第17話:ありがとう(ミーファイユ)


 気絶したリッカにぃにぃといっしょにねていたら、知らない人が夢に出てきた。

 キレイな女の人。

 顔はリッカにぃにぃソックリ。

 だけど、かみの毛は黒い。


 その人は、ぼくにこう言ったんだ。


「ありがとう」


 って。


 なんのこと? って聞こうとしたら、スーッと消えてしまった。

 だれなんだろう?

 リッカにぃにぃソックリだけど、母上じゃないし。

 母上はぼくにソックリで、リッカにぃにぃとはにていない。


 おひるねから目が覚めて起き上がったら、リッカにぃにぃも目を覚ました。

 それでぼくは、夢に出てきた女の人のことを話してみたんだ。


「にぃにぃ、知らない人が夢に出てきたよ」

「ん? どんな人だ?」

「顔はにぃにぃソックリで、かみの毛の色はぼくと同じだったよ」

「オレに顔がにていて、黒いかみの毛の女の人……」


 リッカにぃにぃは少し考えてから、ハッとおどろいたような顔になった。

 それから、ベッドから飛び降りて、ぼくの手をつかんだ。


「だれかわかったぞ。見せてやるからついてこい」

「にぃにぃ、もう動いてもだいじょうぶなの?」

「もうなんともない。いつもより調子がいいくらいだ」


 すっかり元気になったリッカにぃにぃと手をつないで、ぼくはお城の中を早歩きで進んだ。

 そうして着いた場所は、前に見たオヤケアカハチさまの絵があるカベの前だった。

 前にここへ来たときは、いちばん大きい絵しか見てなかったけど、左右には他にもたくさん絵がある。

 リッカにぃにぃは、その絵の中の1つを指さした。


「ほら、この人じゃないか?」

「うん! その人ソックリ!」


 リッカにぃにぃが指さした絵の人は、ぼくの夢に出てきた女の人にソックリだ。

 その人は、まるでリッカにぃにぃのママみたいに顔がよくにている。


「この人は、前の御妃ウフィさま。オレの母上だ」

「えっ?! じゃあ、今の母上は……」

「ナナミだけの母上だよ」


 母上は、ぼくのママにソックリで、年も同じくらい。

 よく考えたら、いちばん上のカズマにぃにぃと、そんなに変わらない年に見える。

 そうか、もうひとりのぼくも、同じママから生まれた兄弟はいなかったんだね。

 そんなことを思っていたら、リッカにぃにぃがもうひとつ教えてくれた。


「そして、この人はオレだけの母上なんだ」

「え? リッカにぃにぃも、他の兄弟と母上がちがうの?」

「そう、ナナミと同じさ」

「そっかぁ。でも父上は同じなら、兄弟だよね」

「そうだな」

「母上がちがっても、ぼくはリッカにぃにぃ大好きだよ」

「ありがとう」


 そう言ってほほえんだリッカにぃにぃは、絵の中の女の人と同じに優しく見える。

 それから、にぃにぃは自分が生まれたときのことを話してくれた。


「オレの母上は、オレを産んだときに死んでしまったから、この絵でしか、オレは母上を知らない。そのころ女官だったナナミの母上が代わりに育ててくれたから、今の御妃さまがオレの母上だと思っているよ」


 絵の中でほほえむ女の人を見上げながら、リッカにぃにぃは話してくれた。

 もうひとりのぼくの母上が、元は女官だったことを、ぼくはこのとき知った。


「ナナミが生まれたとき、オレはまだ1才になる前だった。体が弱くてしょっちゅうカゼをひくから、母上はナナミを乳母に預けていたらしい。ナナミは本当の母上が生きているのに、ずっと乳母に育てられてきたんだ」

「もうひとりのぼくも、このことを知っているの?」

「たぶん知らないだろうな。母上はオレばかりかまっていたから、愛されていないと思ってしまったらしい」


 ぼくは、にぃにぃの話を聞いているうちに、どうしてもうひとりのぼくがリッカにぃにぃと仲良くしなかったのか、なんとなく分かった。

 小さいころから母上とはなれて暮らしていて、にぃにぃだけが母上といっしょにいたら、のけものにされているって思うかもしれない。


 だから、この世界から出ていってしまったのかな?

 にぃにぃのことをうらんでいるのかな?


「ナナミは、城にいるのがイヤで出ていってしまったんだろうな」

「星の海ですれちがったときは、なんだか楽しそうだったよ」

「そうなのか」


 リッカにぃにぃがションボリして言うけれど。

 あのときすれちがったあの子は、なにか思いつめているようには見えなかった。

 ニッコリ笑って「あとはよろしくね」って言ったから、この世界に帰る気はなさそうだけど。


「ごめんな、ナナミ。ひとりぼっちでさびしい思いをさせて」


 リッカにぃにぃのその言葉は、たぶんもうひとりのぼくに言ったんだろうけど。

 ぼくはあの子の代わりに、リッカにぃにぃをだきしめた。


「リッカにぃにぃは、なにも悪くないよ」

「でも……オレは……」

「体が弱いのも、カゼをひいたのも、なりたくてそうなったわけじゃないよね?」

「病気になりたいと思ったことはないな」

「じゃあ、にぃにぃのせいじゃない」

「そうか……」


 だきしめながら話していたら、リッカにぃにぃがホッとしたように体の力をぬいた。


 あの子がリッカにぃにぃをキライだったとしても、ぼくは大好きだ。

 あの子がリッカにぃにぃをゆるさないのなら、ぼくが代わりにゆるす。

 あの子が帰ってこないのなら、ぼくがリッカにぃにぃのそばにいよう。


 それにしても、あの子はどうやってぼくと入れかわったんだろう?

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