6号探偵事務所
ジェン
6号探偵事務所
ブラインドから差し込む光で目が覚める。
朝か昼かはわからない。
わかるのは、少なくともまだ夜ではないということだけ。
寝ぼけ眼をこすり、床に落ちた帽子を目深にかぶり直す。
そういえば、今日は予約が入っていたんだった。
そこいらの探偵に解決できる依頼なら、わざわざ私のところには来ない。
きっと大がかりで面倒で推理し甲斐のある依頼に違いない。
時計を見やると、予約の時間はもうすぐそこまで迫っていた。
依頼人が来るまでに起きられたのは不幸中の幸いか。
雑多なデスクの上をかき分け、昨夜食べ損ねたハンバーガーを引きずり出す。
一口頬張ったところで、部屋にチャイムが鳴り響く。
「はぁ……」
思わず溜め息が漏れるが、依頼人を待たせるわけにもいかない。
私はハンバーガー片手に依頼人を迎え入れることにした。
「初めまして、有栖川6号さん。私はしがない画家の端くれ……だったのですが、先日ついに私の絵が美術館に飾られることが決まりましてね」
「それはおめでとうございます。続きは中で聞きましょう」
依頼人の瞳には歓喜と憔悴が混ざり合った、鈍色の感情が宿っていた。
その色の深さから、ここ数日の苦労が嫌でも窺い知れる。
「依頼の内容は大体把握しています。盗まれた絵を取り返してほしい、と?」
「ええ。あれは私の傑作、世界的名画にもなり得る作品です。あの絵を欲しがる者は山ほどいる。しかし、並みの探偵では話にならなかった。証拠が少なすぎると言って匙を投げた。だからこそ、名探偵と呼ばれるあなたにお願いしたいのです」
名探偵――悪くない響きだ。
皆に解決できないことをやってのけるのが名探偵、こういう依頼を受ける時はいつも心が躍る。
「わかりました、私が必ず解決してみせましょう。これまで私が解決できなかった事件なんて存在しませんから、どうかご安心を」
最後の一欠片となったハンバーガーを口の中に放り込み、私はドアの外へと身を翻した。
6号探偵事務所 ジェン @zhen_vliver
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