第6話 追跡 sideアルフレッド

 車を飛ばし、GPSの表示した場所に辿り着く。

 ここは、空き家……か?

 窓から、微かに灯りが漏れていた。


 間違いない、テオとリアはここにいる。

 俺は、音を立てないように扉を開けて奥へと進んだ。

 灯りが漏れていた部屋は、廊下を進んで右手にあった。


「姉さん……」


 そっと扉を開けると、テオの声が聞こえた。

 しかし、姿が見えない。


「姉さーん……」


 見回すと、部屋の奥にある古びたソファの向こう側に、テオの頭だけが見えた。


「ふふ、寝ちゃった? かーわい♪」


 容易に想像できた。

 リアは、おそらくソファの上に横になった状態でいる。

 俺は、武器代わりに持ってきた傘を、テオの頭上目掛けて振り下ろした。


 しかし、テオはその攻撃を、腕で受け止めた。

 気付かれていた……!


「痛いなぁ、兄さん」


 傘の持ち手の部分が当たるように振り下ろしたが、テオにはあまり効いておらず、それどころか傘を奪われ折り曲げられてしまった。


「テオ!! リアは……!!」


「あーあ、バレちゃった。まあ、兄さんのことだもん。姉さんにGPSくらい付けてるよね」


 テオは、まったく悪びれる様子もなく、立ち上がって視線を下に移した。

 テオの衣服は乱れていなかったが──。


「でも、ちょっと遅かったかなぁ……」


 俺は、後悔の念を抱きながら、ソファの向こう側にまわった。


 ──最悪だ。

 

 古びたソファの上には、傷つけられ乱暴されたリアが、一糸纏わぬ姿で仰臥していた。

 目を見開き、悲愴な表情で、涙の跡がはっきりとわかるほどだった。


 胸が苦しい。

 だが俺は、目を背けるわけにはいかなかった。


「ごめんね、兄さん……」



 テオはまたしても、



「壊れちゃった」



 あの笑顔で言った。



「テオオオオオオォォォォッッ!!!!」


 自分でも内心驚くほど、腹の底から怒りが込み上げてきた。

 テオに、自分自身に、殺意が湧くほど。


「なんだ、兄さん、ちゃんと怒れるんじゃない。今まで、感情をむき出しにしたことなんてなかったから。ああ……。きっと、俺のせいだね。俺が兄さんを好きすぎて、兄さんのものばかり好きになっちゃったから」


 ああ、そうだ。テオの言う通りだ。

 俺は、昔からテオにすべてを奪われてきた。

 だから俺の感情──特に好意は隠してきた。


「やはり、おまえを野放しにしておいたのは間違いだった……! もう、言い逃れはできんぞ、テオ! 絶対に逃がさない!」


「兄さんさぁ……。そんなに姉さんが大事なら、手を出さずに閉じ込めておけばよかったのに。かごの中の、鳥のようにね……」


 リアが……耐えかねて言ってしまったのか……?


 だが、俺はリアを責められん……。

 すべて、俺が招いてしまった結果だ……!


 その時、パトカーと救急車のサイレンが聞こえた。こちらに向かって来ている。

 警察は、俺が予め呼んでおいたものだ。しかし、救急車は、まさかテオがリアのために……?


「あー。警察呼んでたのかぁ……。じゃあ、仕方ないなぁ……」


 テオがこちらに近づいてきて、腹部に蹴りを入れられた。

 鈍い音がした気がする。


「ぐっ……!」


「俺さぁ……兄さんに捕まるほどヤワじゃないんだ。あ、救急車、もう一台呼んだ方がいいかもね」


 テオは最後の情けか、リアに布をかけ、


「じゃあね、兄さん」


 それだけ言って逃げてしまった。


「ぐっ……! ま、て……!」


 腹部に激痛が走り、うまく動けなかった。

 テオを諦めて、リアに向き直す。


「リ……ア……」


 激痛のあまり、気を失ってしまい──


 次に目覚めた時は、病院のベッドの上だった。

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