第36話

彼の部屋に来た。

ほんの数時間離れただけなのにとても懐かしい想いがした。


抱かれたままの私を彼はベッドに下ろした。


彼に上から覗かれて恥ずかしい思いがしたがとても満たされた気持ちだった。


胸の辺りがヒリヒリする。


「君がしたことはとても褒められたことじゃないけど…なぜ僕は嬉しいんだろう」


彼がそう言ったかと思ったら。

私が返事する前に彼の唇に言葉を塞がれてしまった。


氷のように冷たい彼の唇。


彼が私の指に指を絡めてきた。

冷たい彼の体温とは裏腹に体が燃えるようだった。


彼の舌が唇を割って優しく入ってくる。

それを受け入れると彼は嬉しそうにクスリと笑った。


その意地悪な感じが悪魔っぽかった。

彼が体を離して私の目をじっとみてくる。


「ごめんね。好きになってしまって。僕のせいだよね」


そう言って彼がキツく私を抱きしめた。


「いいの。私幸せになれたんだもの」


彼が私を抱きしめたまま目を見つめてきた。

そして彼のまつ毛がそっと私の額を撫でる。


「君が死んで地獄に来ちゃっただけで終わればまだしも、きっともう…。

いつ僕たち消えちゃってもおかしくない」


あぁ。そうだ地獄では幸せになったら消えちゃうんだった。

でもそう、それでもよかったんだった。


それでもよかったかから帰ってきた、彼に幸せをひとときでも与えてあげたかった。


地獄での永遠の虚空を過ごさせるなんてできない。


だから私は彼と消えるの。

一緒に…。


「一緒に行こう。きっとずっと虚無に行ってもこの幸せな思い出があれば平気だよ」


私をまた強く抱きしめてくれる。

そして耳元で優しい声が聞こえた。


「僕を解放してくれて…ありがとう」

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