第43話 夢が叶うとき1

「あら~♡ すごく可愛らしいですわ~、ゼファーちゃんの――ネグリジェ姿♡」


 俺は色鮮やかなピンクのネグリジェを着せられていた。

 当たり前だけど、ネグリジェは女の子が着るもの。カッコイイデザインなわけがあるはずもなく、長袖ワンピースタイプでフリフリが付いた可愛らしいデザインのヤツだった。


 なぜ、俺がすんなりとこんな服を着たのか。


 それはブロッソニアのパンティーを履いてある種、覚悟が決まったから。

 と同時に、もはや逃げられない運命を悟ってしまったので、せめて男バレを防いでちんちんだけでも死守しようと思ったのだ。


(相棒は俺が守るんだッ……!)


 ここはロゼル邸でララノアが間借りしている客室。

 家具は人用のサイズで、体が大きいララノアには不便そうな感じだけど、ここともあと数日でお別れだ。


 というのも、物件探しに出かけたララノアとブロッソニアはいい物件を見つけたらしい。

 ただ今すぐ入居は流石に無理らしく、妖精郷にいるメギロト族の従者を新たに二人ほど応援に呼んで、掃除や家具の搬入をしてからの入居になるようだ。

 もちろん、俺の仲間であるユイドラ、ガルカ、イルヴィもそこに住む予定だ。


「うふふっ……初めての添い寝ですもの。せっかくなら、ママとお揃いの方がいいですわよね~」


 頬に手を当てて、ララノアがうっとりと俺の姿に見惚れていた。


「えぇ、えぇ……マスターとゼファーは仲睦まじい親子なのですから、お揃いの方がよろしいでしょう」


 そう言って、ブロッソニアがララノアをよいしょしていた。


 ここにはララノアの専属従者であるブロッソニアもいた。

 その理由は俺が必死でお願いしたから。男バレの危機が訪れてしまった時のための保険として、三人で一緒に寝たいとララノアに申し出たのだ。

 ちなみに、ブロッソニアまでピンクのネグリジェを着ているため、三人揃ってお揃いの恰好だった。


「ほらほら、ママのお膝の上においでゼファーちゃん」


 母の様な笑みを浮かべるララノアが、ポンポンと太ももを叩いて膝枕を促していた。


 キレーなお姉さんの膝枕と思えば、役得ではある。

 男バレの心配もなさそうだし、言う通りにするか。


 俺はこくりと頷いてララノアの太ももの上に横になる。

 そこは見た目通りすごく柔らかく、極上の膝枕だった。経緯はどうであれ、俺が幸せ者なのは間違いない、と信じたいところだ。


「それじゃあ、ママが耳かきしてあげますからね~」

「耳かき?」


 俺の疑問にブロッソニアが答える。


「耳のお掃除のことです、ゼファー」

「ふぅ~ん? 俺、そんなことしたことねえや」

「あらあら、ゼファーちゃんは女の子なんですから、身だしなみには気を使わないとダメですわよ~?」

「ま、まあ……今度からは気が向いたら、するよ」

「この様子ですと、そのうち一緒にお風呂に入ってあげた方がいいのかもしれませんわね~」


 一緒にお風呂は流石にまずい。

 裸の付き合いということになれば、男バレはほぼ不可避だろう。


「いけません、マスター。いきなり距離を縮めてしまってはゼファーに嫌われてしまいますよ?」

「……それもそうですわね。とは言え、身だしなみを整えるのは大事なことですし……そうだわ。しばらくの間、ブロッソニアが一緒にお風呂に入って、体のお手入れの仕方を教えてあげてちょうだいな」

「了解いたしました。我にお任せください」


 突然訪れた危機はブロッソニアの機転により回避された。


(ふぅ……ブロッソニアを呼んで正解だったぜ)


 そうして俺が一息ついている間に、耳かきが始まる。


「まあまあっ……見て見てブロッソニア! でっかいのがとれましたわあ~」

「これはッ……大物ですね!」

「この調子でどんどん、掘り進めますわよ~!」


 といった具合に、二人で大盛り上がりしていた。


 そんなこんなで耳かきも終わり、いよいよ添い寝へ。


「さあおいで、ゼファーちゃん」


 ベッドに横になったララノアが、隣をポンポンと叩いて誘っていた。


 早速、キレーなお姉さんとフカフカのベッドで寝るという夢が叶うのか。

 そう思えば、感慨深いものがある。でも、男バレからの相棒とおさらばというリスクも同時に存在していたけども。


(まあ、その時はブロッソニアが何とかしてくれるだろ)


