第16話 犬のしつけ


「貴様らァ! 私のクラスにいるのに問題を起こすとはいい度胸だ! よほど命が惜しくないようだなぁ!?」



 騒ぎを聞きつけたクラス担任のメイリーナが教室の後ろにあなたたちを並ばせた。

 メイリーナが大声をあげる。

 ミカエラ、カーラには往復ビンタをかまし、あなたを含めた男子三人には臀部への張り手で済ませた。



 アリスと取り巻きたちはいない。

 先ほどメイリーナにアリスが賄賂を渡していたため、アリスたちは難を逃れていた。



「聞いてるのかモブ!? 男ならもっとお淑やかにできないのか!? あぁ!?」



 ――はいっ!



 メイリーナが事の中心にいたあなたにちょっかいを出す。息子をなぞられるも、あなたは直立不動で対応する。

 なんならあなたは少し勃起してみせて、メイリーナの視線を釘付けにした。



「……ぁ、ぇ、こ、こら、き、気をつけろぉ!!」



 軽い気持ちで触ったためだろうか。

 すっかり動転したメイリーナは顔を赤くして背を向けた。

 あなたたちへの折檻は急に中断となり、メイリーナは赤面のまま教室を飛び出して行った。



「……ふん」



 あなたは観衆の後ろに、紫髪の女性の背を見つける。取り巻きを連れ、彼女は教室を後にしていた。



⬜︎



「なんなんですかあの変態教師! モブ様になんてことを……!」



「絶許」



「モブ、ほんとに平気なのか?」



 ――まあ平気よ。あんまり気にならないたちでね。



「そんなことあるかっ! くそっ、あのクソ教師お婆様に言いつけてやる……!」



 ――ほどほどにな。



 あなたたちは、あなたの住まう平屋に集合していた。マリーとルールルーも合流済で、七人の男女が一つ屋根の下に集っている。



 共通の敵が見つかったからだろうか。

 あなたとミカエラは、授業後よりもカーラたちと仲良くなっていた。



 椅子に並んで座るミカエラとカーラの頬に、あなたは氷嚢を当てる。あなたが『応急手当』を発動したことで、二人の頰の腫れは引いていった。



「ありがとう、モブくん」



「君には、いつも助けられてばかりだ。さっきだって……」



 ――いいってことよ。……ってちょい?



「……不快な思いをさせて、すまなかった。怖かっただろう? 自分が、情けない」



 カーラがあなたの両手を握りしめた。自然とカーラは自身の胸元に二人分の手を引き寄せる。潤んだ朱色の瞳をあなたに見せた。

 ボリューミーな物質があなたの手に触れる。

 あなたはアナコンダを膨らませながら答えた。



 ――礼には及ばないよ。自分のためにやったことだ。



「自分のため?」



 ――そう。舐められたらやり返すのが流儀でね。犬はしつけてやらないと、吠えたまんまだ。しつけたことが巡り巡って、俺のためになる。だから、ああしたってだけさ。



「ふふっ、マーケッタを犬呼ばわりか。面白いやつだな」



「ええ、頼もしい限りです」



 横から主従コンビが口を挟む。

 目を丸くするカーラに対し、あなたは言った。



 ――でだ。俺はまだ、あのお嬢さんのしつけをやりきってない。あの跳ねっ返りは、またわざと突っかかってくると思う。おちおち安眠させてくれそうにない。



「どうする気なの?」



「興味ありますわね」



「ん」


 いつの間にやら全員があなたの言葉に耳を傾けていた。あなたは全員を見回し、最後にアリスと先週パーティを組んだ三人を見た。



 ――カーラ、レン、シモン。



 原作のアリス個別イベントの内容をあなたは真似することにする。

 激怒の兎に襲われて壊滅しかけたのはスカウトのせい。パーティがへぼなんじゃなく、アリスが下手くそであることをあなたは突きつけることにした。


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