第18話:心の言葉(ククルヌクトゥバ)

 

 女の人のゆうれいは、ご先祖さまウヤファーフジじゃなくて、リッカの母ちゃんだったのか。

 オイラは姿をかくしたまま、リッカと七海のあとからついて行って、コッソリいっしょに絵を見ていた。


 そんなオイラの他に、ふたりの様子をコッソリ見ている人たちがいる。

 すぐ近くの部屋の中で、ドアを少し開けて、音をたてないように気をつけながら見ているのは、大きいにぃにぃたち。

 七海もリッカもぜんぜん気づいてないけど。

 オイラはにぃにぃたちの気配に気づいて、そっちを見た。

 デカイ体で5人そろってドアの前に集まっている。

 にぃにぃたちは、七海とリッカが何を話しているのか、気になるみたいだな。


 その様子がおかしくて、オイラはひさしぶりにイタズラしたくなっちまったぞ。

 だからオイラは、少し開いているドアからスルッと中に入り、にぃにぃたちの後ろに回って背中をおしてやった。


「うわぁっ?!」

「なっ?! にぃにぃたち?!」


 いきなりドアが大きく開いて、デカイ5人が転がり出てきたから、七海もリッカもビックリだ。

 七海はリッカをだきしめているところだったから、そのまま思わず後ずさっている。

 それはまるで、とっさにリッカを守ろうとしているように見えた。

 リッカは七海にだきしめられたままなので顔は見えないが、耳が赤くなっている。

 仲良し兄弟ぶりに、大きいにぃにぃたちはほっこりしたようだ。


「あ、あはは……」

「おどかしてゴメンな」

「すまんすまん」

「声が聞こえたから、だれか来たな~って思ってさ」

「ちょっと見ただけなんだ」


 困り顔であやまる兄ちゃんたち。

 七海もリッカもまだビックリしたまま、なんと言っていいか分からないみたいだ。


「そ、そうだ。異世界のナナミは力持ちなんだって?」

「リッカを軽々とだいて歩けるって?」

「ちょっとオレと力比べしないか?」


 気まずいと思ったらしいにぃにぃたちが、話を変えようとしたとき。

 リッカが、ボソッとつぶやいた。


帰還ケーラ


 それは、移動の魔術マジティーの名前。

 帰りたいとイメージする場所へ移動する魔術だった。

 リッカと七海は消えちまって、ポカンとマヌケな顔をしたデカイにぃにぃたちが残されている。


「えっ?」

「リッカ、いつから移動の魔術を使えるようになったんだ?」

「あんなの使えるほど魔力マジグテーは多くなかったよな?」


 ふむふむ。

 どうやら、リッカの魔力はにぃにぃたちが知っているよりも増えたんだな。


 っていうか、どこ行った?

 部屋かな?

 探しに行ってみよう。


 オイラがその場をはなれようとしたら、絵から白いけむりが出てきて、リッカの母ちゃんのゆうれいが現れた。


『ふたりはリッカの部屋にいるわ』


 ゆうれいは、オイラだけに聞こえる声でそう言った。

 それは、音を使う言葉じゃない。

 心から心へ伝える、【心の言葉ククルヌクトゥバ】だ。


『なんでそれをオイラに教えてくれるんだ?』


 オイラも同じ言葉で話しかけてみた。


『あなたは、リッカを助けてくれたから。あなたが運んでくれていなかったら、リッカは雨にぬれて病気になっていたはずよ。気を失ったまま水につかって、息ができなくなって死んでいたかもしれないわ』


 ゆうれいは、リッカが八つ当たりで魔術を使いまくってたおれたときに、オイラが七海の部屋まで運んだことを言っているらしい。


『だれでも助けると思うぞ。あんな大雨の中、気絶したやつをおいとけないからな』


 オイラは、あたりまえのことをしただけだぞ。

 リッカを七海の部屋へ連れて行ったあと、外は大雨になった。

 屋根の無い場所が水びたしになるくらいの土砂降りだ。

 あのままリッカをほったらかしていたら、体が半分くらい水につかっておぼれていたと思う。


『助けてくれたのは、あなただから。それに、ナナミのところへ運んでくれたから、2人は仲良しになれたわ。ありがとう』


 そう言って、ゆうれいはほほえんだ。

 それから、ハッと何かに気づいたように言った。


『リッカは自分の魔力がどうして急に増えたのか分かったみたい。部屋から魔術練習場に移動したわ』

『ふむ。じゃあ見に行ってみるかな』


 オイラは魔術練習場へ向かった。

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