第46話 装備完成&パーティー登録
瞬く間に数日が過ぎ、ついにゼファーたちの装備が納品される日がやってきた。
ここはフェローズ工房のエントランス。
ゼファーたちがフル装備に着替えて登場するのをララノアやブロッソニア、ロゼルにメルアリアが今か今かと待ち構えていた。
「ゼファーちゃんの晴れ姿、ママ楽しみですわ~」
「五百億ゴールドかけたのです。きっと素晴らしい出来栄えに違いありません」
その中には目の下に酷いくまを作ったラムリザの姿も。
だた、表情に少し影があり、やや不穏な雰囲気を漂わせていた。
一番最初に現れたのはガルカだった。
背中に背負う長剣は、両刃で飾り気のないシンプルなもの。刀身が赤いことから炎属性が付与されているようであった。
衣装はトレードマークのヘアバンダナに合わせて漆黒の軽装スタイル。せいぜい防御力がありそうなのは肩にある皮鎧くらいで、動きやすさと排熱を最優先にしているようだ。
「へぇ~、なかなかセンスあるじゃん」
ガルカを見て、ロゼルが感心していた。
続いて現れたのはゼファー。
やはり一番目立つのは
衣装は注文通りで、上半身はノースリーブでシュッとしており、下半身は前垂れとスカートの様な腰巻マントによって膨らんだシルエットになっていた。
また金属防具は手と足のみ。ロゼルを真似た洒落たデザインがしっかりと反映されていた。
「まあまあっ……すごく立派ですわ~」
「可愛すぎず、カッコよすぎず。いい塩梅で落ち着いたようですね」
その反応からして、ララノアとブロッソニアの両者はフェローズ工房の仕事ぶりに満足できたらしい。
ゼファーから少し遅れて、ユイドラがやってくる。
精霊球が彼女の周囲で浮遊し、速攻魔法用の短杖は右太ももに装備されていた。
こちらも衣装は注文通り。それなりに布面積のある踊り子衣装に、最先端の魔導技術が詰まった特別製レオタードと背中を覆うマント。それらはユイドラの澄んだ空色の瞳と合わせて、淡い水色でまとめられていた。
ユイドラがギロリとラムリザを睨む。
蛇に睨まれた蛙のようにビクッと硬直するラムリザは、心の中でひっそりと謝罪していた。
(ヤバッ……あの様子じゃ、レオタードの背中が紐だってバレたみたいッスね。すまんッス!)
こうしてゼファー、ガルカ、ユイドラの三人が揃ったが、イルヴィはまだ来ていなかった。
全身甲冑であるため、もしかすると装着に手間取っているのかもしれない。
「イルヴィのヤツ、おっせーな」
せっかちなゼファーが貧乏ゆすりしながらそう言った。
「装備を注文する時、すごくこだわってたからね。きっと全身甲冑眺めて、一人で感動してたりするんじゃない?」
「ん……もしくは、完成が間に合わずに揉めていたりしてな」
ユイドラのセリフを聞いて、ラムリザが意味ありげにビクッと体を震わせる。
その時だった。
二階と繋がる階段からドタドタと騒がしい足音が降りてくる。
イルヴィの第一声は怒りを孕んだものであった。
「ちょいちょいちょいッ!? 注文と全然チガウんですけどォーーーッ!??」
顔を真っ赤にして怒るイルヴィの足元へ、ラムリザが頭から滑り込む。
魚のように床に寝そべっているのは謝意を表しているのだろうか。ただラムリザの第一声は言い訳であった。
「やっぱ一週間じゃムリだったッスゥウウウーーーッ!!!」
全身甲冑で間に合ったのは頭部と手足のみ。
胴体は適当に間に合わせるためか、ビキニアーマーであった。とは言え、肌が露出しているわけではなく、通気性と耐靭性に優れたアンダーウェアで露出は一切なかった。
ちなみに、武器であるハンマーと大盾は完成済みであった。
「こうなっちゃったワケ、ちゃんと説明してくれるんでしょーねっ!」
「ええと、その……他のお三方を優先した結果、イルヴィ殿にしわ寄せが集中してしまったという感じッス……」
「あーし、タンクだよ? 一番最初に接敵する役目なんだよ?」
ラムリザはムクリと起き上がり、なんと正座の姿勢で間に合わなかった理由を正当化し始める。
「そ、そうッスけど! でも、最初のひと月は浅い階層で肩慣らしするはずッスよね? その場合、むしろ全身甲冑は防御過剰になるッスから、ビキニアーマーでも全然問題な――」
