第11話 図書館にて

 新入生歓迎会が終わってから数日経った頃、俺は情報収集のために学園の図書館にいた。女神の情報を手に入れるため、こっちに来れない陽太君のためにも人間の体に戻る方法も調べなくては。ちなみにマシロは俺が見てない隙にどこかに行った。クソが。


 図書館で本を調べていると色んな事が書かれていた。人型昆虫についての研究レポート、始祖の吸血鬼の大昔の伝説的な話、この世界の成り立ち、海の賢者の話、女神の教え、ダンジョンの研究結果の論文などなど。異世界ならではの興味深い情報がたくさんあったが、どれも具体的で有効な情報はない。

 うーん、やっぱりここの情報だけじゃよく分からないのかな。禁書エリアもあるみたいだし、そこに侵入して調べることも考えた方がいいかな。一応そのための道具もくらげから借りてきているし、犯罪はやりたくないけどその方法は検討しておこう。


 そういや留学期間より早く調査が終わったらどうするつもりなのだろうか。あの人たちのことだから一応考えていると思うけど、不安になる。


「あっ、いた! おーい! 茂松くーん!」


 俺が本を読んでいると、エリックが大声で手を振りながら駆け寄ってくる。しかし、図書館の司書さんに注意され、エリックはペコペコと謝っていた。……一体俺に何の用だろう。


「あはは、図書館の人に怒られちゃった。」


 エリックは照れながら俺の隣に座ってくる。距離詰めてくるの早くない?


「え、何の用ですか?」

「やだなあ。新入生歓迎会の時に後で話そうって言ったじゃないか。」


 確かにそんなことを言ってたな、この数日間、マシロのやらかしことが多すぎて忘れてたよ。アイツ、この数日間で同級生にトラック召喚してぶつけようとしたり、レスバしかけて相手が弱すぎて萎えたとか……。おかげで教師から呼び出されて調べ物をする暇もなかったのだ。

 マシロ、本当に二十歳なんだよな? 二十歳だったらそれ相応の人生経験して善悪の判断もつくはずなんだけどな……。アイツ今までどんな人生送ってきたの?


「うん。ちょっと聞きたいことがあってさ。こんな人を探しているんだ。」


 彼は懐から二つの写真を取り出した。一つは銀髪長髪の背の高い男性の写真、背を向けているので顔は分からない。二つ目は画像が荒くてよく見えないけど、巨大地震が起こった後のような荒廃した瓦礫だらけ都市の空中に黒い何かが遠くに映っている写真だ。

 どちらも戦場の中で撮影された写真なのか全体的に画質が荒くて見えづらい。


「えっと、この写真は……?」

「この人は銀髪の人は約15年前に行方不明になった人で、こっちは一週間前に起きた大災害の時の写真なんだ。」

「はあ……。」


 エリックが写真の解説をしてくれたけど、この銀髪の人の写真は15年前にとられた写真だったのか。なんでそんな写真持っているんだろう。こっちの瓦礫だらけの写真は一週間前に撮られた写真なのか。

 ……ん? この世界の技術的に写真なんてあるのか? 異世界だから魔法を使ったり、技術の発達の仕方が地球とは違っていたりするのか?


「うん。実はこの銀髪の人がツルギの知り合いみたいで彼を探していてね。僕も一緒に探しているんだ。」

「へえ、そうなんですか。」


 ツルギさんの名前が出てきたことに驚きつつも、俺はエリックに相槌を打つ。ふーん、この銀髪の人がねえ。ツルギさんも刀で魔法陣切り裂いていたりしてたから、この銀髪の人も強いのかな。


「うん。それでね、この写真に写ってる瓦礫だらけの都市の上空に何か黒いものが飛んでるの分かる?」

「ああ……確かに何かいますね……?」


 写真に写っている黒い何かは画像が荒い上に小さいからよく見えない。こんなことになるなら変装で使う眼鏡に度を入れてもらった方がよかったかな。


「うーん……よく見えないですね……。」

「そっかあ……。この黒いものはロボット……じゃない、戦闘に特化したゴーレムなんだけど、約1週間前に『ムピノスニア教皇国』から西南にある『メイムーン諸国』に突然現れて国を破壊したロボでね……。このロボは国を破壊した後、どこかに飛び去って行ったみたいなんだ。ひょっとしたら、今は隠れていてまたどこかの国を破壊するかもしれないんだ。」


 なるほど、この写真の黒い点みたいなやつがあぶないやつなのね……。あれ? エリックはタッメルの国出身の人だって言ってたよな。何でその反対側に位置している国の事情を知っているんだ? あと、ロボットって単語も出てきたな。エリックは慌ててゴーレムって言い換えてたけど、何回かロボって言っちゃってるし。

 ……この人、もしかしてこの世界の人間じゃないのか? だとしたら、何でこの世界にいるんだ? ……俺が異世界人ってバレない程度に情報集めないとな。


「ん? 茂松君どうしたの?」

「あの、エリックさんは……。」

「やだなあ、茂松君。エリックでいいよ。僕たち同い年でしょ?」


 俺本当は33歳なんだよ……! 君より年上で学生のコスプレやってるんだよ……! とは言えず、エリックに質問した。


「その、エリックさんって『タッメルの国』出身なんですよね? 何で、『メイムーン諸国』の事情を知っているんですか?」

「ああ、たしか茂松君は『桜王国』の出身だから知らなくても仕方ないよね。『タッメルの国』と『メイムーン諸国』は同盟国なんだよ。」

「そうだったんですか。すみません、商人の息子なのに勉強不足で。」

「いやいや、『桜王国』って閉鎖的な国でつい最近、他の国と外交を始めたばかりなんでしょ? 『ムピノスニア教皇国』に留学するための準備とかもあっただろうし、それだったら他の国のことを知らなくても無理ないよ。」


 エリックは笑顔で両方の手を振りながら答えてくれた。俺のことは特に疑っていないようだ。

唐突にエリックの方から電子音が聞こえてくる。彼はスマホのようなものを俺に見せないように素早く操作すると、何か動揺したようなそぶりを見せた。……何かあったのだろうか。

 エリックは油をさしていない機械のように俺の方を向くと、後ろめたいものを隠すようなぎこちない笑顔で振り返る。


「ごめん茂松君、ちょっと用事が出来たからもう行くね……。写真に写ってる銀髪の人と黒いゴーレムを見かけたら僕にも教えて欲しいな!」


 彼はそう言うと素早く身軽な動作で席を立ち、慌てて図書館を出て行ってしまった。……一体何だったんだ? それにしても若いっていいな。俺はもともと運動神経悪いからあんな風に移動できないけどな

 調べ物を再開するために机に向き直ると、ふと先ほどエリックから見せられた写真が目についた。おいおい、エリックの奴、急ぎすぎて写真置いて行ってるよ。


 ……それにしてもエリックは多分この世界の人じゃないよなあ……。俺だけの判断だと不安だから寮の部屋に戻ったら、通信でくらげに報告しておこう。ついでにマシロにも伝えておこう。

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