報告二六号 音声データ(磁気テープ)
報告案件 音声データ(磁気テープ)
報告者 田島茜(軍研究員)
――八月二六日。報告二四号 錯乱者の手記 と、報告二五号 明石松吉 に関して、報告一二号 右園宮 にて有識者として所見を述べられた帝都大学名誉教授、
――君も懲りな(雑音)……としては、神谷君の方が民俗学者に向いてると思うね。明石はダメだよ。思い込みが激しい。民俗学者としては致命的だよ。
――彼の手記に関してはどうお考えですか? 平安時代の悲しい姫君の逸話ですが。
――あれは、桃太郎だね。
――……はい? 桃太郎?
――犬、猿、キジだよ。桃太郎は日本一有名な昔話だが、正当な伝承ではない。桃太郎の元ネタは古事記だ。
――はあ……つまり、右園の姫君は作り話だと。
――まったくの虚偽だとは言わんが、まあ過分に脚色された昔話だろうね。だから裏付けが無いんだ。
――でも、明石松吉はバケモ……右園死児に変身しましたけど。
――もし右園の姫君の話が原因だとするなら、その物語に含まれたオリジナルの方の要素が彼に作用したのかもな。その辺の原理は専門外だ。
――大門先生としては(雑音)どう思いますか?
――さあね。右園死児に関しては民俗的資料はほとんど無いしな。蛆主宿儺に関しては多少分かるよ。
――……? ええ、分かります。
――そういえば、山形の方に黄泉の国に関する伝承があって……イザナミ、イザナギに関係する話なんだがね。その伝承では生者の生きる現世を左の園、死者の住まう黄泉の国を右の園と言うんだ。
――! それって(雑音)……すごいじゃないですか!
――その線で行くと、右園死児は死者の国の住人だな。
――地獄の子供達的な意味ですかね! 悪魔のモンスターですかね!
――いや、死児が読んでそのまま堕胎児や死亡した子供を指すとは考えにくい。神谷君の報告では平安文字がからんでいるそうだから、現代の用法とは(雑音)もっと生物(雑音)名称的な(雑音)
――ミヤマクワガタみたいなもんですかね?
――(長い雑音)ところで(雑音)君の安全(雑音)(笑い声)
――右園死児の話ですよ。先生。
――馬鹿な女だ。救いようがない。
――(以降三分二一秒、インタビュー前に録音されていたと思われる低俗な番組のリハーサル音声)(雑音)……あの骨は私を追ってくる。すごいとくダネ。生きて帰れば地方局なんかに居なくて済む。東京に行ける。だからがんばれ、がんばれ。死ぬな、私。きっとどこかに抜けられるはず。
――(笑い声)
――右園死児って(笑い声)きっと(子供の笑い声)神様(大勢の笑い声)
■
――…………今日はどうもありがとうございました! また何かあったらご助言お願いしますね!
――楽しかったよ。美人さんと話すと若返る。もし神谷君に会ったらよろしく言っといてくれ。彼の案件報告は私達の世界でも注目の的だ。
――分かりました! お任せ下さい!
※本案件音声データは重要汚染体指定されたため、報告体系には文字に書き起こした文書版を掲載している。音声データは再生するたびに内容が変動するため、本文書の正確性は保証されない。
※大西真由美はすでに死亡した人物と対話しているため、現在措置入院中。神谷修二の監視を強化すること。
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