元アイドルマネージャーの絶望からの恋

@Ka-NaDe

元マネージャーは諦める

2ヶ月前、双子の妹が死んだ。

なんて事はない。どこにでもある悲劇だ。

飲酒運転で信号無視をした車が妹を乗せていた車に突っ込んだのだ。

車は横転して炎上。あっという間の出来事だったらしい。

その時、側にいてやらなかったことが俺の心残りだ。

代わりに俺が死んでいれば良かったと本気で思う。だが時間は巻き戻らない。

悔いても現実が変わらない事はこの3ヶ月で嫌と言うほど理解している。

妹はトップアイドルへの道を順調に歩いていた。俺は彼女のマネージャーだった。

『私はやるからにはトップを目指すわ!その為にはどうしてもお兄ちゃんの力が必要なの!だから一緒にきて!』

差し出される手。仕方ないなと手を取る俺。その日から3年。俺達は走り続けた。

たった3年でトップアイドルへの道を登った。圧倒的な歌唱力と容姿とカリスマ性。妹を知り尽くしているからこそのマネジメント。

全てが噛み合ったから起こった奇跡だった。

俺を敏腕マネージャーなんていうやつもいるが、それは買い被りすぎだ。そもそも妹が凄かっただけ。彼女の情熱と俺の熱意が噛み合ったからこその二人三脚だった。

事前に兄弟だと公表していた為、その二人三脚すら美談として語られた。

1番大きいドームでの公演を控えていた一週間前に起こった悲劇だった。

一時期は事故のニュースで世間は賑わっていたが、俺は方々に謝罪に回る忙しさで悲しむ時間も全くなかった。

ありがたい事に皆俺を気遣ってくれた。違約金すら求められなかった。

突然ぽしゃった大きなイベントは方々に莫大な損害を出したはずなのに、俺たち2人を責める声は一切なかった。

全てが終わった後、俺は事務所を去った。俺達の夢はここで終わったのだ。


「美羽(みう)。行ってくるな。」

妹の遺影に声をかける。

『智樹(ともき)。転校してもいいんだぞ?』

父親は俺を気遣ってそう言った。だが俺こと神原智樹(かんばらともき)は断った。

この寮の部屋は卒業まで出る気はない。妹と2人で過ごした大事な部屋だ。

喧嘩したり、仲直りしたり、笑い合ったり。そんな思い出がここには詰まっている。

勿論それが辛いと思うこともある。

だがそれ以上に俺は兄としてここに居たいと思った。

転校しなかった理由は美羽が一緒に卒業したがったからだ。

夢半ばで彼女は亡くなったが、せめてこれだけは叶えてやりたかった。

夢を諦めても現状から逃げる気などなかった。

彼女がやりたかったことを一つでも叶えることがせめてもの手向だ。

部屋を出る前にもう一度美羽に行ってきますと声をかける。

この学校の寮は一部屋一部屋が物凄く広い。

だから行ってきますという声は虚しく、寂しく響いていた。


俺の通う芸華(げいか)学園は幼稚園から大学までの一貫校だ。芸能科とマネジメント科、一般科があり、年齢の垣根を超えて交流する変わった学校だ。

どこの科に所属するかは自由。移動も自由。俺は今日から一般科に編入だ。

芸能科は俳優、女優、アイドル等の芸能人が所属している。それを目指す人も同様だ。マネジメントはマネージャー志望の人。一般科は芸能人にパイプを作りたい人、諦めた人など様々だが、俺は諦めた側になるだろう。

寮の部屋を出ると1人の男子生徒が扉の前で待っていた。

そいつは俺を見るとようと手を挙げた。

「和樹(かずき)…。おはよう。」

白濱和樹(しらはまかずき)。俺と美羽の幼馴染だ。高身長のイケメンでアイドルグループのセンター。彼は美羽のことが好きだった。並び立つために努力してトップアイドルになった。俺はその思いを知っていた。

美羽は全く相手にしていなかったが、ライバルとしては意識していたようだ。

何年かすれば恋人とかそういう未来だってあったのかもしれない。

親友と妹の結婚を仕方なしに祝う自分がそこにいた可能性もある。

だがもうそんな未来は訪れない。

「久しぶりだな。智樹。なかなか戻ってこなかったから心配した。」

「あぁ…。すまない。どの面下げてって思うよな…。美羽を守れなくてすまなかった。」

深々と頭を下げる。この2ヶ月で色んな人に頭を下げ続けた。

随分と謝罪の言葉が軽くなってしまっている気がする。それが申し訳ない。

「やめろよばか。お前は俺の大事な親友だ。お前だけでも無事でよかった。悪いのは飲酒運転の信号無視野郎だ。だがまぁ社会的に死んでるアイツに復讐しようとは思わねぇよ。美羽だって喜ばねぇしな。」

「そう…だな。」

復讐。俺だって一度は考えた。だけど美羽は喜ばないとわかってる。

だから俺も同じ考えだ。

「それでよ…。お前はこれからどうする?」

「一般科に通う。卒業だけはちゃんとしないとな。」

「そうか…。お前さえ良ければさ、俺たちのマネージャーにならないか?お前のマネジメントの凄さは隣にいた俺が一番…」

「悪い。俺の夢は終わったんだ。」

遮るように断る。誘いは嬉しい。

実績にもなるし、今後の進路に響くだろう。それでも…。

「今はまだ…。俺が誰かのマネージャーをやるわけにはいかねぇよ。」

美羽と共に目指した夢の果て。芸能界のトップ。

その頂を目指せる程の情熱が今の俺にはない。

こんな気持ちで誰かのマネジメントなどそれこそ失礼に当たる。

「そうか。気が変わったらいつでも言ってくれ。俺たちはお前を必要としている。」

その言葉に素直に嬉しいと思った。だが今の俺は頷く事はできなかった。


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