第10話

修練の塔に挑む日がやってきた。私は村の中心にある壮大なギルドセンターへと足を運んだ。ここは冒険者たちが集まる活気あふれる場所で、塔への挑戦を受け付ける拠点でもある。古代の遺跡を思わせる豪華な装飾が施された建物の中には、冒険者たちの熱気が溢れていた。


ギルドセンターの奥へ進むと、見慣れた姿が目に入った。友人のベルにゃんこが受付に立っていた。彼女は柔らかな笑顔で私を迎えてくれたが、その瞳には心配の色が浮かんでいた。


「本当に修練の塔に挑むつもりなの? シスコンにゃんこちゃん……」


ベルにゃんこは少し戸惑いながら私に尋ねた。彼女は私が非戦闘員であることを知っていて、これから挑む塔の危険さを理解しているのだ。


「うん。私、力をつけなきゃいけないの……姉さんのためにも……」


私は真剣な表情で答えた。その決意に満ちた眼差しを見て、ベルにゃんこは小さく頷いた。


「わかったわ。でも、塔のルールをちゃんと覚えておいてね。5階より上に進むには、3人以上のパーティを組まなければならないの。そして、強力なモンスターが待ち受けているわ。気をつけて……」


ベルにゃんこはそう言いながら、塔の地図といくつかの注意事項が書かれた紙を私に手渡してくれた。


「ありがとう、ベルにゃんこ。私は大丈夫。だって……」


私は手に持った装備を見つめた。それはローズにゃんこから手に入れた万能包丁。このS級武器は、非戦闘員の私にとってまさに希望の光だ。万能包丁は自分の意志であらゆる武器に変化する。剣、槍、弓、盾……どんな状況でも適切な武器を手にできる。


「これさえあれば、きっと何とかなるわ」


ベルにゃんこはその包丁を一瞥し、驚いた表情を浮かべた。


「それは……そんな武器があったなんて……。気をつけて、でも無理はしないでね」


彼女は心配そうに言ったが、私は笑顔で応えた。


塔の入り口に立つと、冷たい風が吹き抜け、周囲は不気味な静けさに包まれていた。一瞬立ち止まり、心を落ち着けるために深呼吸をした。


「姉さんのために……」


その一言を呟き、塔の中へと足を踏み入れた。


1階では、緑色のスライムたちが集団で襲いかかってきた。包丁を剣に変え、その鋭い刃でスライムたちを次々と斬り倒していく。包丁はまるで私の一部のように自然に動き、スライムたちを斬り裂いていった。


2階に進むと、空中から攻撃を仕掛ける鳥型モンスターが現れた。包丁を弓に変え、正確な狙いでモンスターたちを撃ち抜く。空を舞うモンスターたちをかわしながら、冷静に次々と撃退していった。


3階では、岩のような身体を持つゴーレムたちが待ち受けていた。包丁を槍に変え、その力強い突きでゴーレムたちの硬い身体を打ち砕く。


そして、4階に進むと、これまでの戦いとは一線を画す強力なボスモンスターが現れた。包丁を再び剣に変え、敵の攻撃をかわしながら致命的な一撃を与えていく。ボスの動きは、ゲームで理解していた。しかし、ああああとは違い非戦闘員の私では火力が違いすぎたこともありかなり苦戦した。


 修練の塔から帰還した私は、体中に傷を負いながらも自宅へと戻った。家に帰ると、姉さんが心配そうな顔で私を迎えてくれた。


「シスコンにゃんこ、何があったの? こんなに傷だらけで……」


 姉さんは私の腕を取り、優しく包帯を巻きながら、涙を浮かべて言った。


「大丈夫だよ、姉さん。……のために、私は強くなりたいの。心配しないで」


 私はそう言って、姉を安心させようと微笑んだ。でも、姉さんはその笑顔の裏に隠された疲労と痛みに気づいていた。


「そうなのね……でも、無理はしないでね」


 姉さんは言葉を飲み込み、ただ私を抱きしめてくれた。私が頑張る理由、それは口に出さなくてもわかっているつもりだったのだ。実は、姉さんは私が夜、寝言で「ああああ」の名前を呼んでいるのを何度も耳にしていた。だから、私が「ああああ」のために頑張っているのだと信じていた。


でも、姉さんは知らなかった。私が夢の中で「ああああ」に向かって、最強にしているのに苦戦していることや、課金までしているのにどうしてこの敵に勝てないんだ、姉さんが犠牲になるなんて、と苛立っていること。さらに、ハーレムイベントや他の女性キャラクターとのデートイベントが発生するたびに、「この浮気野郎……!」と怒っていることを。私の夢の世界は、現実とはまた別の怒りで満ちていたのだ。


私は、その大いなる勘違いを知らずに、ただ静かに頷いた。


「ありがとう、姉さん。でも、私はまだやらなきゃいけないことがあるの。次は、塔の5階に挑むわ」


姉さんは、私の強い意志を感じ取りながらも、不安を拭い去ることはできなかった。それでも何も言わず、私を見守り続けてくれた。


私は、次の挑戦に向けて心を整え、再び戦いの日々に身を投じていくのだった。

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