右園死児報告甲 報告一一号 田島茜の遺産

報告案件 田島茜の遺産

報告者 右園死児報告甲筆記者陣


 田島茜から移譲された右園死児関連資源の整理が終わったため、報告する。当初は可能な限りすべての資源を活用する予定であったが、ほとんどの資源には田島茜の手による戦線投入可・不可判定、またその理由を記したラベルが添えられていた。

 軍における右園死児研究の第一人者であった彼女の知識と遺志を尊重し、ラベルに従う形で資源をより分けた。以下に各資源に関するおおまかな扱いを記す。


・封印用生体

 最も戦線投入の要請が多かった資源だが、聖域攻撃には運用しない。田島茜によると軍が保有していた一七体の生体は、いずれも三田倉九によってその正体を隠滅された、廃棄案件の関連人物を封じ込めたものとのことだ。封印人物が生体から露出した際に発揮される災害誘引力は、未知数。しかも基本的に封印用生体とは、人類には抹殺が不可能であると判断された対象が埋め込まれるものだ。予測不能な事態の原因になると判断し、封印用生体の戦線投入は否決する。


・三田倉九以外のギャラリー産右園死児

 災害誘引力未知数のため運用しない。軍収容所から持ち出した輝く脊髄も同様。


・手記、音声データなどの小物的右園死児関連物

 現時点で戦術的用途が存在しないので保留。携帯することで聖域潜入可能性が付加されるという意見もあるが、憶測の域を出ない。


・乾物、蛆主宿儺の和鏡、猿の死体など、主に右園宮関連と思われるもの

 神谷修二の要望により運用しない。


・ブラインドマン(橋田四郎)

 ブラインドマン部隊は現在壊滅状態にあるが、田島茜が一名、特殊なブラインドマンを軍収容所から連れ出していた。このブラインドマンは橋田四郎、かつて刀剣の脅威度測定実験に最初に用いられた実験体である。刀剣の実験を指揮していた軍監督官山口悠太郎は、刀剣を兵器として扱う専用のブラインドマンを製作しようとしていた。橋田四郎はそのサンプル第一号だった。彼の自発的血流は完全に停止しており、右園死児的影響を強く受けながらも、人工臓器群により擬似的に生存している。彼は刀剣を兵器として扱うことができ、聖域内においても腐敗しないブラインドマンである。現在彼のために抗腐食加工を施した生命維持装置搭載型アーマーを用意している。聖域内における戦闘力として、またエツランシャから刀剣を奪取した際に刀剣を兵器利用する媒体として、活躍が期待される。彼を運用する。


・牧野周平私設ブラインドマン部隊

 ギャラリー内を徘徊していた半裸のブラインドマンが三名、田島茜に確保されていた。極めて衰弱しているが、コントロール可能。ギャラリーの右園死児の影響を受け続けたせいか、聖域内における腐敗がゆるやかであることが判明。彼らも戦力として運用する。


・三田倉九

 売春婦の固有戦力として運用する。ただし基本的には発狂状態にあるため、接触は厳に禁じる。また売春婦自身に対しては、あらゆる加害行為を禁じる。これには言語的侮辱、挑発も含まれる。彼女に構うな。


 ※追伸。この部分は神谷修二の専用閲覧デバイスでしか表示されない。田島茜の君宛ての私信が見つかった。冴島将吾の手記のラベル裏に貼り付けられていた。以下に転載する。


 神谷君へ。君が明治時代に取り憑かれた足音は、もう消えただろうか。右園の姫君に呪われた君が、戦うことも、自殺することもせず、ただ一〇〇年以上も無為に時間を潰したことは、まったく哀れむべきことだ。君は被害者で、負け犬で、抜け殻だった。だから空虚で無意味な一〇〇年を過ごしたのだ。

 君は牧野周平に感謝すべきだ。やつがトチ狂い、油絵の事件から一〇〇年経ってからでも君に真相の調査を強制してくれたから、君は戦うことを思い出せたし、冴島将吾のような友と出会い、人間性の熱さを思い出すことができたのだから。

 君がこれから、いったい何年生きるのか知れない。ひょっとしたら時間には殺されないのかもな。時の果てに、土中に眠る右園の花嫁が待ち構えているのかもしれない。私はその手の存在は大嫌いだが、君は例外にしておいてやる。死に損ないのくせに、君はよく戦ったからな。一度、君と電気ブランでも飲みたいものだ。それが叶わなかった時のためにこれを書いているわけだが。

 人間性を失うな。神谷修二。さもなくば、死ね。今の君なら分かるはずだ。それが人間の生き方だと。

 君の姉上の子孫は、以下の座標にて生存しているようだ。牧野周平は彼女に何もしていない。捕捉はしていたようだがな。一段落したら会いに行って、教えてやれ。お前はもう人質ではないと。


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