しおりんのエアコン大作戦

 ある暑い夏の日、栞と扇華は栞の家の涼しい部屋で過ごしていました。扇華はアイスティーを飲みながら雑誌を読み、栞は何やら難しそうな数式を書いたノートとにらめっこしています。


「あー、暑すぎ」


 扇華が溜息をつきました。


「エアコンの設定温度、もう少し下げてもいい?」


 栞は計算に夢中で、返事がありません。


「しおりん?」


 扇華が呼びかけると、栞はハッとして顔を上げました。


「あ、ごめん扇華。何か言った?」


 扇華は少し心配そうに栞を見ました。


「大丈夫? 随分真剣に何かしてたけど」


 栞は嬉しそうに目を輝かせて答えました。


「うん! 実はね、家のエアコンの省エネ性能を上げる方法を考えてたんだ」

「え? エアコンの?」


 扇華は驚いて聞き返しました。

 栞は熱心に説明を始めました。


「そう。今のエアコンの冷却システムって、まだまだ非効率的なんだ。でも、熱力学の法則を応用して、冷媒の循環システムを最適化すれば、消費電力を20%以上削減できるはずなんだよ」


 扇華は目を丸くして聞いていました。


「へぇ……すごいね」


 栞はさらに続けます。


「それに、人工知能を使って室温や湿度、外気温の変化を予測し、最適な運転パターンを自動で選択するシステムも考案したんだ。これを実装すれば、さらに10%くらい省エネになるはず」


 扇華は感心しながらも、少し困惑した様子で言いました。


「でも、そんな複雑なことを家庭用エアコンでできるの?」


 栞は自信たっぷりに答えました。


「大丈夫、技術的には十分可能だよ。むしろ、既存の技術の組み合わせで実現できるんだ。ただ、製造コストの問題があるから、量産化にはもう少し時間がかかるかもしれないけどね」


 扇華はますます驚きました。


「ちょっと待って、しおりん。それって、完全にオリジナルのアイデア?」


 栞は少し照れくさそうに頷きました。


「うん。昨日から考えてたんだ。まだ細部の計算は終わってないけど、基本的な設計は出来上がったよ」


 扇華は言葉を失いました。

 栞が天才的な頭脳の持ち主だということは知っていましたが、こんなにも実用的で革新的なアイデアを、わずか一日で思いつくなんて。


「しおりん……」


 扇華はため息をつきながら言いました。


「しおりんって本当にすごいね。こんな難しいこと、普通の人には絶対に思いつかないよ」


 栞は少し赤面しながら答えました。


「そんなことないよ。ただ、面白いと思ったことを追求しただけだし。ちょっとお部屋暑かったし」


 扇華は優しく微笑みました。


「それがすごいんだよ。しおりんは自分の興味のあることを、こんなにも深く考えられる。しかも、それが人の役に立つものになるんだから」


 栞は照れくさそうに髪をかきあげました。


「ありがとう、扇華。でも、こういうアイデアを実現するには、君みたいに人の気持ちがわかる人の意見も大切なんだよ」


 扇華は心の中で思いました。


(しおりんって可愛いけど、本当に天才なんだな~)


 そして、声に出して言いました。


「じゃあ、そのすごいエアコン、早く作って作って!」

「ん~~~」


 栞は何やら難しい顔をしています。


「どうしたの、しおりん?」

「なんか完璧な理論が出来たらあとはめんどくさくなっちゃったー!」

「なによそれ~」


 二人は無邪気に笑い合いました。


 そしてそのあとエアコンの設定温度を2度下げたのです。

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