章・霊魔大戦記
@kodukikentarou
第1話
章、霊魔術大戦記
二人の人間がいた。
一人は現世を支持し、一人は幽世を信じた。
二人はやがて、意見の違い、考えでいがみ合う様になった。
そして・・・。
ド!
二人は神と魔から力を授かり、どちらが正しいかを競う様になる。
一人は霊術を確立し、一人は魔術を創造した。
そして争いは広がり・・・今に至る。
「佐々木公天光中将閣下、ここにおられましたか」
俺は呼ばれて振り向くと、まだ若い青年将校、若木和人少尉を一瞥し、今斬り捨てた敵の躯を
蹴り捨てる。
血が飛んで来るが、俺は其れを嫌がらない。
こんなクソみたいな戦争、早く終わっちまった方が良いに決まっているからだ。
早く終わっていれば、この兵も死なずに済んだのだ。
帝國だけだろうかと思ったが、強ち余り変わらない様だ、上官が生き延び、士官達が死んでゆ
く
。
胸糞悪い。
吐き気迄覚える。
彼方此方から死臭がするせいか?
それとも大本営でのさばって優雅にティータイムを楽しんでいるエリート将官共の所為か?
いや、考えるのを止めておこう。
腹が立つ事ばかり頭に浮かんでしまうので。
惑星カランカルでの戦闘。
日永軍事連邦帝國、第八霊学機動艦隊。
陸上戦になり、激しい霊術と魔導が行き交ったのはほんの一時間前。
艦隊の白兵戦部隊と共に戦場を駆ける。
その艦隊の提督である俺は刀を振って、刀身に付いた血を飛ばす。
既に敵国、エウシュリー魔導艦隊は尻尾を巻いて無様に逃げ帰っている。
それを、フン、と一つ鼻で哂うが、勝利の美酒に浸かる積りは毛頭無く、寧ろ、本営の狸共の
腹積もりを探って次の策を立てる事で頭が一杯だ。
高慢で、欲の塊の肉塊共の機嫌を取るのも嫌になる。
斬り捨てれば生清するだろうがそれもならない。
そこが無性に苛つくが仕方ないと諦めるしかない。
軍務霊学省の連中も意気揚々だろう。
何分新型兵器の威力を示せてお褒めの言葉を受領する事が確定的なのだから。
だが、慢心して兵器開発研究を怠れば、敵に足元を抄われない。
そこが、頭痛の種である。
熟慮。
それを常に肝に銘ずる。
ああ・・・馬鹿研究者、将官共、クタバリヤガレ、と口から吐露できたらどれだけ楽だろう?
最も、ンな事、誰かの耳に入ったら軍法会議物。
左遷は流石に勘弁である。
高尚な事を言う代議士もいるが、軍の犬である。
胸糞悪くなるから、本当にクソを詰めてやりたいが・・・。
そんな上層部の顔色を窺い立てる自分に自己嫌悪してしまう。
悔しいが、皇帝陛下の為である。
未だ幼い、小生が教育係を承った皇帝陛下の為・・・。
幼いだけでない。
未だあどけない少女なのだ。
二人きりの時は小生、で無く、俺、と自称する事を許されているが、俺はやらない。
ムーっと頬を膨らませる所も未だ幼いが、最近は政になると、その顔からは幼さが消え、一国
の品位と威厳のある君主として臨ずる。
教育係としてはこれ以上嬉しい事は無い。
幼い頃に周りの畏怖の視線と雰囲気を一身に浴び、塞ぎ込んでいた時、俺はどら焼きと二番煎
じ茶を持って行き、色々お話をして差し上げた。
そうすると、すっかりなつき、何かある度、「公は?」と言う様になった。
困った事である。
一国の主が、一兵に気を掛けるべきで無い。
親衛軍人になる事を進められた事がある。
だが俺は、戦線に立つ事を選んだ。
何より、上層部のクソ豚共に快く思われていなかった事もある。
ま、色々考えていても仕方ないや。
タグボードも迎えに来たし、艦に戻るか。
帝都、秀典。
軍人達の寮、家、邸宅が並ぶ。
厳つい、将官邸宅の並ぶ通りは歩哨が回る。
その中を一台の高級車が走る。
そう、皇帝、光香剣花音皇帝陛下の車だ。
向かう先は・・・。
