感、威圧感に怯む、俺以外は。

このおっさんに、いや、俺の方がはるかにジジイなのだがそれは置いといて、この剣をおっさ

んに持たせるのは剣が可哀そうなので早々に

「魔界の宰相の名を冠する全ての希望は刈り取る絶望の漆黒の刃よ、我の呼びかけに応じよ、

来い!ベルゼブブ!」

このおっさんの手から剣が黒い霧となり、俺の前で再び剣の形を成す。

それに腰を抜かす。

元の持ち主がどうやって扱えばいい、と言うのは当たり前ながら分かっている。

何百年の付き合いだ。

曾祖父からの家宝で、親父が放浪の旅に出ると言って出て行ってしまったので魔王の席とこの

剣が残る。

自動的に俺が魔王になった訳で。

その何百年かの間に、勇者と名乗る者が何十人、何百人と来たが、逃げて帰っていた。

そして再び魔王になる、この剣を握る事で。

握る。

やはり、しっくりくる。

そして、徐々に体が大きくなるのを感じた、いや、大きくなっているのだ。

やがて、成長と言っては語弊があるので割愛するが、勇者に倒される前の体に戻った。

あ、俺、今素っ裸じゃん。

それを悟ったのか、モースタインは案の定、唐草模様の、何か違和感がなくなってきたと言う

か、それが当たり前だという刷り込みなのかはご愛敬なのだが風呂敷から、俺の体にぴったり

の上下の服を出す。

一つ疑問。

「なぁ、モースタイン、その風呂敷の中どうなってるの?」

「もっ!」

いやね、モーモ語は分からないってば。

ダメ元で聞いた俺が馬鹿を見る。

モースタインには罪はない。

首を傾げる俺を傍目に、アリスに耳打ち。

「秘密だそうですよ」

アリスの通訳すごいなあ・・・さて、この顔が青ざめてる領主はどうするか。

殺す程でもない。

たまたま、魔剣を持っていただけ。

それに勘違いして、魔剣から流れてくる力に恍惚していた訳だ。

力がない者が急に力を得ると高揚感に溺れる。

どこの世界でも同じことだ。

魂の抜けたような顔しているおっさん傍目に、俺は魔術を使う。

ツリッツオの牢を探っているのだ。

仮にも領主の館。

質素な外見にそぐわず無駄に広いだろうし、細々さがしていたら日が暮れる。

ところがモースタインが

「モーモーモー・・・モキュ!」

床を叩く、いや、砕く。

ちょっと、モーさん!?

流石の俺でも度肝を抜かれる。

大理石の床が抜け地下に落ちる。

急な事だったので受け身が取れなかった。

「痛てて・・・」

アリスは受け身を咄嗟にとったようでダメージ皆無。

しかし割るか?普通?

仮にも大理石。

それを鋼鉄の蹄鉄で意図も容易く叩き砕く。

ある意味、俺より強かったりして?

魔法まで覚えたら、最強である。

モーモ族全体に魔法学が広がったら、それこそ脅威以外何でもない。

モーモ族は座学が嫌いな種族、尚且つ必要以上の力は持たないし、何よりのほほんとした平和

主義だからこそ、それは無いが。

「モッキュ!」

丁度、牢屋の前。

見覚えのある男。

筋肉隆々、蓄え髭。

勇者のパーティーにいた破戒僧、ツリッツオがそこにいた。

その筋肉バキバキの破戒僧がモースタインを見るや否や

「モーモー・ホルスタイン師範!?何故このような場所に!?」

「モーモーモー、モプ、モ」

何やら嬉しそうに、久しぶり、元気にしてた?と、くるくるそこで手足を振ってクルクル回り

楽しそうに鳴いた、いや、言葉にした。

あらかたくるくる回るとモースタインは

「モ、モッモモキュ、モーキュー」

「そうですか・・・やはり、あのエセ勇者、ケイト・バーンシュタインは権力を振り回し始め

ましたか・・・あの者、私欲の塊故に・・・で、お前かゲルドア。確かにお前しか奴を止めら

れるのはいないだろうな・・・破戒僧とは言え、手綱を引けなかった元僧侶の原罪だ、私も連

れてってくれ」

「しかし、モースタイン凄いな・・・師範って」

照れてる・・・。

分かりやすい。

何分照れつつふんぞり返っているもので。

それより

「ルー王女は?」

気がかりである。

唯一、俺の事をかばってくれた。

異形の者を束ねているというだけで討とうと言うのは不条理だとヘネッド国王に意見し、独房

に幽閉されてしまった。

俺なんかの為に・・・。

「私も分からない。が、王妃が城から逃がしたらしい」

少しばかり、本当に僅かだが安堵のため息をついた。

ルーはお転婆で城を抜け出しては街の子供達と遊んでいた。

俺はそれを見て、何と言うか・・・惚れた。

こんな女性が嫁さんだったらどれだけいい事か、と。

だからこそ、勇者などに負けぬ為、努力を重ねてきた。

それは絶を超えるものだったが彼女を守る為と思えば乗り越えられた。

親父からはやりすぎだと咎められたがそれでも、強く、強く。

モーモ・ファー・ブラウンに角を折られた時には、魔術や剣術だけでなく体術も磨く事にし一

日の修行量は半日以上になっていた。

そしてある日、ルーと子供達と遊んでいたらぱったり。

気が付くとルーの膝の上に頭を置いていた。

何をしたらそんなになるの!いくら誇り高き魔王一族でも無理があるでしょ!

