第2話 犬猿の二人?
「死の時には私が仰向かんことを!」
「せめてその時、私も、すべて感ずる者であらんことを!」
中原中也「羊の歌」より
実際に、自分の最期がこのようなものであったのかは知らない。ただ、気づいたら転生し、令和の時代に生活していた。ところで前世ではよく喧嘩をふっかけた人物がいた。本屋のあいつは何となくその人物に似ているような…
─────────
いつものように店番をしながら小説を書いているとドアにつけてある鈴がなった。
「いらっしゃいま……げっ」
「よう、治希」
「一体何のご要件で?」
「詩集を買いに。おっ、小説かいてんのか」
カウンターから身を乗り出して僕の書きかけの小説を手に取る。
「う〜ん。なんかイマイチ。もっと情景の描写を丁寧にしたら。あとは伏線張るとか。」
「分かってるってば。あと書きかけなんだから伏線なんて分からないでしょ」
「けど治希のことなんだから考えてなかったりするんだろ?」
「そ、それは…」
痛いところを突かれた。確かに伏線はあまり気にしてなかったな。今回に限らず言也は的を得たことを言ってくる。よし、後で直しておこう。
「で、詩集を買いに来たんじゃないの?」
「そうだった。探してくる。」
そう言って言也はカウンターを離れ、一冊の本を手に戻ってきた。持っているのは中原中也の詩集だ。本を受け取って会計を済ませ、また言也に返す。
「ありがとうございました〜」
「また学校でな!」
そう言って言也は店を出た。
言也がいなくなった店内でふと考える。
(詩人とか目指してるのかな)
言也とは小学生からの付き合いだがそんな話は一度も聞いていない。ただ、言也はよく詩集を読んでいるし、国語の授業で出した詩は文芸大会で入賞していることがよくある。他者から見ても詩が好きで、才能があることは確かなのだ。
(結構繊細な詩を書くんだよな)
学校に張り出されていた詩を思い出してそう思う。なんだか悔しいけどあれには感激してしまった。まるで、それこそ中原中也のような……
(いやいや、あいつに中原中也の名はもったいない)
自分より上の存在に対しての、せめてもの反抗だった。
「また学校でな!」
そう言って店を出た言也はふと考える。
(あいつの小説、イマイチなんていったけどそれほどでもなかったな。)
どこか悲観的だけど優しさを感じられる小説は、まるで太宰治のような……
(いやいや、あいつに太宰治の名はもったいない)
そう思うことにして、買った詩集を読むべく家路を急いだ。
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