異世界転移したらゾンビ化した俺の話聞く?
猫山 鈴
序章
プロローグ
「蒼馬君。大丈夫?車酔いとかしてない?」
「あ〜…大丈夫っす」
「そう?遠慮しなくていいからね?」
遠慮かぁ…いやするに決まってるじゃん…。
◇
なんて冒頭で凄え俺クールでアンニュイな男なんだぜ?みたいな空気を出してしまった哀れな男子中学生は俺、"
見た目は何処にでもいる前髪が少し長い黒髪の癖っ毛。目の色もなんの変哲もない黒い目である。
体格も背丈は平均がそれ以下。体重も平均かそれ以下。
筋肉がついた試しのない貧相な体である。
そんな平凡な俺は現在、遠い遠い親戚のおじさんの軽トラの助手席に押し込められ運ばれている。
というのも…俺の家庭環境なんだが、俺の両親が借金こさえてとんずらこいてしまい、ヤのつく自由業の方々に目をつけられてしまった。
その結果両親は蒸発、まだ幼稚園ぐらいの俺は置いてけぼりされた挙句いつのまにか両親は帰ってこなくて天涯孤独になったのだ。
その結果、やはり起きるのは俺をどうするか問題である。
いやぁ…押しつけ合いされたされた。その結果なんかもうタライ回しにされにされまくり現在に至る。
この親戚ガチャ。いい時は良いんだけどクソな時はマジでクソである。
それにもうあったことのない親戚まで来てるからそりゃあ緊張するし遠慮する。だがこうやって声をかけてくれるのだから今回は当たりかもしれない。
けど早く大人になって一人になりたい。そしてこんなタライ回しのループから抜け出したいものである。
そんな思考を巡らせてると軽トラが止まった。赤信号の様だ。
「うわぁ…この赤信号長いんだよなぁ…。蒼馬君ごめんね?少し時間かかるけど」
「いえそんな気にしないでください」
周りは田んぼ田んぼ。田んぼだらけである田舎道。こう言うところって熊とか鹿とか、狸とかでるのかな?狸は見てみたいかも…
「ん?何だあの車!止まれ!」
と突然叔父さんが怒鳴り声をあげてクラクションを鳴らした。何事かと見回すと後ろの方から急スピードで走る車がいた。
叔父さんがクラクションを鳴らすも止まらない。よく見ると運転してる人が眠っている様である。
「やばい!蒼馬君!早く車から降りるんだ!」
とおじさんが促す。しかし…
◇
…あれ…俺死んだ?
結果として間に合わなかった。ぶつかる瞬間はまるでスローモーションの様に周りの景色がゆっくり流れていた。でもだからと言って体が早く動ける訳ではない。
軽トラに居眠り運転の車が突っ込んできて俺は巻き込まれた。その直前におじさんの青くなった顔が見えた。
けどその直後俺の視界は真っ赤に染まり激しい痛みが走った。
「あ…ああ…」
眩む視界に見えるのは真っ赤に濡れたアスファルトの地面。恐らく何処か内臓の一部であろう白い塊。
最後の最後に何故こんなグロいもの見て死にゃあならんのか…それに…
「(俺が…一体前世に何したってんだよ…)」
俺の側で必死に呼びかけるおじさんの声や田舎のカエルの鳴き声やらが少しずつ聞こえにくくなり、そして完全に俺の耳から音が遮断された。
そして俺は意識を失った。
◇
-side叔父さん(※三人称視点)
「蒼馬君!蒼馬君!目を開けてくれ!」
目を閉じてだらりと力をなくした蒼馬に叔父さんは必死に声をかける。
しかし蒼馬は目を開けない。体からはドクドクと血液が流れて、四肢が辺な方向に曲がっている。周辺には彼の内臓…果ては目玉まで飛び散っている。あまりに酷い。
加害者の方も頭から血を流している。
「そんな…」
目の前の惨状に叔父さんは膝をついた。だが次の瞬間。
「え…うわ!何だこの光!」
蒼馬の体が転がる地面に突如謎の光が出現した。そして更に一際強く輝く。その余りの眩しさに叔父さんは目をぎゅっと閉じた。
暫くして光が止み始めた頃に叔父さんが目を開けると…
「あれ…蒼馬君!?」
蒼馬の体が一瞬のうちに消えてしまったのである。周りに飛び散る血液や内臓、目玉を残したまま…。
◇
一方その頃蒼馬の体が消えた直後のとある王国。
「おお!召喚の儀が成功したようだ!」
真っ暗な遺跡の中…頼れる灯りは松明の炎だけの謎の部屋にて、黒いローブを着た人々とそれに混じって王冠を被り赤い高級なコートを着た老人が何やら歓喜していた。
そんな彼らが囲むのは先程、叔父さんが見た光と同じ見た目の光である。
人々はその光を希望を宿した目で見つめていた。
「これで…これで我々の国は安泰だ!」
老人の言葉に黒ローブの人々は歓喜の声を上げた。
瞬間。光は更に強く輝いた。人々は光が止む瞬間を今か今かと待ち構えていた。
そして光の中に何やら寝ている人影を見て人々は更に目を輝かせた。そして光が止み始めた時、老人は鼻息荒くその光の中から出てきたら人影に近寄った。
「よくぞ来た!きゅう…せい…?え…な…なな…何だこれはぁぁあ!」
老人は腰を抜かして倒れ込んだ。
近寄った人影。それは酷く損傷の激しい若い青年の亡骸であった。目玉は片方なくなっていて四肢が変な方向に曲がり、そしてお腹はぐちゃぐちゃになっている。
その光景を見た黒ローブの中ではあまりにグロいその光景に吐き出す人物もいたり、気絶する者もいた。
老人は目を見開き口を魚の様にパクパクした後、近くにいる黒ローブの一人を捕まえて抗議した。
「これはどういう事だ!ワシらが呼ぶのは異界の救世主であろう!?
何故こんなよく分からん小僧の死骸が召喚されるのだ!」
「いやですが…確かに何度も確認しましたが特に間違った手順は…」
黒ローブは慌てて弁解するが老人の怒りは止まらない顔を真っ赤にして黒ローブの者達に命令を出した。
「今すぐにこの死骸を山にでも捨てて来い!此処にあっても困る!」
「は…はい!」
黒ローブの集団はすぐさまその青年の亡骸を麻袋に入れてそのまま部屋を出て行った。
その様子を老人は怒り顔で見つめて
「全く…儀式に何か間違いがあったのかもしれぬ!直ちに確認しなおせ!」
「はい!」
老人は機嫌を悪くしてドスドスと音を立てて部屋を出て行った。
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