「むー・・・帰って来たら、報告する様命じた筈だけどのう?」
不機嫌度マックスの陛下に俺は、茶を啜り、一つ溜息。
何せ一兵が帰って来たからって、皇帝陛下が出てきては威厳もクソもない。
第一そんな国・・・あるか、結構。
でも、我が国では直して欲しい。
教育係だった自分の威信にも関わる。
それでも涙目の陛下に俺は
「お口に合うか分かりませんが」
そう言って、ニッケ飴を差し出す。
「食べ物で誤魔化す気とは不届き物め。手打ちにするぞ」
こういう時は冗談で言っているのだが怖い。
皇帝と一軍人だし、手打ちと言われたら抵抗出来ない。
それを知っている陛下。
真っ青になる俺を見て楽しむのが陛下の企みなのだ。
それは分かっているが、何時かマジで・・・考えるだけで震え上がる。
クスッ・・・。
悪戯っぽく笑い
「公とわらわの仲であろ!そんな事冗談だ。それより久しぶりに手合わせがしたい」
陛下は
「霊界より来い、亡者の英兵よ!敵を討て!」
唱えると同時に地面が泥濘、巨大な躯が現れる。
「南無・・・一閃居合」
それを俺はあっさり斬り捨てるが・・・。
カ!
切り裂かれて果てた筈の躯が口から瘴気を吐く。
「ち」
瘴気は邸宅の一部を溶かして腐臭がする。
俺は身を立て直し
「幽世の地獄の炎よ、全てを焼き尽くせ!」
陛下は笑い
「公得意の地獄巡りか!」
躯を溶岩の様に溶かすのは意とも容易かった。
陛下は泊まって行くと駄々を捏ねたが、城に戻るのは当たり前。
しかも、泊まられては又、ひんしゅくと妬みを買う。
窓の外は国防軍中央宇宙艦隊が警らしている。
赤、青、緑で電気信号を送っているので、まるで何時迄も消えない花火を見ているかの様。
執務室のシャンデリアの光の元、刀を抜く。
この刀で一体何人殺した?
上層部は部下達が殺した敵の分、ビンテージワインを味わう。
俺の家は決して裕福で無く、何とか軍学校に入って様々な事を学んだ。
その中には弱者を強者が一方的に攻撃する時は、まるで小型犬が縄張りを守るが如く、大きな
熊に挑むに近し、とあった。
だから虐殺も辞さない。
違う。
俺が軍人になった理由や理想とは遠く懸け離れていた。
口には出さない。
部下達がいるからだ。
信頼され、命を投げ打ってくれる部下達がいるからだ。
それを否定してはいけない。
だから誰よりも強くなければいけない。
刀は埜垂れに具の目の目立つ刀。
今の宇宙では珍しいらしいので直ぐ敵兵が、死神の公天、と青くなる。
それでも敵前逃亡して不肖の死を遂げるより玉砕覚悟で突っ込んでくるのだ。
今戦っている、エウシュリー王国はそう言う軍規なのだろう。
愚かしい事だ。
勿論強い敵兵もいる。
俺も何度も死に掛けた事がある。
死線を潜る事が軍人にとっては快楽だ。
俺の言葉では無いが・・・。
イカレ野郎共とは、民間の傭兵。
正規軍は、帝國軍は、本当に常軌を逸しているのかもしれないとふと思うが、そんな事は二の
次で敵さえ滅せればいい。
そう。
それでいい。
テレビ。
「皆様!ご覧下さい!我々を過小評価し不平等条約を取り付けようとする愚なる国を滅するべ
く
、先日の戦いに続き勇猛果敢、戦場の不敗の勇者達を!勝利を約束する他有るでしょう
か!?」
あああ・・・又大袈裟に・・・。
これだからマスメディアは。
大衆に何吹き込んでんねん。
日永軍事連邦帝國与党第一党卍党軍第八艦隊。
俺が乗艦する、戦艦榛名を筆頭に、重巡洋艦愛宕など、計一六隻で形成される。
勿論、上陸強襲艦もある。
「うおおお!」
南無。
動きが遅すぎるし、何より攻撃が大味過ぎる。
こんな攻撃、当たる方がどうかしている。
俺はヒョイっと避けると
「滅」
一枚の霊符を出して敵の腹に張り付ける。
ボン!
