れぅちゃんは魔法が使えない

羽川茉しろ

ブラックホールからの着信

れぅちゃんは魔法が使えない

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みんなが羨ましい。だって僕は、魔法が使えないから。


真っ暗な部屋が好きだ。

時々通販のポイントで頼むルームライトで、プラネタリウムを作ったり、ブラックホールやダンスホールを作ったり、こうしてテキストを打っているスマホのブルーライトを浴びて、生きている。


「晩御飯……」

冷蔵庫を開く。光が優しいと感じるのはおかしいのだろうか。

3つ1まとめの絹豆腐、すりおろし玉ねぎドレッシング、茹でたブロッコリー、麦茶。

「いただきます」

反響する声もない。扇風機の音だけが響く。動画サイトのお気に入りチャンネルを再生する。

お箸を、すぅ、つる、と通るお豆腐。ぽりぽりと食べるブロッコリーの茎。毎日飽きないもんだから不思議だ。


食器を洗い終えて、冷房の効いた自室へ行く。

「今日は給料日だからピザだよ!」

親のメール、わかった、とだけ返信しておく。

あの人は魔法が使える。

僕は今日も魔法が使えないまま、多分1日を終える。そんな毎日を繰り返してたら、多分、魔法が使える日は永遠に来ない。

眠気を呼ぶ薬を飲んで、アイマスクをして、宅配便の時間にアラームをかけて、目を閉じる。枕元の芳香剤が心地よい。

魔法が使えたら、今のわたしはどうなる?

外へ出る理由になる?誰か友達ができる理由になる?笑うことができる?

(そんなの、ないよ)

かさぶたになってきた左腕の自傷痕を撫でる。

(きっと明日も)

魔法は使えない。

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