第12話 リモート会議
部屋に戻った後、俺はくらげたちに報告するため、俺が机の上にPCを置き、椅子に座ってくらげたちに通信しようとすると、いつの間にか帰ってきたマシロが俺の膝の上に乗ってきた。出っ歯眼鏡の変装も解いている。いや、これから報告会するから一緒にいてくれる方が都合いいけどさ。コイツ本当に何なんだ。
「中村―。おなかすいたー。」
「お前、食堂で食ってこなかったの?」
「船のご飯の方がおいしい。」
船で出されるご飯とこの学校の学食のギャップはかなり激しいからな……。船のご飯は初めて食べた時、めちゃくちゃ美味しくてビックリした。こっちの学校の学食の方は食えなくはないけど、積極的に食べたいと思わない味だった。一応中世ヨーロッパと同じぐらいの文明レベルとくらげが言っていたから、仕方ない部分はある。
「食堂の飯だけじゃ足りん。」
「お前飯食った後でまだ食うの!?」
食堂の飯食った後でまだご飯食べるの!? コイツ、どんだけ食うんだよ! 仕方ないので、くらげから送られてきた適当やおやつをバックから取り出しマシロに食わせる。その間にくらげから渡された特殊なPCの設定を済ませる。少し待つとくらげと通信が繋がる。画面には白い生き物の顔面がでかでかと映っていた。
「キュイー。」
「はいはい。もうそろそろ時間なので、ママはどきましょうねー。」
「キュキューイ!」
白い生き物はくらげに丁寧に両手で抱っこされると短い手足を動かし、不満そうにジタバタと暴れ出す。くらげはお菓子の入ったかごの中に入れられるとキュイキュイと楽しく鳴きながら上機嫌になり、お菓子を食べ始める。可愛い。
「くらげさん、もう繋がっているみたいですよ。」
画面にファンタジーを題材にしたゲームで出てくるようなカッコいい鎧が現れた。え、誰? どこかで聞いた声だけど……。
「あ、中村さん! 僕です、陽太です!」
「え、陽太君!? その甲冑はどうしたの!?」
「ああ、この鎧は船の技術部の人が作ってくれたらしくて、今日ようやくできたんそうなんです。」
へー、あの船に技術部なんてあったんだ。……それらしい人いたかな? 俺が見てないだけか?
「いやあ、これで鏡見ても気絶しなくて済みますね!」
陽太君が嬉しそうに鎧をカチャカチャと触っていた。今まで気絶するほどゴキブリの顔が嫌だったんだな……。気持ちは分かるけど。
「あ、そうだ。くらげさんに聞きたいことがあるんですけど、この写真の銀髪の人と黒いロボについて何か心当たりありますか? 画像が荒くて見えないんですけど……。」
「ンぐふッ!」
エリックが置いていった写真をくらげに見せると、突然彼女はむせだした。コイツ絶対なんか心当たりあるな。
「すみません中村さん、その写真は誰から貰ったんですか?」
「ええっと、『タッメルの国』から留学しに来たって言うエリック・マクニースって人です。」
「ああー。ちょっと待ってくださいねえ。」
くらげはカタカタと素早くPCを操作すると、俺にはよく分からないデータが表示された。くらげのタイピング俺より速くない?
「うーん、この人『シーオン・ユービーエス』って惑星の人っぽいですねー。」
え、何? っていうかエリック地球人じゃないの?
「厄介なことになりましたねー。地球より技術が発達した惑星の警察の人ですね。」
「はあ……。なんでそんな惑星の人がこの世界に来てるんです?」
俺がそう言うと、くらげは冷や汗を垂らしながら全力で目を逸らす。何か不都合なところでもあるのか? ……コイツら指名手配犯だったりしないよね?
