勇者勇者とうるせぇよ
遥 奏多
序章
プロローグ
今からおよそ五○○年前、迫害に耐えかねた魔族は人族に対し宣戦布告した。
魔法という強力な力を恐れた人族は、魔族を魔獣――つまり、ヒトではなくケモノだと分類し、抑圧、管理することでその脅威を抑え込んでいた。その不満が爆発した結果が、宣戦布告。第一次人魔大戦の勃発である。
大戦末期、数による不利から追い込まれた魔族の指導者ディアークは、ひとつの賭けに出る。それは、「魔王降誕の儀」と呼ばれる儀式。
儀式によってディアークは全ての魔族を統べる「魔王」となり、ディアークの庇護下にある魔族の力は、飛躍的に向上した。しかし、その代償もまた大きかった。
突如として力を得た多くの魔族は、その力を抑えることができず、力をコントロールできるようになるまで理性を失うほどの苦痛に襲われ、狂気に落ちる者が後を絶たなかった。それは「魔王」であるディアークも例外ではなく、気が狂うほどの苦痛に身をゆだねながらも、魔族の王として、ディアークは理性を保ち続けなければならなかった。
身を亡ぼすほどの「魔王」の力だったが、魔族は生き残りをかけた執念でそれをコントロールし、今度は人族を追い詰めることとなる。一転して窮地に追い込まれる人族。だが魔族に魔王がいるように、人族にもそれと対になる存在があった。
それが、「勇者」と呼ばれる存在だ。
人族の窮地に突如として現れた勇者は、人族の王の言葉により、魔王ディアークのもとに攻め入る。だがここで、人族の王も予想していなかった事態が起こる。
魔王ディアークの元へと至るまでに多くの魔族をその手にかけた勇者は、自然、魔族と人族について深く知ることとなる。その結果、勇者は魔族を救う選択をしてしまう。魔王ディアークを封印することですべての魔族の狂化を解き、戦争の原因となった人族の魔族迫害を収めるために、人族の王を断罪した。
そして新たに興った国が「神聖国ハイリア」。魔族と人族が共生する理想郷。
こうして、人と魔は手を取り合い、平和に暮らしたのだった。
「めでたしめでたし、ってかぁ? 根本的な解決にゃぁなってないって気づかねぇかな、ふつう」
あきれたような声を出しながら、黒ローブをまとう赤髪の青年は周囲に炎をまき散らす。ゴォッと音が聞こえそうなほどの勢いで燃え盛る炎は、彼の周囲にいる敵をことごとく焼き尽くした。
「でもさぁ、その勇者、どうして魔王を殺さなかったのかな。人族の王様は殺したんだろ? 喧嘩両成敗って考えれば、魔王のほうも殺っとくべきだったんじゃねえの?」
納得いかないとばかりに首をひねるのは、少女と見まごうばかりの金髪の少年。左胸から腕にかけて大仰な防具を付けたその少年も、鈍器のような武骨な直剣を振り回して群がる敵をなぎ倒していく。
「ふたつの種族を見て、非があるのは人族だと判断したんだろう。当時の勇者の考えもわからなくはないけど、僕も、どうせなら魔王にとどめを刺してほしかったと思うよ。そうすれば、今こんなことにはなっていないのだから」
少年の疑問に答えたのは、騎士然とした装備を身に着けた黒髪の青年だ。穏やかな口調、穏やかな表情で答えてはいるが、その手には見た目とはなんとも不釣り合いな、大きな鎌を持っている。
それを手足のように扱い、黒ローブの青年の背後に迫る二人の敵の首を、きれいに一撃で落として見せた。
「ほら、レヴィ。油断が過ぎるよ」
「っと、わりぃな」
二人はそのまま背中合わせになり、阿吽の呼吸で近くの敵にも遠くの敵にも、自在に対応して見せる。
「うーん、それでもやっぱわかんねえなぁ。封印とか中途半端じゃん。――あ、ごめんフリーダ、そっち行った」
騎士風の青年の答えに納得ができなかったのか、金髪の少年は再度疑問の声を漏らす。が、その答えを聞くより先に、少年は後方の少女に注意を促す。
「さっきからわかんない、わかんないって……」
苛立たしげに刻まれる、高く澄んだ美しい声。その声の主は、薄紫に輝く髪をなびかせながら、片刃の流麗な剣を戦場に走らせる。
「私が一番わからないのはどうしてあんたたちが今更、誰でも知ってる昔話を話し始めたのか、なんだけど」
立ちふさがる敵――魔族を一刀のもとに切り捨てて、剣を肩に担ぐ。修道服を身にまとったその少女は、不機嫌そうにそうつぶやいた。
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