第14話:魔力(マジグテー)

 

 オイラも七海が「魂の鏡マブイヌカガン」でマブイを調べてもらったのを見ていたんだけど、魔力マジグテーのところはよく見てなかった。

 魔術マジティーは、名前を覚えて、魔力が足りていれば使えるようになるらしい。

 キジムナー族のオイラには、名前も魔力もいらなくて生まれつき使える力だけど。


 翌朝から、七海の魔術の練習が始まった。

 リッカはもちろんつきそってくれている。

 頑張れちばりよ、七海。

 オイラも応援するぞ。


「魔術を使うときは『どんなことをしたいか』を思いうかべるんだ。オレが先にやってみせるから、マネしてみるといいぞ」

「うん!」


 リッカも七海も楽しそうだ。


 最初はプンプンおこってばかりだったリッカだけど、魔術の使いすぎで気絶したのを助けてから変わったな。

 おまけに七海が「リッカにぃにぃカッコイイ」なんて言うから、リッカはもう七海がお気に入りみたいだ。

 いろいろと世話を焼くリッカに、七海もすっかりなついている。

 昨夜はリッカの部屋でいっしょに夕飯を食べて、リッカのベッドで仲良くねていたぞ。


 たぶん、リッカがおこってばかりだったのは、年下の七海のほうが体が大きいこととか、カワイイと言われたこととかを気にしていたんじゃないか?

 でも七海は悪気はないし、女の子みたいなリッカをカワイイと思ったからそう言っただけで、バカにしたつもりはこれっぽっちもないんだろう。



「フィーダマ!」


 魔術のお手本を見せるため、リッカはゴルフボールくらいの火の玉を出した。

 七海の魔力がどのくらいあるのか分からないから、ひかえめだ。


「これを思いうかべるといいぞ」

「うん! フィーダマ!」


 リッカのお手本を思いうかべながら魔術を使った七海は、そっくり同じ大きさの火の玉を出した。

 生まれて初めて魔術を使ったとは思えないくらい、七海はリッカの火の玉を正確に再現させたぞ。


「お~、優秀じょーとーだぞ、ナナミ」

「にぃにぃがお手本を見せてくれたからだよ」


 ふたりの仲が良すぎて、サイオン先生シンシーが入っていけないぞ。

 練習場のはしっこへ移動して、ニコニコしながらリッカと七海を見ている。

 先生の役目は、学園に通い始める前に七海が魔術を使えるようにすることだから、もう終わったようなもんだな。


「ミジダマ!」


 リッカが次の魔術を使った。

 今度は水の玉か。

 あの水、飲めるのかな?


「ねえ、にぃにぃ、このお水は飲めるの?」

「飲めるぞ。これは日照りが続いたときには飲み水や畑の水まきに使えるんだ」


 七海もオイラと同じことを聞きたかったようだ。

 そうか飲めるのか。

 水不足になりやすい島には、すごく役立つ魔術だな。


「カジダマ!」


 リッカが作り出したのは、手の上でクルクル回る小さい竜巻たつまきだ。

 これを大きくすれば「大風うふかじ」か。


「風の魔術は島の守りに使われているぞ。台風カジフチが島に近付いてきたときに、ぶつけて向きを変えるんだ」

「すごく役立つ魔術だね。ぼくの世界でも使えたら台風よけになるのに」

「250年くらい前には、大津波から島を守ったこともあるんだぞ」

「えっ? それって、もしかして【明和めいわ大津波おおつなみ】?」

「明和というのは昔の日本ヤマト年号ねんごうだな。あまりくわしくはないが、明和というのが250年前の時代なら、異なる世界で起きた同じ災害だろうな」


 そうか、イリキヤアマリ神が魔術を与えた世界では、八重山やいまを大津波がおそうことは無かったんだな。

 災害の歴史でも、オイラが生まれた世界とのちがいがあるわけだ。

 ちなみに、イリキヤアマリ神は火食の神で、八重山の人々に火のあつかい方や、火を使って食べ物を調理することなどを教えた神といわれている。

 つまり「火」と「知恵ちえ」の神さまだな。

 その神さまが魔術をあたえたから、この世界にはヤイマ国がある。


「シーダマ!」


 4つめは石の玉、石つぶてよりデカイな。

 あれが当たったら痛いじゃすまないかも。


「これはりで使ったり、魔物マジムンを倒したり、海の向こうから敵がめてきたときに使われる魔術だ。オヤケアカハチさまの時代には、琉球国リュウキュウコクの船を追いはらうのにも使われたそうだ」

「こんなのが飛んできたら、敵はあわてただろうね」

「ああ。船に穴を開けられて、大慌てアワティハーティーだったらしいぞ」


 そんな話をしながら、リッカと七海は火水風土(石)の基本練習を終えた。

 七海はとても優秀じょーとーで、全てをリッカと同じに使ってみせた。

 練習場のはしっこに立っている先生が、パチパチと手をたたきながら、すばらしいと言ってほめている。


「まだ腕輪ウディコールーは光ってないな」


 リッカは七海の腕輪を見て言った。

 腕輪は全く光っていない。


「ナナミの魔力は多いのかもしれない。もう少し練習しよう」

「うん!」


 七海がまだいけそうなので、ふたりは練習を続けた。

 次の練習は、作り出すものをさっきの倍にした魔術だ。

 七海はそれらをアッサリ使いこなして、つかれたようすもなくケロリとしていた。

 そのまま次に進んでも、七海の腕輪は光らない。

 七海の魔力、一体どんだけあるんだ?

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