炸裂し挽肉になる。
人間の焼死体程、悪臭のする物は無いがここまで焼けると腐臭の元のアンモニア等も焼失して
しまい焦げ臭いものだけが残る。
「腐れ!魔界のティアラ!」
魔術兵だ。
どうやら、瘴気の輪っかである。
範囲が広く、避けられない。
なら・・・
「地獄の煉獄、燃え盛れ!」
一瞬で消し炭にする。
それと同時に魔術兵に飛び込み、一太刀入れて絶命させる。
夕刻迄闘いは続いたが、結局拮抗して決着つかず。
予想以上に敵の魔導機甲師団が強い。
ジリ貧になるかなぁ・・・。
もしそうなら、上に窘められるだけで無く、大蔵省の軍事予算委員会の委員の嫌味も来そうだ。
しかし、ここ慌てて事を仕損じてはいけない。
大方、敵も同じ事を思っているかもしれない。
勘だが。
ここで不思議に思う人もいると思う。
宇宙艦隊の提督もやっているのに陸軍の師団長もやっている。
簡単に言うと、下士官の頃、両方やっていたので、二足草鞋を踏む事が出来るのだ。
歩哨が戦場に掘られた塹壕を歩き回っているのが分かる。
光は無い。
光など点け様もんなら狙撃されて気付けば昇天である。
真っ暗な中で光、格好の的だ。
そこに
「閣下!敵陣地からこちらに来る車両が一両!」
・・・特攻なら夜目の効く兵で空中兵器でした方が効率がいい。
ならなんだろう?
眉間に皺を寄せ、思考を巡らす。
三分考えるが・・・。
ダメだ、分からん。
来るなら来いでいいか。
変な真似したら死ぬのを覚
悟しての事だろうし。
「メリーシャ!?メリーシャなのか!?」
未だ日永とエウシュリーが戦争を始める前の話。
俺は武官としてエウシュリーに派遣され、半年ほどいたであろうか?
陛下も着いてくると相変わらず駄々を捏ねたが、内緒で出国した。
エウシュリーに着くと車に乗せられ帝國大使館にお連れ致しますと発進する。
レンガ造りの欧風の建物が並ぶ道を抜けるとロータリーが見えてくる。
日永軍事連邦帝國大使館。
広い。
当時、俺は未だ大尉に昇進したばかりで、右も左も分からないペーペーだった。
中尉と大尉は住む世界が一線を画すと言われていたが、まさか此処迄とは思いもしなかった。
一期生違いだけなのに、である。
話を戻すとその広い大使館でウロウロしていると
「如何されました?」
プラチナブロンドの魔法陣の入った鎧を着た麗人。
余りの美しさに一瞬、しどろもどろするが、帝國の恥になるのでなんとか言葉を捻り出そうと
「いえ、余りに美しいので・・・」
本音がポロリ。
何言っとんじゃあああ!と心の中で逆切れしつつ冷静を取り繕おうと必死に、さっきの言葉を
どう訂正、いや、どうフォローするかとの考えで頭がグチャグチャ。
顔が上気するのが分かる。
女子か!
