報告二八号 羽田電次

報告案件 羽田電次はだでんじ

報告者 田島茜(軍研究員)


 羽田電次はテロリストである。政府・軍の右園死児対策方針に反意を示し、軽薄な若者と老人を扇動して軍収容施設を襲撃した。襲撃参加者の九分九厘は武装警備隊とブラインドマン部隊が射殺または焼却したが、首謀者の羽田電次は施設内に侵入。

 報告一四号 小向夜子 のIDを強奪し、さらに監督官北野正志きたのまさしを人質に取り、最終的に収容施設準深部に到達。報告二二号 刀剣 を奪取した上で北野正志を殺害、右園死児化した。刀剣による人体殺傷の初例であり、羽田電次の皮膚は魚鱗状に硬化隆起、半透明化した。観測体温は八〇度。眼球から瞳も消失していた。

 羽田電次の以降の行動は筆舌に尽くしがたい。刀剣を持ち去り、市街地に潜伏、軍警察の右園死児対策をことごとく妨害。確保・殲滅対象者に対し義賊めいた言動を取り、自身に低俗な称号を冠した。この騒動に乗じて羽田電次を称賛したメディアおよび政治家にはテロ防止法に基づいた制裁が下された。

 羽田電次には市街地で使用可能なあらゆる兵器攻撃が通用しなかったため、最終的に軍部はブラインドマン部隊に封印用生体七号を輸送させ、羽田電次にぶつけた。約八分間の戦闘の末、封印用生体七号は完全破壊されたが、羽田電次と刀剣の分離および無力化に成功。ブラインドマン部隊が確保した。

 羽田電次は重要汚染体として生きた牛の体内に外科接続され、その上で研究実験・解剖を、尋問と刑罰を兼ねて施された。羽田電次の人物的情報には一切の価値が無く、その言葉にも幼稚な思想色しか認められなかったため、収容後四五日目に軍上層部立ち会いのもと存在洗浄とした。

 本案件での被害は甚大であり、特にブラインドマン部隊の八割が失われたため、志のある入隊志願者を広く募るものである。また収容施設の警備体制にも見直しが必要であり、市街地での兵器使用規制の緩和も政府に強く要請する。

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