ルーの説教が身に染みる。

俺の方がルーの何百倍も生きているのに。

「すまねぇな、魔族の方が頑丈って言うのに・・・情けねぇ」

その言葉に

「どうせ一人で何か勝手に背負いこんでるんでしょ?やれやれ、その重い物、私にも委ねなさ

いな」

まさか、ルーを守る為、何て言ったらどつきまわされるだろう。

俺は頬ポリポリかいて

「大した事じゃねえ、常日頃の鍛錬は身になる、だから大丈夫だ」

ペチン!

「加減があるでしょう」

その時の涙を不意に思い出した。

俺のため・・・だったのか・・・?

人が、はるかに寿命が俺らより短い人が、俺なんかの為に涙を・・・?

それを思い出し、この人間だったら滅んでもいい、なんて考えてしまう。

人の魂はどんな星の瞬きよりも、どんな宝石の輝きよりも美しい。

だから、皆必死に自分の魂を磨き続けるんだ、とは親父の言葉。

「ルー王女を最後に確認したのは武闘場のある、ベルっていう仲裁都市だ。ゲルドアは知って

るな?」

ベル。

霊魔大戦の最終決戦の地である。

互いの戦力が底を打ち、妥協する案として、互いの最強の兵を出し、一対一で戦わせ勝った方

が植民地支配をするというもの。

結局互いに力尽き、形だけの友好条約が結ばれたが。

何故、その地が栄えたのかは知らないが二本の剣の伝説が繁栄をもたらしたのかもしれない。

聖剣エクスカリバー。

神剣草薙剣。

霊魔、双方の剣である。

それが一つのこの街のコロシアムの岩石に突き刺さっているのである。

今までに幾人、何十、と数えたらきりがない程の者達が抜こうとした、いや、語弊がある。

抜くと志した者が、この二本の剣の前に立つ事無く重病にかかるのだ。

いつしかこの二本の剣には呪いがかかっていると噂が立ち、薄気味がられている。

「モ♪モ♪モ♪」

何やらやる気のモースタイン。

武闘場と聞いた途端、何やら嬉しそうにテンションが高い。

いくら温厚なモーモ族でも強者と戦う事ができるかも?と思うと血が騒ぐのだろう。

場がざわついた。

モースタインが記録を塗り替えまくる。

30人を一手に交えたのだが、すべて瞬殺。

賞金総なめで・・・いや一人の仮面をかぶった女騎士がランスを構えてモースタインの前に立

ちはだかる。

「モ・・・」

空気が凍り付く。

俺も固唾を飲む。

ランスは突撃に特化した武器である。

だからこそ、下手に動けば一気に貫かれるだろう。

モースタインはリーチこそ短いが、懐にさえ入れば勝ったも同然なのだが。

どちらが先に動くか?

「モキュ!」

先手必勝とばかりにモースタインがしかける。

早い。

仮面の騎士は突っ込んでくる相手に対し、迎撃の構え・・・を取らせる前に

「モキュキュキュ!」

騎士の鳩尾を連打。

流石にこれに耐えられる奴がいるとは思えない。

案の定片膝をついてその場から動けない。

「ま、参りました・・・」

確かに強かったが、モーモ族出身のモースタインに挑むには後3年厳しい修練がいるだろう。

何より隙が無いのなら作ればいい。

そう、何も無意味で、かつ無謀な考えで突っ込んで行った訳ではない。

ランスの特性を考え、懐に入った。

相手が動揺しているうちに。

この間、3秒もないだろう。

懐に入って即座に鳩尾に猛攻をかける。

そういう所では流石戦闘民族、モーモ族といった所であろうか?

戦い方を心得ている。

この瞬殺劇に客席から

「流石!伝説のモーモ・ホルスタイン!」

その一言で観客総立ち。

凄い喝采。

あまりにも褒められまくってモースタインはもじもじ。

そりゃそうだろう。

いくら戦闘民族と言ってもこんなに喝采を浴びたら、なんか、恥ずかしいのだろう。

「ほーん、これがエクスカリバーと草薙剣か」

呪われていると言われる2本の剣の前に立つ。

確かに威圧感があるが、ただそれだけだ。

と、アリスがエクスカリバーの柄におもむろに手をかける。

驚いた。

アリスがエクスカリバーを引き抜いたのである。

「エクスカリバー・・・また頼む、力を貸してくれ」

眩く聖剣が光を放つと、その光はアリスの体を包む。

転生か?