男のやる事か!と必死、必死。
キョトンとしていた、麗人、そうメリーシャ。
王国軍近衛騎士団当時、中佐。
ポッカーンとしていたが、向こうも顔を真っ赤にして
「わ、私なんか・・・」
「す、すみません・・・本当に綺麗だったから・・・」
あ。
追撃してどうする。
俺、馬鹿なの?馬鹿なんだな?
俺は取り合えず気まずいので軍帽を深く被り直すと
「で、では失礼・・・」
立ち去ろうとしたら、メリーシャが俺の手を取り
「待って、名前を」
えええええ!恥ずかしくて言えない。
第一是が陛下の耳に入ったら折檻されるかも!
「嫌・・・ですか?」
綺麗な声に、上目遣い。
その瞳には潤んで、不覚にも其れが綺麗と感じる。
美し過ぎて、後光が射している。
是はアカン。
こんなのズルい。
女の武器出しまくり。
いや、そんな気は無いのは何となく分かる。
俺は
「佐々木公天光。階級は大尉であります」
サ!と敬礼してそう発する。
もう、成る様に成れと。
ぱあっと顔が明るくなったメリーシャも
「私はメリーシャ・ラングール。階級は中佐。宜しく!」
半年。
彼氏彼女の様。
だが時間は残酷で、あっと言う間に武官帰国命令が出て
「また、何処かで・・・」
タグボードに乗る前。
唇を交した。
その味は涙の味がした。
メリーシャ上級大将。
第三近衛騎士団団長。
それが今、俺の天幕の中にあるベッドの上で静かな寝息を立てている。
失礼だが、メリーシャの服の中を調べると、一通の打電。
暗号か・・・。
「おい、暗部」
真っ黒い格好をした不気味なのっぺらぼうの仮面を被った男が一人。
「此処に・・・」
俺は先程の打電文の入った紙を渡し
「この暗号を解読しろ。至急だ。何なら、将官特権でハイパーコンピュータ天樂の使用も許可
する」
「御意」
メリーシャは目を覚ます。
此処は・・・?
宇宙船の中である事は、はめ窓の外を見て直ぐ分かった。
「やっと、目が覚めた、具合は如何かな?」
俺の声を聴くと、メリーシャは、飛び起き、剣を抜き
「日永軍事連邦帝國軍佐々木中将!」
相当興奮している。
それはそうだろう。
祖国の危機に王の横に居れないのだから。
何があったかは昨日の暗号で分かった。
だからこそ、この艦隊はある場所に向かっている。
無謀そのものと窘められても、一度好きになった女性の為だ、身を危険に晒す事に躊躇いは無
い。
それよりも
「今は、王国のクーデターを止める事が最優先でしょ?メリーシャ」
メリーシャは、はっとして、懐を探るが紙が無い。
そして
「・・・今は敵国同士なのよ?潰れた方がいいでしょ?」
「それでいいのか?俺は嫌だぞ?、メリーシャと一緒に見た景色が無くなるなんて」
それを聞いた途端、メリーシャは涙を流し、その場に泣き崩れる。
是は相当、事態が逼迫してるな・・・。
第三近衛師団の副団長の乗る艦もこの榛名の後ろに続いている。
詳しい事情は知らないが、聞く所によると、不審な謀略は囁かれていたそうだ。
「閣下!」
若木少尉がノック。
「入れ!」
「敵艦隊が接近中・・・只、数が僅か四隻」
クーデターで混乱している証拠か?
ともあれ有難い。
蹴散らす事もできるが・・・。
「最大船速で突き放せ!可能?メリーシャ」
「駆逐艦でなければ・・・」
「敵は?」
若木は資料と、電探のデーターで予想を立てつつ・・・コイツは士官学校を主席で卒業してお
り電探の鬼と呼ばれていて、直ぐ俺がスカウトした。
それは置いといて
「恐らく、鈍足の戦艦と重巡洋艦かと」
それじゃあ、適当に威嚇して追っ払いつつ無視するか。
数の上ではこっちが上なので。
「王城までは此方のメリーシャ上級大将の指示に従う様に!後は敵即斬也!駆けよ武士!」
うおおおお!
