律動
ラプラスAki
無戴冠の王
このミュージアシティでは『パーティ』と言う娯楽が全ての中心となって成り立っていた。
『パーティ』
それは一対一の肉弾戦。他と違うところと言えば、スタジアムに特殊な仕掛けがしてあり、それぞれが引き連れている演奏団の『調律』と言う音楽次第で、その対戦するメンバーの戦闘力が変わるという点だ。
毎年開かてる『パーティ』。今年の決勝戦のカードが出揃った。対戦者同士の記者会見には対戦者一人だけがいた。本来なら二者そろって開くべきか会見が、毎年のように一人で行われていた。
「今年も今まで通り『無戴冠の王』が居ませんが、どのようにお考えですか?」
記者の一人が言う。聞かれた男、ギズ・S・モーターがゆっくりと長テーブルに手を組み答えた。
「それは毎度のことだろう。まあ、今回はよかったんじゃないかな。もし出てたら、震えが止まらなかったろう」
会場少し沸く。
「今回のギズさんの大会への出場は売名行為だという意見がありますが、それと対戦者に多額の金を渡しているとのうわさがありますが、これについてどう思われますか?」
記者の質問にゆったりと笑みを浮かべ、
「確かに僕には吐いて捨てるほど資産があるが、申し訳ないが彼らにはそういった大金が扱えるとは思えない。すぐギャンブルですってパーさ。そんな輩にやる金は無いね」
ギズは手を開いたジェスチャーで言葉を補足する。
「さらに売名行為で言えば、僕の名前はこれ以上売れようがないよ」
一呼吸置き、ギズは口を開いた。
「みんな触れないようだから自分から言おうか。なぜこの僕が『パーティ』に出るか。ご察しの通りこの大会の賞の為に今回僕は参加している。そう『ミュージアシティ市長』だ。これは僕の為にあるような賞だ」
「財界のみならず政界にも進出すると」
「何とでも言ってもらって構わない。ただ、僕は君の少ないおつむでは考えつかない程遠くを見ているのだよ」
強気の言葉にフラッシュが一斉にたかれる。
「以上です、では『パーティ』決勝戦の会見はこれで終わりとします」
「待ってください、今回の『調律』について――」
記者の質問に答えず、ギズ一団は会場を後にする。
廊下にでたギズに新人マネージャーのサヤが話しかけた。
「『無戴冠の王』。来ませんでしたね。ビビッてるんじゃないですか? 楽勝ですね」
ギズは横目でサヤをにらむように見て、
「浅慮だな。やつはそんな小物じゃない」と言った。
「だってさっき震えるって――」
ふうとため息をつき、
「リップサービスだ。感の悪い奴だな」
「すみません……」
サヤ体全体でにシュンとした。
『無戴冠の王』ルーク・サタナエルの控室。薄暗い室内で椅子に座り、肘を脚につっかえて静かな闘気をためていた。ドアをノックする音。すぐに扉が開く。
「時間です」
ルークサイドのスタッフが言った。ルークは何も言わずに立ち上がり控室を後にした。
『パーティー』会場は熱気に包まれていた。観客は二人の登場を今か今かと待ちわびていた。
会場にアナウンスがはいる。
えー、只今より第二十回『パーティー』を始めます。演奏者の方は配置について下さい。なお、会場内は全面禁煙です。ご協力お願いします。
ざわついていた会場がだんだんと静かになっていく。そして、会場が鎮まったその時。ルーク側の演奏団のバンドのドラムがリズムを刻む。それが契機となってルークが会場に出てくる。彼らの演奏団はロック形式のバンドである。
そしてしばらくするとバンドの音が止み、ギズの演奏団であるクラシック形式のヴァイオリンの音色が響く。そして、ギズ・S・モーターが会場入りした。
ギズは指を優雅に動かし、自らの演奏団の指揮をとる。
さあ! 始まりました! 第二十回『パーティー』。『無戴冠の王』。この絶対的な王者に立ち向かうのは何と、いつも楽しい話題を提供してくれる「ギズ・S・モーター」。モデルでもあり実業家でもある彼がなんと今回の『ミュージアシティ』市長の座を獲得すべく、『無戴冠の王』に挑戦だーー!!
