報告二〇号 火麻谷一郎の子供達

報告案件 火麻谷一郎ひまたにいちろうの子供達

報告者 朝倉光雄あさくらみつお(軍研究員)


 右園死児対策において最も重要な作業のひとつに、右園死児を人名として採用する行為の阻止、および行為者の検挙がある。これらは警察組織や軍部が日々邁進まいしんしている任務であり、また我が国の戸籍は厳重な監視網によって強固に守られている。

 しかしながら火麻谷一郎は、凶悪かつ徹底的な精神支配によって屈服させた妻から生まれた子供三人を秘匿し、政府からも世間からもその存在を隠した。子供達は右園死児と呼称されて育ち、一五年後に火麻谷一郎の元から巣立った。軍が火麻谷一郎を確保した時には子供達の足跡は完全に途切れており、一年に及ぶ思想洗浄、精神洗浄も火麻谷一郎には効果がなく、最終的に火麻谷一郎には刑罰としての存在洗浄が施された。火麻谷一郎の妻恵子けいこは精神に異常が見られ、軍病院にて看護措置となった。

 三人の右園死児の追跡は困難を極めているが、継続中である。また火麻谷一郎がなぜこのような案件を引き起こしたかは、本人の黙秘により永遠の謎となった。

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