第五章
第27話 思い出の場所
「う……うああああああああっ!!」
脂汗をかいて飛び起きる。
嫌な夢を見た。
『テオドールさん、どうしました?』
スピーカーから職員の声が聞こえる。
本当に、二十四時間監視されているのが腹立たしい。
夢くらいまともに見させてくれ。
でなきゃ、何のために──。
あの時、母さんはなんて言ってたんだっけ……。
「…………」
行かなければ。
母さんが望んだ、あの場所へ──。
*
(まさか、リアさんとアルフさんのところに……!?)
ポポロムは焦ったが、すぐに落ち着きを取り戻した。
テオにはこういう時のためにGPSをつけてあるので、居場所はすぐにわかる。
「GPSの画像と、該当する住所を送ってください。僕と、テオさんのご家族で追いかけます」
『は、ハイ……!』
スタッフにそう伝えると、着替えている間にスマホにデータが送られてきた。
開くのが怖い気もするが、ためらっている場合ではない。
画像は、ポポロムも知っている土地の一点を赤く示していた。
「ここは……まさか……」
慌てて隣のカルステンの部屋に飛び込み、揺り起こした。
「う、ん? なんだ……?」
「叔父さん、テオさんが逃げ出したそうです。今からアルフさん達と追いかけます!」
「えっ!?」
さすがのカルステンも、一気に目が覚めたようだ。
「俺も連れて行ってくれ。場所は……!?」
「自殺の名所……ヘイロ岬です……!」
二人は慌てて車に乗り込む。ヘイロ岬までは、数十分の距離だ。
道中で、カルステンからアルフレッドへ連絡を入れてもらった。その後、もう一件どこかへ連絡をしているようだった。
ポポロムとカルステンが現場に到着する。丁度夜が明けて空の色が幻想的だった。海風がひんやりとして、ブルっと身を震わせる。
少し遅れてリアとアルフレッド、そして警察官のディルクがやって来た。カルステンが連絡をしていたのはディルクだったようだ。
「ったく、なんで俺まで……」
「一市民の命かかってんだ。文句言うな」
ディルクとカルステンが言い合っているが、それどころではなかった。
リアは助手席から飛び出して、真っ先に岬の方へ駆け出した。
その方向にはテオの姿。テオは、海の向こうを見つめていた。
こんな時でなければ、朝日が美しい場所だ。
「テオッ!」
リアが叫ぶと、テオはゆっくりとこちらを向いた。
そして、いつものような笑顔を浮かべる。
「良かった。みんな、来てくれたんだ」
リアもアルフレッドも、心配そうにテオを見る。
ここがどういう場所か、全員わかっているからだ。
テオは微妙な位置に立っている。
最悪の事態だけは避けたいところだった。
「テオさん、病院に戻りましょう」
「ふふっ。言われて、素直に戻ると思う?」
「思いませんね」
ポポロムは極力穏やかに接したが、さらりと躱された。
監視の目を掻い潜って病院を抜け出したくらいである。
何かよほど強い思いがあってここに来たに違いない。
今まで大人しくしていたのに、急にこのような行動に出るなんて。
……いや、もしかしたら、彼の中では急な事ではなかったのかもしれない。
ポポロムは医者として、テオを導く義務がある。
そう言うと、テオはいつもの笑顔を崩した。
「ねぇ、じゃあさ。なんで俺は、こんなところにいるの?」
「え……?」
“なんで”?
自分の意思でここへ来たのではないのか? と
「俺は、良くなっているはずだよ。先生の言う通り、投薬もして……。なのにさ、なんでかな……」
苦しそうに表情を歪め、
「良くなってると実感するたびに、母さんが出てくるんだよ……」
初めて母親の話を吐露した。
「ねえ、先生。俺、まともになってるんだよね……?」
胸の辺りで病衣を握り締め、今にも
「先生の言う、“まとも”になってるんだよねぇっ!?」
テオはついに悲痛な叫びを上げた。
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