「あれ、この黒いのヒダカじゃね?」
マシロがお菓子を食べながら特になんて事のないように話す。え? これヒダカなの? 確かに言われてみればヒダカに似てるな。……アイツ、こんな破壊行動するの? 怖っ。
「まあ、ポンコツロボのヒダカならやるんじゃない?」
「あ“あ”?」
「「あーっ!」」
マシロの煽りを受け、ヒダカがくらげと陽太君を押しのけて画面に入り込んできた。赤黒い痣のようなものが毛細血管のように現れている。やっぱりコイツなら破壊行動くらいならやりかねんな。
「マシロ、お前後で覚えとけよ!」
「5秒くらいは覚えてるね。」
「爆速で忘れるんじゃねえ!」
……マシロって度胸あるよな……。よくあんなヤバそうなヒダカに煽るようなこと言えるな。
「あれ、何でヒダカ怒ってるの?」
「本当にもう忘れてる!」
画面の向こう側から陽太君の声が聞こえてくる。うん、そうだよな。ビックリするよな。
「おれ、もう飽きたから寝るねー。」
マシロはあくびしながらベットに向かい、2段ベットの下の方にスタイリッシュに寝転がる。コイツも運動神経いいよなあ。羨ましい。それよりも画面からヒダカの圧を感じて怖いからPC画面を見れない。マシロ自由人過ぎない?
いつの間にか白い生き物がヒダカの頭の上にのってキュイキュイ鳴いて宥めていた。君、さっきまでお菓子かごの中でおやつ食べてたよね?
「んー、とりあえずエリックって人に中村さんの正体がばれないようにした方がいいですね。エリックに話してそれが女神に見られたら大分面倒なことになりそうです。」
「そうですね、クソ女神には関わりたくないです。」
まあ、わざわざこんなクソ女神の悪趣味な世界に来てるんだから、よっぽどあの写真のことについて調べたいんだろうなあ。
「それにしても何で他の世界から来てこの世界でのことに首突っ込むんです? もしかしてそのヒダカは……シーエス・おーワン? にも何かやらかしたんですか?」
「いや、ヒダカはこの世界で初めて会ったのでそれはないはずです。ついでにマシロンも。あと『シーオン・ユービーエス』です。」
そうだったのか、なんか最初から仲いいとは思ってたけど、この2人も地球出身じゃなかったんだな。マシロのことは俺の知ってる常識の範囲内の二十歳の大人として見ない方がいいな。
「まあ、ヒダカと同じ機体が『シーオン・ユービーエス』にもあったので、それで目をつけられているとは思うんですけど、その銀髪の人は私には分からないです。お力になれずに申し訳ありません。」
くらげがしょんぼりしながら俺に謝ってくる。別にくらげが悪いわけじゃないし、ある程度情報が集まっただけでも十分だよ。
「いえいえ、大丈夫ですよ。ありがとうございます。」
「ううっ、まともな大人との会話ってこんなに楽だったんですね。」
俺がお礼を言うと、くらげが何故が涙くんだ。この人はいつもどんな人と会話してるんだ。
あの船でイカれてる奴って言ったら、マシロぐらいしか思いつかないけど……あ、そうだ。
「そういや、マシロって今までどんな人生歩んできたか分かりますか? コイツ、二十歳って言う割にはちょっと世間知らずっていうか、ガキっぽいっていうか……。」
「あー……。すみません、私もマシロンのことはよく知らないんです。あのクズが教えてくれたら一番手っ取り早いんですけどねえー!?」
くらげが突然グレたように酒を煽り出す。この人いつの間に酒を取り出したの? それにしてもクズって……くらげは一体誰のことを言ってるんだろうか?
くらげが酒を飲んでいるのを眺めていると、突然くらげが机に突っ伏して眠ってしまった。……酒弱いのか? 相当ストレスたまってるんだなあ。
「ああー、くらげさんってば、またお酒飲んで寝ちゃいましたよ。大人って大変ですね。それじゃあ、通信切りますね。中村さん、お休みなさい。」
陽太君は苦笑いしながら画面から消えていった。俺もそろそろ寝ようかな……。俺が二段ベットの上に上って寝転がると、マシロが梯子を上って俺の懐に入り込んで布団を被ると何も言わずにそのまま寝た。コイツ本当に何なの?
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