 俺はそう気楽に考えながら、ララノアの隣に寝っ転がる。

 とはいっても、多少の気恥ずかしさがもあるため、少しだけ間を空けてしまった。


 しかし、その隙間はララノアによってすぐ埋められてしまう。


「よいしょっと……これでよし」


 次の瞬間、俺のお腹にララノアのたわわな爆乳がドスンと乗っかってくる。


「うぶッ」


 俺とララノアには大きな体格差があるため、頭が同じ位置だとこうなってしまうのだ。


(これ……ララノアが寝返りをうっただけで、俺は押し潰されてしまうのでは?)


 そう思いながらふと視線を下に向けたら、俺のお腹に肌色の双壁ができていた。

 それは縦に積まれた二つのおっぱい。かなりの重量がお腹の一点に圧し掛かっているため、寝返りどころか身動きすら出来なくなってしまった。


「では、我も失礼いたしますね」


 俺の隣にブロッソニアも寝そべってきた。

 さり気になく、片足を俺の下半身に絡めるのは、男バレを阻止するためのガードなのだろうか。


(ちょっと、位置が……)


 足がおかれた場所が危ういため少しだけ気になるものの、ガードのためならば仕方ない。ここは我慢しよう。


 こうして、俺は二人のキレーなお姉さんに添い寝されながら、フカフカのベッドで寝ることになった。


(はあ……何だかんだ、キレーなお姉さんとの添い寝は最高だぜえ)


 何はともあれ、夢が一つ叶ったんだ。

 ここは素直に喜ぶべきところだろう。あれもこれもと欲張っていては、罰が当たるに違いない。


 ウトウトした意識の中で、俺はこの状況を楽しむことに決めたのだった。




   §    §    §




 一夜明けて、翌朝。


 鳥たちが元気よくさえずる声で、俺は目を覚ました。

 すでにララノアもブロッソニアもおらず、ベッドには俺一人だけだった。


「くぅあ~……最高の目覚めだぜえ~」


 俺が起きたタイミングと同時に、扉がガチャリと開く。

 頭をぶつけないよう下げたララノアがくぐって入室し、その後におぼんを持ったブロッソニアが続く。二人とも既に着替えた後らしく、ララノアはオシャレなドレス、ブロッソニアはメイド服姿だった。


「おはよう、ゼファーちゃん」

「おはようございます、ゼファー」


 俺はあくびをしながら、二人に朝の挨拶を返す。


「ふわぁ……おはよう」


 音もなくスッと俺の横に来たブロッソニアが、コップを差し出し言う。


「目覚めの一杯にミルクはどうですか?」

「お? んじゃ、もらおうかな」


 俺はコップを受け取り、ごくごくと一気飲みする。


 そんな俺を母のように見守っているララノアが囁くように言う。


「ゼファーちゃん、ママのおっぱい美味しい?」

「うん、おいし――え?」


 耳を疑いたくなる言葉が聞こえて、俺の思考が停止してしまう。


「良かったですわ~。たくさんおかわりして、足りてない栄養を補給しましょうね~はい、おかわりド~ン♡」


 そう言うと同時に、ベッドの端を木枠の籠がドスンと占領する。

 その中には瓶に入ったミルクが十二本。透明の瓶にはララノアの顔らしき絵がデカデカと描かれていた。


「へっ? 今……マッ、ママのおっぱいって?」


 恐る恐る俺はブロッソニアに目線を送って、状況の説明を求めた。


「今、ゼファーが飲んだミルクは……正真正銘、我がマスターの母乳です。ついでに言うと、搾りたてでございます」

「は、はあ~……?」


 耳を疑いたくなる言葉はどうやら真実だったらしい。

 しかも、搾りたてとかいう余計な情報のおまけつきだった。


「ゼファーの体は十三にしては小柄で細いでしょう? 愛する我が子の栄養不足を見過ごすわけにはいかないと、我がマスターが母乳誘発剤を服用し、母乳を提供されたのです」

「うふふっ……ママの愛情と栄養がいっぱいのミルクを飲めば、栄養不足なんてイチコロですわ~」


 そう言って、頬に手を当て恍惚な表情を浮かべるララノア。

 多分だけど、母らしいことが出来て、非常にご満悦な様子という感じだった。


 コップを手に困惑して固まる俺に対して、ブロッソニアが母乳の良さを力説してくる。


「ゼファー? 母乳というものはこの世で一番、マナを含有する素晴らしい飲み物なのですよ? 一説には成長期に欠かさず常飲すれば、体は頑丈に育ち、それはそれは逞しく丈夫なおのこ――ではなく女子おなごへと至れること間違いなしとあります。