エウシュリーの軍港で雄たけびが上がった。
「閣下!玉座の間、制圧しました!」
俺は頷き
「引き続き、逆賊討伐を!」
それを聞いた兵が
「は!」
走って行く。
それより・・・。
「其処に隠れてるんだろ?出て来い、第一近衛師団長、キル・ハイル」
玉座の間の奥から出て来たのは一人の男。
歳は五十位だろうか?
鍛え上げられた体から殺意が滲む。
「お前さん、王に何の恨みが?」
キルは不敵に、豪快に笑い始め
「コルトル帝国。王を殺せば其処から一生遊んで暮らせる金が貰えると聞いたのでね」
ち、金か。
大理石の床に唾棄して舌打ち。
汚ねえ、君主への忠義心もねえ金の亡者が!メリーシャを泣かした、其れだけで重罪だ・・・
葬ってくれる!
俺は刀を拭い
「死ね」
一陣の疾風。
キイン!キン!
刀と大剣が激しく火花を散らす。
ち、腐っても第一近衛師団長か。
キルは笑い
「魔術で消し飛べ、ヘル・ブリザード!」
空気が凍て付くが俺は足に風を集めて飛び、避けつつ、
「お前が霊術に屈しろ、天元大天災!」
キル目掛け雷が降り注ぐ、が
「な!?」
よく見ると、シャーマニックキャンセルエンブレムが地面に光る。
ち、何時の間に。
キルは更に
「穿て、魔界のデーモンスピア!」
一本の投げ槍が飛んで来るが、直線的で・・・
くっ!?
曲がる、俺目掛け。
ホーミングか!
クソ。
「全てを砕け!釈迦の御手の獅子!」
風巻、一頭の獅子が現れ
「追い詰められてるな」
カカカと笑う怖面の獅子。
まあ、実際、ジリ貧なのは確かなのだ。
でも笑うこたあねえだろ。
憤りを感じたので
「うっさい、霊力食わしてやらないぞ!」
獅子は其れだけはご勘弁と飛んで来た魔槍を意とも容易く嚙み砕く。
其れを見ていたキルが
「式神まで使えるとは。是は愉しくなりそうだぜ!」
俺は全然楽しくない。
帰って麦茶飲みたい。
いや、先にコーラかなぁ。
本気、出しますか。
メリーシャに謝らないと。
王宮全壊させるから・・・。
「閻魔の裁き、此処にて開廷。座るは我に綽名す愚か者。慈悲は無い。裁きの木槌は鳴り響き
罪人は只絶望する也・・・」
強力な霊術なのでその分、唱ずるのに手間がかかる。
獅子がキルと対峙する。
と言ってもアンチシャーマニックエンブレムの中には入れない上、攻撃も通らない。
さーて、主は此処をぶっ飛ばす為に主が使える五本指に入る禁呪を唱えてる。
ざっと、五分。
もつかな、ワシ。
「ふん、ワンコロ、其処を退け」
「反故したら?」
キルは一足飛びで獅子に接近して、巨大な剣を振るう。
カイン!
剣が獅子に当たる、が、剣はキルの意に反し折れる。
何が起きたか。
余りの事に驚愕する。
何分この剣は、ドワーフの中も有名な名工が打った剣なのだ。
切れ味は他の追随を許さない。
「鈍らだな」
其れだけ聞くとキルは
「フン、近衛騎士団団長を舐めるな!」
両手を広げその空間からランスが現れる。
禍々しい。
そう形容できる。
だが、次の瞬間。
「裁かれよ!咎人!閻魔の大槌!」
唱え終わると同時に玉座の間の電飾が消え、煌びやかさが無くなり暗くなった。
不気味な声が聞こえて来る。
俺は其れに対して頷く。
そして
ゴオン!
