無いものねだりの僕ら

「悲しいときは希望の光からも絶望の闇を見出すだろう」

そんなような歌を聴いたことがある。キャッチーなメロディで苦しみを明るく抱きしめながら歌った彼はもうこの世にはいない。

坊主憎けりゃ袈裟まで憎い、そんなような心理状態は健康上大変よろしくないのだが、そういうときは気持ちが底打ちするまで、しっかりと頭の天辺までこれにひたって十秒数えよう。子供が親にお風呂のとき言われるアレを、大人になってから自主的にやるんだ。

やってるうちに段々と肺が鍛えられてきて、三十秒くらいまではブクブクと水泡を吐きながら浸っていられるようになって、そのうち永遠にこのままかもなんて、泳げもしないくせに水と仲良くしようとしてしまう。深海魚にでもなりたい気分だ。

限界まで肺の空気を出し切ったところで浮上、水面から鼻を出して、また人間に戻ってしまったとがっかりしてからが本番、スコールのように突然降り注いでは、傘すら通り抜けて全身を濡らす悲しみには踊るしかないんだ。ショーシャンクの空にみたいに全身で受け止める器なんかない平凡な僕らは。

さぁ、号泣のマダム、お手を拝借。普通の僕と踊りましょう、大丈夫、あなたの旦那さまは笑顔のミセスと歌っています。今のうちに、まぶたが乾くような激しいダンスを共に。まるでジェットコースターのように、メリーゴーランドのように、くるくると回って互いの絶望を混ぜて、周囲に撒き散らそうではありませんか。迷っている時間はございません、さぁ、どうかわたくしめをお選びください。目が腫れぬうちにね。

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