イルヴィがラムリザの胸ぐらを掴んで怒鳴る。
「――うっさい! さっきから言い訳ばっかでうっさいし、そもそも問題はソコじゃないし!」
「ひぃ~ッ……!」
「全身甲冑はあーしの夢なの! それが後回しにされたってことがチョームカつくっつってんの!!」
「そ、それは済まなかったッス……申し訳ないッス」
「あーしが欲しいのは、謝罪の言葉じゃなくて……全身甲冑がいつ頃完成するのかってコト!」
「にッ、二週間あればッ……確実に納品できるはずッス!」
「今度こそ絶対だかんね?」
イルヴィに睨まれて、ラムリザは無言で激しく頷いていた。
言いたいことを全て吐き出し終えたのか、イルヴィはゼファーたちの下へとやってくる。
「ごめん、お待たせー!」
「災難だったな?」
「んー、そもそも一週間で四人分ってのがムチャだったのかもねー」
ユイドラの労いに対し、イルヴィは少しだけラムリザへの理解を示していた。
こうして全員が揃ったため、ララノアが次の予定に向けて音頭を取る。
「これで、皆さんの準備は整いましたね?」
「あ、ちょっと待った! 俺、ロゼルに頼みたいことがあってさ。すぐ終わるから、待っててくれ」
そう言って、ゼファーがロゼルの下へダッシュする。
「お、どうしたゼファー?」
「あのさ、コレで前みてーにカッコよくして欲しい」
ゼファーが手渡したのはクレハから貰ったかんざしであった。
「あぁ、あの時のヤツか」
ロゼルが思い出しているのは、冒険者ギルドで初対面した際のこと。
自己紹介をしながら、浄化の神聖魔法をかけてあげたり、ヘアアレンジしてあげたヤツである。
「いいぜ……俺がゼファーをカッコよくしてやる」
ロゼルは前と同じ手順で、ゼファーの髪型をセットしていく。
「前と違って、綺麗な髪してるからあっという間だな」
髪を一つに束ね、時計回りに数回ねじる。その際、後ろ髪の二割くらいを髪束の外に。一本の毛束となったそれの真ん中に上からかんざしを挿し、くるりと半回転。かんざしの先が右下を向くようにしてひっくり返すと、そのまままとめた髪束にぶすり。
ポニテの様なおさげが垂れ下がるオシャレなヘアスタイルの完成である。
「よし、カッコよくなったぞ」
「あんがと、じゃ行ってくる」
そう言って、ゼファーはユイドラたちの下へと駆け戻る。
「みんな悪ィな、待たせちまって。んで、さっそく魔界か?」
「いいや、その前に……パーティー登録を済ませる必要がある」
ゼファーにそう答えたのはユイドラであった。
「あれ? まだだったの? 俺ァ、てっきり勝手にされてるもんだと……」
ララノアがパーティー登録が遅れた理由について話す。
「実は……有望な冒険者パーティーには専属の担当官がつくのですけれど、ゼファーちゃんは勇者でしょう? それゆえに、希望者が殺到しすぎてその選定に時間がかかったようでして……今日になってようやくその専属の担当官が決まったらしいのです」
「ふぅ~ん?」
「という訳で、パーティー登録のため冒険者ギルドへ参りましょうか」
こうして、ゼファーたちは冒険者ギルドへと向かうことになったのだった。
§ § §
「初めましてにゃん! にゃーは、勇者ゼファー様が率いるパーティーの専属担当官を務めさせて頂く……ユル・シャムと申す者ですにゃん。これから、よろしくですにゃん!」
ここは冒険者ギルド内にある面談用の個室。
部屋の中にいるのはゼファー、ユイドラ、イルヴィ、ガルカの四人だけで、その他の人たちは冒険者ギルドのエントランスホールで待機している。
「何か、変わった言葉遣いしてんな?」
そう言って、ゼファーが思ったことを素直に口にしていた。
語尾ににゃんとつけられれば、どうしても聞かずにはいられなかったのだろう。
「猫人族に会うのは初めてにゃん? にゃーたち一族は
「え? そうな――いやでも、初めて会った猫人族、セラは普通に話してたぜ?」
そう聞いた瞬間、ユル・シャムの目が細まり険しい顔つきになる。
「そいつは偽物ですにゃん。まがいものにゃん。一族の面汚しにゃん」
