しおりんの算数教室
栞の家の近所に住む小学3年生の
「私なら簡単に教えられるわ」と自信満々だった栞でしたが、実際に絢美ちゃんと向き合うと、事態は思わぬ方向に進んでいきました。
「えーっと、絢美ちゃん。掛け算の筆算はね、こうやって位取りを合わせて……」
栞は丁寧に説明しますが、絢美ちゃんの目は次第に泳ぎ始めます。
「うーん、よく分かんない……」
栞は困惑しつつも、別の角度から説明を試みます。
「じゃあ、こう考えてみよう。掛け算は足し算の繰り返しで……」
しかし、ある意味数学の解体という高度な概念を持ち出してしまった栞の説明に、絢美ちゃんはますます混乱してしまいます。
「栞お姉ちゃん、難しすぎるよ~」
栞は焦りながらも、懸命に説明を続けます。
しかし、彼女の言葉は絢美ちゃんの理解をどんどん超えてしまい、二人の間には大きな溝ができてしまったのでした。
そんな中、扇華が栞の家を訪れました。
「あら、絢美ちゃんも来てたの? 何してるの?」
「扇華お姉ちゃん! 算数の宿題なんだけど、全然分かんなくて……」
状況を察した扇華は、優しく絢美ちゃんに寄り添います。
「そっか、じゃあ一緒に考えてみよう」
扇華は絢美ちゃんの目線に立ち、身近な例を使って説明し始めます。
「ねえ、絢美ちゃん。お菓子が3つ入った箱が4つあったら、全部で何個のお菓子があるかな?」
「えーっと……12個?」
「そうそう! その考え方が掛け算なんだよ」
扇華の分かりやすい説明に、絢美ちゃんの目が次第に輝いていきます。
栞は横で黙って見ていましたが、自分には思いつかなかった方法で扇華が上手く教えている様子に、複雑な表情を浮かべていました。
しばらくすると、絢美ちゃんは嬉しそうに宿題を見せます。
「できた! ありがとう、扇華お姉ちゃん!」
栞は自分の無力さを感じ、静かに部屋を出ていきました。
絢美ちゃんが帰った後、扇華は落ち込む栞に声をかけます。
「しおりん、大丈夫?」
「うん……ごめんね、扇華。私、全然役に立てなかった……あんなに自信満々だった自分が恥ずかしい……穴がなかったら掘ってでも入りたい……」
栞は肩を落とし、悔しそうな表情を浮かべます。
「私、人には頭がいいって言われるけど、その人に教えるのは全然ダメみたい。扇華の方がずっと上手だった……」
扇華は優しく栞の肩に手を置きます。
「そんなことないよ。しおりんは難しいことを簡単に理解できるから、かえって初心者の気持ちが分かりにくいだけなんだと思う。でも、それはしおりんの長所でもあるんだよ」
栞は少し顔を上げ、扇華を見つめます。
「本当に?」
「うん、本当だよ。これを機に、人に教えるコツも学んでいけば、きっとしおりんはもっと素晴らしい先生になれると思う」
扇華の言葉に、栞は少し元気を取り戻したようでした。
「ありがとう、扇華。次は私も、相手の立場に立って考えてみるよ」
こうして栞は、新たな課題に向き合う決意を固めたのでした。彼女の科学者としての探究心は、今度は「人に教える技術」という新しい分野へと向けられることになったのです。
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