第13話 襲撃と爆発
「――ひぃ!」
ガラスが飛び散る中、怯える警備員が小さく声を発したのが聞こえた。
警はとっさに自分の方へ警備員を寄せ盾となるように背中を向けた。
才は華麗に後ろに飛び、銃を構える。
「……え?
だが、侵入してきた女性の顔に気が付くと、目を丸くして戸惑いの声を発する。
確かに端末で最後に見た女性――つまり潜入した公安捜査員のひとり
年齢は20後半のはずだが、その幼い顔で制服を着ていても違和感はない。
緩いパーマのかかった茶髪をひとつ結びにして肩に掛け、童顔で垂れ目がちの大きな瞳。
だが、どこかその目はトロンとしている。
いや、トロンとしているのは隣の男子高校生も同じだ。
そして2人とも才をじっと見ていた。
「生きていたのね……」
「才! 後ろだ!」
同僚が生きていて気が緩んだのか、警が叫ぶまで気付かなかった。
才はすぐさましゃがむ。
その上空で、才に抱き着こうとしたのか何者かの両腕が振られ、長い金髪の先に触れた。
見るとスーツ姿の男だった。その男の目もまた虚ろ。
才はしゃがむと同時に足払いすると、男は抵抗なくそのまま床に転げる。
流れるように転げた男をうつ伏せに抑え、拳銃を頭に押し付けると、
「――ッ! 沖田さん……?」
彼もまた行方を晦ました公安の潜入捜査員。
頭を派手に廊下に打ち付けたのか、血が吹き出て床一面が真っ赤に染まる。
「どうして――」「ヴワァァアアアアアアア!!」
気が狂ったかのような突然の叫び。
沖田は身体を振り口から涎と唾を出しながら叫び続ける。
「ちょ……ちょっと沖田さん?」
落ち着かせようと才は強引に沖田の身体を抑えつけようとするが、何かに気が付いたように息を呑むと、すぐに沖田の身体から離れ、新たちの方へ走ってくる。
どうして、とは言わずもがな。
「逃げて!」
才の叫びと同時に、爆音が轟いた。
新は反射的に身を守り、警も警備員を護るように背中で爆風を受け止める。
「ギャアアア!?」
まさかの爆発に警備員は叫喚する。
だがその威力は人ひとりが吹き飛ぶ程度。警備員に傷がつくことはない。
というより3人とも爆風による衝撃を耐える程度で済んだ。
だが、沖田の近くにいた才は違う。
「!? 才さん!」
新はすぐに才を呼び掛けるが、応答なし。
煙で才の様子を確認することができない。
「ウワァアアア!」
更に爆発に便乗し制服姿の2人が両手を前に出しながら新たちに向かってきた。
警は警備員を護っていて、才は安否不明。
自分が動くしかない、と新は警達の前に立つ。
手錠が嵌められたままの腕で彼らの腕を受け止めようとするが――、
「受けちゃダメ!」
後ろから聞こえた才の言葉で思わず新は後ろに飛んだ。
警備員の背中に足が当たるが、辛うじて避けられた。
新を抱きしめようとしていた彼らの両腕もまた空振りに終わる。
後ろを軽く振り向くと、既に爆煙は薄くなっていた。
その中で倒れている才を見つけるが、彼女は必死の形相で大きな口を開き叫んだ。
「彼らの首に爆弾がついている!
受け止めたら巻き添えを喰らうわ!」
その発言に驚いて彼ら2人をよく見ると、確かに首にチョーカー型の装置。
「じ、じゃあどうすれば!?」
彼らは新の後ろを見つつゆったりとした動きで、どんどん近づいてくる。それに――、
(この臭い……)
爆風や風に乗って鼻腔を刺激する。
まるで周囲を欲の虫が取り囲んでいるかのようだ。
新は慌ててマスクの先端に栓をした。
「チッ! とにかく逃げるぞ!」
警が動転する警備員を無理矢理立たせる。
「このままじゃ埒が明かない。隠れて体勢を立て直すぞ」
逃げる先は襲撃者とは逆方向。つまり爆発があったところだ。
逃げるついでに才を回収する。
見たところ爆風の余波で左足のパンプスが破れ擦り傷のようになっているが、命に別状はなさそうだ。
辛うじて自力で立ててもいる。
後ろを見ると制服2人組が変なうめき声を上げながら近づいてきている。
「曲がり角の先に教室があるはずだ!
いったんそこに隠れるぞ!」
警の提案に乗り、爆心地を通り過ぎ右に曲がろうとするが、曲がった廊下の奥でも十人くらいの人だかり。
全員がうめき声を上げてこっちに向かっていた。
背後も敵。進もうとした道も敵。
ここは左側にある階段に行くべきか。
「いや、このまま教室に隠れましょう!
階段先にも敵がいるかもしれない。
いったん教室で体勢を整える!」
才がそう叫ぶ。
警も才の意見に同意すると、教室に行こうとするが、
「う……ウワァァァアアアア!!!!」
「お、おい!」
警に抱きかかえられていた警備員が突然暴れ出した。
警の手を振りほどき、そのまま階段へ。
警は追いかけようとするが、新や才の2人も心配なようで立ち止まる。
だが、警備員の悲鳴に反応し廊下にいた敵たちがじっとこっちを見ていることにも気付く。
警は少しの間葛藤するように廊下と階段を交互に見るが、やがて諦めたように警はため息を吐いた。
「……はぁ。クソ!
とにかく俺はあいつを追いかける!」
「じゃあ俺も」
「いや、新くんはここで才と一緒にいてくれ!」
新は警と一緒に行こうとしたところで止められる。
「新くんと才が一緒にいると、確かに危険だ。
才が喰われるかもしれない。
だが今は緊急事態。戦闘力が低い才を残すのも、いつ敵が襲ってくるのかわからない状況で、3人で追いかけるのも分が悪い。
だから今は新くんを信用する!」
その言葉に新は目を丸くするが、すぐに覚悟を決めた表情で軽く頷いた。
そんな様子を見て警は少し微笑むと、
「才を頼んだぞ!」
と叫びすぐに警は階段を一段飛ばしで降りていった。
「才さん、とにかく教室へ!」
新の叫びに才は頷き、2人は近くの教室の扉を開けた。
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