「いやいや、ちゃんと耳も尻尾も動いてたし……って、一族の面汚し?」
「実を言うとここだけの話……にゃーたちの言葉遣いはキャラづけにゃん。こんにゃこと言わせないで欲しいにゃん」
耳が力なくペタッとしおれ、肩を丸めて意気消沈するユル・シャム。
猫人族の複雑な事情を吐露し始める。
「本当はにゃーも普通に話したいにゃん……でも、普通に話してるところを見られたら、国にいる家族に迷惑がかかってしまうにゃん。多分、その猫人族は国を捨てたか、国の外で生まれて因習に関わっていにゃい幸運にゃヤツだと思うにゃん」
「何か……ごめん」
些細な疑問から、猫人族たちの思わぬ闇に触れてしまい、ゼファーは後悔した様子で謝っていた。
「いいですにゃん。とりあえず一旦、にゃーたちの事情は忘れて、パーティー登録を進めるにゃん」
「そ、そうだな! うん、そうしてくれ!」
「最初はパーティー名からにゃけど、もう決めてたりするにゃん?」
「あー……皆、何かあったりするか?」
そう言って、ユイドラたちに聞いていた。
「ん……特に希望はない。任せる」
「あーしも、オマカセでー!」
ユイドラとイルヴィが丸投げしてしまい、ガルカにそのしわ寄せが行くことになる。
「えっと……じゃあ、エルドラードとかはどうかな?」
「そういや、黄金郷を一緒に見ようぜって約束してたもんな。じゃ、それでいっか」
軽々しくパーティー名を決めるゼファーであったが、ユル・シャムの顔色はすごく気まずそうなものだった。
ユル・シャムがテーブルに置いてある透明の板を触ると、妖精がふわっと出現。
それからぼそぼそと妖精に何かを指示すると、こくりと頷いた妖精が透明の板に文字を書いていく。
「エルドラードにゃんですが……既に558のパーティーが登録済みですにゃん。めっちゃ被ってますにゃん……」
「被ってると、やっぱまずいか?」
「できれば……被ってない方がいいですにゃん」
ゼファーたちがうんうんと悩み始める中、ユイドラが仕方ないなといった感じで口を開く。
「アウレリラ、というのはどうだ? これは私の故郷に伝わる古い言葉で、意味は――黄金郷だ」
さっそく、ユル・シャムが妖精を通して調べる。
「被りは……無しですにゃん!」
「じゃ、アウレリラで決定で」
「わかりましたにゃん」
そう言って、ユル・シャムが書類に書き込んでいた。
「次はリーダーですにゃん。リーダーは勇者ゼファー様でよろしいにゃん?」
「え~、リーダーって何か面倒臭そうなんだよなあ……他にやりてーヤツいねーか?」
ゼファーがガルカに視線を送るが、首を横に振られ拒否されてしまう。
続いてイルヴィを見るも同じく拒否。すがるような目で、金等級冒険者であるユイドラに助けを求めるが突き放されてしまう。
「俺ァ、バカなのに……俺がやるしか、ねーのか。はあ……」
ダルそうなゼファーに対して、ユイドラが助言する。
「なにも、一人で背負う必要はない。わからないことがあれば、私たちを頼れ」
その言葉に、イルヴィとガルカも頷いていた。
「そっか。んじゃ、リーダーは俺で」
こうして諸々の決め事を終わらせ、ユル・シャムが告げる。
「これでパーティー登録は終わりですにゃん。お疲れ様でしたにゃん」
個室を後にしようとするゼファーたちに、ふと言い忘れたことを伝える。
「あ、そうにゃん。この後、
「
ここで金等級パーティーの一員だったユイドラが、上位の冒険者パーティーのポーター事情について補足する。
「冒険者の階級が上がれば当然、冒険も過酷になるからな。付き添うポーターも、それ相応に優秀さを求められるようになるんだ」
「どう違ってくるんだ?」
「そうだな……戦闘のサポートからマッピング、ドロップ回収、設営、魔物や魔獣に関する知識、作戦立案など何でもこなせる便利で万能な人員、といったところか」
「へぇ~闇ポーターと違って、めっちゃ凄そう……」
「にゃーが見つけた
「ふぅ~ん? 何か凄ェらしーけど、キレーなお姉さんだったらいいなあ……」
不純な期待を胸に、
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