工業系(技術)が苦手です
前回の話『本屋で働きたかった』で、工業系が苦手と書いた。今回はそこに触れていこうと思う。
※ 前回の話を読んでいなくても問題ない構想を語っているように、わざわざ前回の話を読まなくても大丈夫です。でも、読んでいただけたら嬉しいです。
何かを物理的に制作するというのは、幼少期のころから苦手だった。
みんなが器用に折っていく折り紙も満足に折れず、適当な紙飛行機を折るのが関の山。やっとのことで折った折り鶴も、周りに比べてあまりに不恰好な出来だった。
「最初から折った紙がズレないように綺麗に折っていったら、綺麗な仕上がりになるよ」
できる人はそう言う。
でも、できなかった。その最初から気がつかない僅かなズレがあるのか、途中からの折り方に問題があるのか、やはり綺麗な仕上がりにはならなかった。
折り鶴でいうのなら、みんなのは鋭く尖った美しい姿をしているのに、私だけ鋭さもないうえに、綺麗に折れなかった弊害としてぼろぼろの姿をしていた。
不器用なのだろう。はさみも線を引いたうえでもまっすぐ切れない。プラモデルも、作らせれば凸部を凹部の中で折ってしまい、二度とその部分を組み立てられなくするほどだった。
でも、不器用以上の問題が私にはあるように思う。
折り紙を満足に折れずと書いた。それは不恰好になってしまうというだけではない。図面を見ても、イメージが上手く湧かないのだ。図のように折って……がはっきりと理解できない。そう、途中で進めなくなって、そもそも完成に辿り着けない状態だった。
私の母は私が算数及び数学でつまづかないように、幼年期から徹底して数字を叩き込んだらしい。そのおかげもあってか、算数から数学までほぼ苦労したことはない。幼稚園で工作が多くて嫌になったこともあったが、小学校に入ってからは得意な算数もあって楽しくて仕方がなかったほどだ。
しかし、ほぼ苦労したことはないと書いたように、苦手なものもあることはあった。立体的な図形に関する問題だ。
この立方体の三点を通る平面で切断したときの切り口はどうなりますか?
こんな感じの問題だ。全く分からなかった。三点を切ったら、切り口は全部三角形になるのではないのかと思っていた。
他にもある。
次の展開図の内、組み立てると立方体になるのはどれでしょう?
こちらに関しては、算数や数学が苦手な人たちでもラッキー問題のように易々と解いているものだったが、私には難しかった。
前頭葉が鍛えられた代わりに、何かが足りなくなってしまったのかもしれない。
三次元を上手く捉える能力というか、何というかを。
中学校では不器用と併せて、それが本当に目立つ形となった。体育以外の実技はそれはもう酷いものだったといっていい。特に技術は。筆記試験があったおかげで5段階評価の4をもらうことはできていたが、実技だけで評価されていたとしたら1で間違いなかっただろう。それも、順位で評価をもらうシステムだったため、断トツの最下位での1を。
ピンポン玉を運ぶロボットの制作でのこと。
ほぼみんなが説明書を超えて(説明書通りではない)オリジナリティ溢れるものを授業中だけで完成させていく中、私は説明書通りに作ることすら遅れて放課後に居残っていた。酷さが伝わるだろうか。
他にも居残っている生徒がいなかったわけではない。だが、オリジナリティが溢れすぎて授業中だけでは間に合わなくなった者たちや、欠席などで授業数が少なくなってしまった者たちだ。
酷いのは私だけ。仲間はいない。
算数や数学が苦手な人は一定数いた。仲間がいるという意味で、そして一般的に社会で役立つ技術の方が得意だったらという点で、算数や数学の方が苦手な方がよかったのかもしれない。
中学の時の技術の先生が私の新卒での採用試験(なぜか工業系を受けた)のことを知ったとしたら、全力で止めてくれたことだろう。
ここで終わったのなら、Web小説の一話としていい長さであろうか。しかし、ここはもう少し続けさせてもらおうと思う。
私は新卒で工業系の会社に入社し、工場で全く仕事ができずに半年も経たずに辞めている。
だが、しばらくして再び工業系の会社、その工場で働くことになる。
他の職種で働き、社会で少しばかり自信をつけた私のリベンジだった。
ただし、ガチガチの工業系はさすがに無理と判断し、男女共に活躍している軽作業を選んではいたのだが(笑)
軽作業というだけでなく、男女共に活躍しているということにも意味はあった。というのも、以前の工業系の会社は現場では男性しかいないような職場で、一部の男性の粗野で攻撃的な面に精神をやられたこともあったからだ。
そんな男性がいたとして、女性の前では荒ぶらないのではないかという打算もあったような気がする。
消極的でせこいリベンジではあるのだが、何とこのリベンジが成功してしまう。
仕事は上手くいき、プライベートも楽しいといういいことづくめであった。
しかし、これが私の人生に影を落としてしまうことにもなる。
いい会社ではあったのだが、わけあってずっとは働けなかった。
その後の私は、取り憑かれたように工業系の会社の工場で働いてしまうことになる。
それは、あの会社での居心地のよさが忘れられなかったのかもしれない。
そして、まずお取引先様やお客様と会うことがない工場勤務では、内部の人間関係が良ければ天国のような職場になることも関係していただろうか。
そんなものは、偶然あの会社にあっただけだったのに。仕事が上手くいっていたのも、奇跡的に自分の肌に合う仕事が割り当てられていたからにすぎなかったのに。
やはり工業系は苦手だったということか、どの会社の工場も上手くはいかずに勤めては辞めてを繰り返した。
経歴は酷くなり、この現状に呆れてか離れていった友人もいた。親友だと思っていた人物だった。
仕事が長く続かない状態になってしまって落ち込む私と、そのことで会話してくれた人物がいた。
「そんなに、上手くいかないものなのか? よく分からんが」
「ああ。そうだな。どう言ったらいいか。私にとっての『技術』は君にとっての『数学』なんだよ」
その人物は数学が苦手だったから、そんなことを話した。
「いや、よく分からん」
なぜだ。
置き換えて考えるだけのはずなのだが。
「まぁ、分かったことにしよう。で、なんでお前はわざわざその苦手な『技術』をやりに行くんだ?」
あ。
そう、答えはとても簡単なことだった。
いや、既に書いたように工場の魅力(正確にはあの工場の魅力)に取り憑かれてしまっていて、分かってはいたが考えたくはなかったのかもしれない。
職種を変えればいいだけだということを。
そして、職種を変えて動いた私は、今では精神も安定しつつ長く働けるいい会社、職場で働いている。
生きてきて、今では三次元の捉え方や器用さも少しはマシになってきたのではないかと思う。
出会ってきた人に同じくらいのレベルの人がいたり、工業系の人が集う会社はもちろん学生のころもその集団のレベルが高かっただけかもと思ったりもする。
だからといって、苦手なことに変わりはない。
ないのだが、今は前を向いて生きていけている。
それだけは、確かなことだ。
人生の振り返り、記録のような語りになってしまった。
読者様が読んで面白いのかと問われれば「はい」と答えるには難しい話になったこと申し訳ありません。それでも、ここまで読んでいただいた方に最大限の感謝を込めて締めたいと思います。
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