実況が早口でまくし立てた。
「待っていたよ。ルーク・サタナエル。『無戴冠の王』と言ったほうがいいかな?」
「ごたくはいい」
ルークは言い放ち、指を鳴らす。
重低音のベースがリズミカルに弾かれ、地の底から、サタンが昇り立ち、ルークに重なる。
出ました。ルーク・サタナエルのラウドなバンドの律動! このリズムが彼に力をあたえたー!
ギズの頬に彼の圧倒的な圧力がビリビリと這う。
「想像以上だ……」
ギズは心なしか嬉しそうに言った。そしてゆっくり右手を上げ人差し指を動かす。
クラシック調の音が響きわたる。
おおっと! ギズ・S・モーターの演奏団、クラシック調な律動がこんどは彼に覆いかぶさる!!
バンドとクラシックの律動が交錯しけん制し合い、あたかも一つの音楽の様なものになる。しかしそれは単純なリズムの交錯に過ぎない。
二人はそれをバックに衝突する。拳、脚の打撃の応酬。そして音と音の応酬。ぶつかっては離れ、ぶつかっては離れる。二人が衝突するたびに衝撃が観客を打つ。
「いい『調律』だがクラシックは弱いな」
ルークは悪魔的な笑みを浮かべた。
「これからだよ」
ギズが手をルークの方へふると、ひと際強い旋律が空気を揺らして彼にぶつかる。
しかしさらに強い『調律』がルークを包み、黒い闇が邪悪さを増した。
その刹那。ルークの黒い一閃がギズを貫き、
ゆっくり倒れた。
「もう終わりか」
ギズを見下ろし、吐き捨てるように言って、歩き出すルーク。すると、あることに気づく。ギズの演奏団の『調律』が鳴りやんでいなかった。
「くくくっ! はーはっはっ!! パーティーはこれからだよ!!」
倒れたまま高笑い、指揮者のように指を動かす。一瞬間があった後、クラシック調の音が鳴り始める。ルーク側の演奏団も負けじと音を鳴らし始めた。
と、
異変が起きた。
と言っても些細な異変。しかし、音は徐々に混じり合い、互いが互いを高める、その音は大きなうねりになって会場に響き渡った。
「クラシックはね、まだまだポテンシャルが高いんだよ! お気づきでないようだ!!」
ゆっくり起き上がったギズが、この第三の『調律』の全身に浴びて力を増す。
ルークに近づいたギズは、目の前で止まる。心なしかルークのサタンの闇が小さくなったように見える。ルークのバンドはいくら激しく音を出そうとしても、クラシックに調節されて、ギズに力を与えた。
そしてギズは光速でルークを殴打した。一方的に打撃を受け続けてルークは吹き飛んだが、なんとか倒れずにはいた。
「おしまいのようだなあ。『無戴冠の王』!!」
ルークはゆっくり右手を上げて、指を鳴らす。
「そんな事では、サタンは死なない」
それを合図に、バンドが一旦音を止めた。そして、高速のダブルドラムがリズムを刻む。
それは、やがてバンドたちの激しい音になる。聞いた限りでは揃った、クラシックの様な調和は感じない。しかし、クラシックにはない躍動がとてつもない高揚感を生む。
ルークはその律動を腹の底から湧き立たせる。サタンの闇がさらに激しく黒く鋭くなっていく。それに何とかギズの演奏団がついていっている。しかし激しすぎて弦が切れてしまった。
「ロックにはついていけないようだな」
ゆっくり顔面蒼白なギズに歩み寄り、顔面に渾身の拳を叩き込んだ。ギズはそのまま吹き飛び会場のふちへ背中から激突して気を失った。
歓喜のデスボイスが会場に響き渡る。
おーっと! ここで試合終了かー! 起きない! レフェリーストップだー! ここで勝者ルーク・サタナエルが敗者ギズ・S・モーターに歩み寄るー!
ルークはゆっくりギズに手を差し伸べた。スタッフに介抱されて意識が戻ったギズはその手に手で
払いのけた。
「同情はいらない。称賛もな。欲しいのはこのミュージアシティだ」
ルークは高らかに笑い、背を向けて会場を去ろうとした。
ルーーーーーークサタナエーーーーールゥゥ!! 今回も『無戴冠の王』勝利だ!!
去り際に左手を横突き出し、
親指を立て、
逆さにした。
会場は今までにないほど歓声で揺れた。
そしてルーク・サタナエルはまたしても賞を蹴った。
『無戴冠の王』の称号は降ろされることはなかった。
律動 ラプラスAki @mizunoinori
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