そう考えるのが普通である。

霊魔大戦があったのは遥か古来の事。

そう、普通の人間の寿命などとうに尽きる程の想像の絶する昔である。

もっとも、俺が700歳・・・ん?800だったけ?の時の話で俺からしたらつい最近の事で

ある。

そこに運命のいたずらか?

「ゲルドア!」

懐かしい声がした。

その声を聴いて安息のため息。

今まで弦を引くかのような不安に憑りつかれていたが、こうして声が聴けた。

誠誠、安堵。

振り返ると、ツリッツオが

「姫!」

と捕まえようとするが空を切って

先ほどモースタインと戦っていた仮面の騎士。

騎士が仮面を取る前に、抱き合う。

そして

「悪かった、ルー。もうあの似非勇者のいい様にさせない・・・!」

王城。

死臭。

この蔓延する死臭を発するのは勇者ならぬ者なのだろう。

俺でも気持ち悪くなる程、死臭がする。

中庭には魔獣までいる始末。

是は只事ではない。

俺にとっては格下魔族だ、と言うより、向こうから「ゲルドア魔王陛下!?」

と引いてくれる。

聞く所によると、勇者に召喚されたとの事。

俺の部下を勝手に駒にされて腹が立つが、取り合えず

「玉座の間に向かう、他の連中は・・・ケイトとは、俺と一対一のでケリをつける。手出しす

るな」

玉座の間に裸の未だ若い女性達を並べ、その奥にワイングラス片手に哂う者が一人。

悪趣味の極みだ。

こいつは生かしておいてはいけない。

そう直観が告げる。

なら殺しにかかる、それが正しい。

己の信念。

それに基づく。

エゴかもしれない。

しかし、こいつは、元だが、魔王よりも魔王である。

世界を偽善に塗り固めていた勇者ケイト。

こいつを・・・穿つ。

俺はベルゼブブを抜き

「行くぞ・・・!」

ケイトも聖剣を抜く。

その聖剣はその名に似つかわしくない程、血の色をしており、禍々しい。

両者、地を蹴る。

そして響き渡る剣と剣の輪舞曲。

運命はここで決する。

玉座の間には舞踏場になる。

互いの信念が次の剣戟を生む。

そう、信念が。

剣の火花と、ろうそくの薄暗い光、そして、雷光。

命のやり取りが続く。

命の光。

そして決した。

鈍い音と共に聖剣が折れたのだ。

俺はケイトの額に剣を向ける。

「殺るなら殺れ、俺の悪行は轟いていただろう?」

潔し。

だが引っかかる。

こんな者ではなかった。

殺す、その信念が揺るぐ程、違和感がある。

「お前の裏についているのは誰だ?」

ケイトは確かに人間的には性悪だが、悪行は許さないといった、勇者らしさも合わせ持ってい

る。

「・・・それを知ってどうする?ゲルドア。お前が本気になっても絶対的に敵わないぞ」

「お前は確かに好かない、が。お前は確かに正義を持っていた。お前がパペットにされている、

実力者がだ。それが許せん」

ケイトは苦虫を嚙み潰したかのような表情になり

「俺の実力か。ゲルドア、お前の方が遥かに強かろう?」

「混ぜっ返すな。お前は確かに俺を倒した。その事実は変わらん」

ケイトはクククと薄く、不気味に、自嘲し

「その力も、あのお方から授かった物。ゲルドア。お前こそが真の勇者に相応しい」

魔王が勇者?

お門違いも甚だしい。

ケイトは懐に隠し持っていた小剣で

「アカシック・レコード!之が俺の答えだ!」

そう叫び自分の心臓を突く。

この戦いは、後の暴君勇者の乱心と呼ばれ、語り継がれる事となる。

ゲルドアとルー姫がゲルドアの創った花畑で種族は違えど婚姻の儀を行い、祝福に湧く。

これにて劇終・・・モーモホルスタインはこの儀を見届けた後、姿を消す。

あちらこちら探してもいない。

砂漠。

そこに砦を構えているのは・・・。

「よう!息子の手助けご苦労さん!」

陽気なたくわえ髭の爺さん。

「もうすぐ孫の顔見れるかなぁ!」

カカカと笑い白ワインを煽る。

「モ」

「そうだな、いっちょ闘りますか!勘も取り戻したいしな!コーラル!お前も混じれ!」

コーラルは空を見上げ

「そうだな、全てはあの方の手の平で踊ったパペットか・・・」

話が嚙み合っていない。

だが、コーラルの言ったあの方が誰なのか大体検討がつく。

「流石にあいつには敵わねぇよ」

「モゥ」

その通りと頷く。

この後、この者達の手合わせで、せっかく創った砦が崩壊したのは想像に難くない。

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転生魔王様、世直し道中 @kodukikentarou

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