天井を打ち破り、巨大な槌がキル目掛け振り下ろされる。
「な!?アンチシャーマニックエンブレ・・・」
グシャ。
絶望するより、死を感じる瞬間より先に、潰れて、肉片が飛び散る。
そこにメリーシャ。
様子がおかしい。
其れで察する。
王は・・・討たれた、と。
「この国はどうなるんだろう・・・?」
メリーシャはポツリと呟く。
王のいない国は、国とは言えないのだろう。
この国は純粋だ。
日永は陛下が討たれたら多分、軍が台頭するだろう。
皇帝陛下の意思を成し遂げよ、等々の理由をつけて戦争を激化させる事は火を見るよりも明ら
か。
そう言う國なのだ。
悲しい事に。
だが、何時かそう言う輩、膿を絞り出して絞首刑にしてやる、等と物騒な事を密かに画策して
いるが、未だ今では無い。
期が熟したら、である。
「帝國に来い、陛下にエウシュリー王国との関係を再び構築するよう上奏する」
日永。
俺の邸宅にメリーシャとメリーシャの直属の複数の部下を泊まらせる。
俺の邸宅は絢爛豪華。
赤い絨毯にシャンデリアにステンドグラス。
調度品もそれなりの気品を醸し出す。
なぜそんな?と思うだろうが、全ては陛下が
「わらわの教育係をやっていた者が質素な邸宅に住んだら恥をかく」
との事。
別に昔の話だから良いのでは無いだろうか?と思うが変な所、プライドが高い。
其れより
「光、先お湯もらったよー」
寝巻を着たメリーシャ。
やはり何を着ても似合うのが彼女だ。
モデルじゃね?
モデルやったら儲かるんじゃね?
暫く見つめていると
「・・・夜伽?」
俺は顔を真っ赤にして首を横に振り
「いや、色々な?」
と茶を濁し、一寸は期待したと言うのは本音だが、俺は是から軍務省に行かないといけないの
で時間が・・・一寸あるか。
って何考えてる!?
俺の煩悩退散!
「其れより・・・」
バックの中を漁る、えーと、何処入れたっけ?
鞄の中を掻き混ぜる。
是じゃない・・・是でも無い・・・あれ?マジで何処やったっけ?
将官バックは収納性が悪く、クレームを出す者もいる位なのだ。
・・・将官と言っても、卍党軍にいるのは三十名程なので、一々クレーム対応していたら労力
もお金もかかる。
国防軍は知らん。
お、あった、あった。
「そらよ、帝國名物黄粉餅」
とパックに入った黄粉餅を投げて渡す。
黒蜜をかけると更に美味い。
俺の場合、甘党なのでスイーツと聞くと買いに出る。
昔こっそり軍務省の経費で落としている事がバレて大目玉をくらったのは良い思い出だ。
軍務省、通称大本営。
国防軍と卍党軍が作戦立案から艦隊の編成、軍属、軍人達の人事異動、等々、軍に関わる事は
此処で決定される。
軍法会議所も此処にある。
若木の運転する車から降り、カツカツと軍靴を鳴らしながら長い廊下を歩いていると
「やあ、溝亀君、未だに陸に張り付いているのかな?・・・あ、そうか、陸で爆発を受けて宇
宙を飛んでる役立たず、だったかな?」
皮肉を言って来るのは、真水清太郎陸軍元帥。
「真水なのに陸で這ってる元帥閣下はお元気ですか?」
皮肉返し。
コイツとは犬猿の仲。
顔を合わせては仇を探し合い、腹の中を探り合い。
もっとも、俺は軍の中ではひょうひょうとしており、何を考えているか分からないらしい。
ひょうひょうと言うのはいささか不服。
頭の中は常に部下達の事で一杯。
犬死させる様な戦いは決してしないのが俺の信条だ。
真水は一瞬、殺気立つが、直ぐに
「ふん、精々不祥事を起こすなよ」
吐き捨てる様に言葉にするが、お前等の方が不祥事を起こしそうで怖い。
口にしないが。
と言うか口にしたら面倒臭いので。
さて。
エレベーターホールに来る。
軍務省は地上五階、地下三階建て、煉瓦で作られた建物である。
ただ、だだっ広い。
俺の場合、幸いな事に、エレベーターで三階迄上がり、直ぐ隣の部屋が俺の将官執務室である。
鍵は・・・あれ?開いてる。
嫌な予感が。
扉を開ける。
「光!遅かったな!」
・・・
。
「陛下、此処は陛下が来るような場所では・・・」
花音はじっと俺を見て
「女の匂いがする・・・」
ギク!