 それに冒険者界隈の噂では金等級冒険者は皆、母乳を飲んでマナの質を高めているとか? つきましては、これを飲まないという選択肢はありえません。というか、飲んで一切の損はありませんので、どうぞグビッと豪快に飲み干してしまいましょう」


 ブロッソニアとララノアの顔色を伺う限り、どうも俺に拒否権はないらしい。

 でも、普通に考えて母乳とは赤ちゃんが飲むものという印象があるため、どうしても気が進まない。というか、正直いうと逃げ出してしまいたい。


 それくらい、今の俺は精神的に追い込まれていた。


「ほらっ、見なさいブロッソニア! 私が言った通りじゃないですの。やっぱり、瓶ごときでは母の愛情は伝わらないのです。となれば、ここはやはり直接授乳――」


 そう爆弾発言を放ったララノアがボロンとたわわな爆乳を放り出した瞬間、あっという間の早業でそれをブロッソニアがしまい込む。


「――ゼファー! マスターを我が抑えている内に瓶に入ったミルクを飲んでしまいなさい! さもないと、赤子のように授乳させられてしまいますよ!?」


 もはや俺には瓶で飲むか、おっぱいから飲むかのニ択しか残されていなかった。

 とはいっても、実質的に選べるのは一つ。当然、瓶で飲む方だ。おっぱいから飲まされてしまった日には、俺の精神が幼児退行してしまう。


(くッ……この年でおぎゃるわけには!?)


 俺は意を決して瓶を手に取る。

 それからさっと蓋を取り、一思いにララノアミルクを口に流し込む。


 ずっと俺が飲むのを躊躇していた理由。

 それは味ではない。むしろ、非常に甘くて美味しかったぐらいだ。

 じゃあ、何がダメだったのかというと、俺の気持ちが心変わりしてしまいそうな恐怖にかられたからだ。


 最初は小さな違和感。もしくはむずがゆさ? 背徳感?

 とにかく、言葉にできない変な気持ちが芽生えてしまいそうというか、ここから先に踏み込んでしまったら、もう取り返しがつかないことになってしまう。

 そういう予感がよぎったからこそ、ずっと躊躇してしまっていたんだ。


 しかし、ここまで追い込まれてしまってはもう関係ない。

 おっぱいから直接母乳を飲まされてしまえば、どのみち俺は終わりだ。男じゃなくなってしまう。


「ゴクッ……ゴクッ……ゴクッ……ぷはッ」

「いい飲みっぷりです。さあ、もう一本どうぞ」


 ブロッソニアから手渡された瓶を受け取り、さらに飲み下していく。

 そうして、六本分飲み干したところで、とうとう限界が来てしまう。


「うッぷ……流石に、もう無理ィ」

「よく頑張りましたね、ゼファー」


 そう俺の頑張りをねぎらうブロッソニアが、ララノアに聞く。


「マスター、これだけ召し上がっていただけたのなら、既に栄養は十分ではないでしょうか?」

「そうですわね~。おっぱいから直接あげられなかったのは残念でしたけれど……まあ、それはまたの機会にということで。残った分はお昼と夕食の時にでも飲んでもらいましょう」

「えぇ、それがよろしいかと」


 どうやら、試練はまだまだ続くらしい。

 これが黄金の痣を刻まれた者に与えられる運命さだめというものなのだろうか。


(嫌だッ……俺ァ、相棒とおさらばしたくねえ)


 心も体もグロッキー状態で顔面蒼白な俺に、ララノアが今日の予定を告げる。


「今日はゼファーちゃんの冒険者登録をします。なので、可愛く――おめかししましょうね~♡」


 今の俺に出来るのは着せ替え人形としての運命を受け入れ、ただひたすらに耐え忍ぶことだけだった……。

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