陛下は勘がいい。
何か秘密事をしていると直ぐに俺の邸宅に乗り込んで来る位だ。
なぜ勘がよくなったのは大体察しがつく。
大尉時代にエウシュリーに内緒で行った後、泣きじゃくって大変だったらしい。
其れ以降、矢鱈と勘が良くなった。
良くも悪くも。
「女が出来たな?わらわと言うものがいるのに・・・」
ドオン!
突然爆発音。
そして駆けて来る若木。
「佐々木閣下、陛下!大変です!野党、月輪党軍が蜂起しました!」
ちっ!
俺は軍刀を差し
「制圧する!卍党軍全軍に伝達!帝都防衛師団、それに続き旅団にて鎮圧せよ!」
俺は陛下を連れ
「卍党党本部に向かう!くるま・・・?」
ジャキ!
若木が此方に銃口を向けて来た。
その顔は何よりも鋭い殺意で澄んでいて、凛とする。
「何の真似だ?」
その問いに
「貴官はこの國のコブだ。卍党を作り、軍事政権を僅か十年で此処迄肥大化させた。だが結果
貴方はお飾りの党首になり、周りの顔色を窺う臆病者になった・・・」
撃鉄を引く。
その音の他には只、外での爆発音と銃撃音が混ざり合って聞こえて来るだけである。
その内、軍務省内部の火災報知器が鳴り始める。
軍務省は本来ならば国防軍が守るべきなのだが、見るに突破されたなと察しる。
「今や卍党の暴走を止められないであろう貴官を殺した方が良い」
俺はにやりと哂い
「俺の執務室に入ったのは失敗だったな、馳せろ!」
若木の立っていた床が一気に捲り上がり一本の金棒が若木の腹を抉る。
死んだかな?
若木は虫の息で
「・・・私は、閣下のその冷酷さに賭けますよ。では地獄で又・・・」
手榴弾を腹に当て
ボ!
自決した。
卍党の圧倒的な戦力で月輪党は瓦解したが、その後数日は戒厳令が出され主要幹線道路は全て
憲兵が立つ。
陛下の身を案ずるとして、俺と選りすぐりの数十名の部下を連れ城に向かう。
が、メリーシャもついてくると言い出し、結果、エウシュリーの兵も混じる。
バチバチ!
火花。
あの、止めて。
部下の前で恥かくから。
色恋沙汰の女の戦いは醜いらしい。
なのでますます止めて欲しい。
睨み合い。
その時・・・。
「あ、と、一寸トイレに」
城のバルコニー。
夜風が冷たい。
下を見ると、国防軍の兵と、卍党軍の兵が歩哨している。
空には相変わらず、宇宙戦艦が浮ぶ。
そこに
「・・・何か分かったか?」
暗部の男?女?は空気を吐きながら
「矢張り今回の武装蜂起も、コルトル帝国の工作員の仕業かと」
風が強くなってきたな。
俺は
「引き続き探れ」
「御意」
章・霊魔大戦記 @kodukikentarou
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