九  銀鈴、通票通過授受を見るのこと

【ご注意!】

 ・本作の「目的」は【趣味で執筆】、作者要望は【長所を教えてください!】です。お間違えないようにお願いします。


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 ・「作者を成長させよう」などとのお考えは不要です。執筆はあくまでも【趣味】です。執筆で金銭的利益を得るつもりは全くありません。「善意」であっても、【新人賞受賞のため】【なろうからの書籍化のため】の助言は不必要です。


 ・ご自身の感想姿勢・信念が、本作に「少しでも求められていない」とお感じなら、感想はご遠慮ください。

 

 ・本作は、「鉄道が存在する中華風ファンタジー世界」がどう表現できるか? との実験作です。中華風ファンタジーと鉄道(特に、豊田巧氏の『RAIL WARS』『信長鉄道』、内田百閒氏の『阿呆列車』、大和田健樹氏の『鉄道唱歌』)がお好きでないと、好みに合わないかもしれません。あらかじめ、ご承知おきください。お好みに合わぬ場合には、無理に読まれる必要もなく、感想を書かれる必要もありません。あくまでも【趣味】で、「書きたいもの」を「書きたいように」書いた作品です。その点は十二分にご理解ください!

 

 ・あらすじで興味が持てなければ、本文を読まれる必要はありません。無理に感想を書かれる必要もありません。私も、感想返しが必ずしもできるわけではありません。また、感想返しはご随意に願います。なお、ひと言でも良い点を指摘できる作品に限り、感想を書くようにしています。

 

 ・攻撃的、挑発的態度などのご感想は、「非表示」「ブロック」の措置を取りますことを、あらかじめご承知おきください。


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 長洛出発の七日目。

 午前六時ごろ。

「失礼いたします。朝餉をお持ちしました」

 茘娘と棗児が天幕へ入ってきて、茘娘がおかもちから焼餅(シャオビン)、漬物を取り出し、棗児がやかんを卓に置いた。焼餅(シャオビン)からは、ゴマの香ばしい香りがただよった。

 焼餅(シャオビン)とは、掌大で表面にゴマがたっぷりとまぶされた焼き麺麭(パン)。

 銀鈴がやかんから、乳茶(ミルクティー)をつぎ分けた。

「では、失礼いたします」

 茘娘と棗児はそろって一礼して、天幕から退出した。

「さあ仁瑜、早く食べよ。この後、予定が詰まっていて忙しいから」

 銀鈴は、仁瑜にうながして、焼餅(シャオビン)を口にした。

(焼きたての焼餅(シャオビン)は、何もつけなくても、おいしいわよね。ほんと、噛み応えあるわ)

 仁瑜も、乳茶(ミルクティー)を飲み、焼餅(シャオビン)を食べた。

「そうだな。駅まで行く時間も要るし、駅でも視察があるからな。焼餅(シャオビン)には普段、緑茶か茉莉花(ジャスミン)茶だが、乳茶(ミルクティー)も悪くないな。銀鈴、予定も詰まってるから、朝餉は簡単だが、これで足りるか?」

「だいじょうぶよ。揚げ麺麭(パン)も少しもらっているし。汽車の中でおやつをたべるから。仁瑜、わたしが“食い意地張ってる”って言いたいわけ?」

 銀鈴が仁瑜に詰め寄った。

 

 午前七時ごろ。

 翠塩湖駅駅長室。

「突然のお料理教室をありがとうございました。おとといの踊りも、まるで仙界に招かれた感じでした」

 銀鈴と香々は、見送りに来た部族長夫人からあいさつを受けていた。

「喜んでもらえてこっちも嬉しいですよ。宴をはじめ、大変歓迎してもらって、ありがとうございました」

「古馬族の料理って、長洛への花嫁道中で食べたものにも似ていたから懐かしかったわ」

「それは良うございました。ところで、皇后さま、太后さまにお願いがあるのですが」

「どうしたんです? 改まって」

 銀鈴は疑問を口にした。

「短い間でしたが皆さまとお付き合いして、夫とも話したのですが、部族から何人かの女の子を選んで、後宮太学へ入学させたいのですが、募集はありますでしょうか? 女官や宮女の方々も、お若いのに学識もおありでしたので。なにぶん、移動しながらの生活ですので、子供たちに落ち着いて学ばせることが難しいので」

「……後宮太学の新入生募集は、不定期なんですよ。今のところ、新入生を募集するって話は出てませんが。わたしの時は三年前で、陛下の即位と重なってましたから」

「難しいのでしょうか?」

「陛下や越先生に聞いて見ますね」

「よろしくお願いします」

「そこそろ、こちらへ」

 忠元がやって来た。

「越先生、部族長の奥さんから聞かれたんですけど、後宮太学の新入生募集はありますか? 古馬族の子供たちを入学させたいってことで」

「そうでしたか。申し訳ないですが、今のところは具体的には募集の予定はありません。ですが、前回から三年たっていますから、そろそろ考えなければいけないころです。ですので、『いつ』とはお約束はできませんが、新入生募集が決まれば、募集要項をお送りしますよ」

「そうですか。では、その時はお送りください」

 部族長夫人は、忠元に軽く頭を下げた。

 

 銀鈴と香々は、忠元に駅務室へと導かれた。歩廊(ホーム)が見渡せるように、玻璃(ガラス)張りになっていた。

 室内には、仁瑜に部族長、駅長、蒼寧地方鉄道局長が待っていた。

 蒼寧地方鉄道局長が、一礼して真っ赤な通票閉塞器(つうひょうへいそくき)を指差した。

「では、列車の追突、正面衝突を防ぐ『閉塞』についてご説明申し上げます。単線区間における閉塞とは、信号場を含めて、駅と駅との間に進入させる列車を、だた一列車に限ることです。単線区間では、先行列車との追突のほか、対向列車との正面衝突をも防がなければなりません。単線区間の多くは、この通票閉塞器を用いて『閉塞』を行っております。列車は閉塞区間、つまり翠塩湖駅と隣駅の間は、通票閉塞器から取り出される『通票』を持たなければ、走行を絶対に許されない規則でございます。通票は、言わば『独占通行手形』になります。複線区間であれば、上下線それぞれが一方通行ですので、正面衝突の心配はございません。後発列車が、先行列車に追い付かないように列車間隔を保てば良いのです。複線の主要幹線においては、おおむね一粁(キロ)から一粁(キロ)半ごとに自動信号機を設置し、信号機と信号機との間を『閉塞区間』とし、一列車のみ進入を許します。なお、複線区間であっても、工事や信号機故障、その他の理由で、自動信号機が使用できぬ場合や、そもそも閉塞が非自動の人力の場合は、単線区間と同様に、駅と駅との間を閉じて、その間に一列車のみ進入を許します」

 翠塩湖駅長が、通票閉塞機の把手(レバー)を引いた。

 ひと呼吸あって、通票閉塞器が、カン、カン、カンと三回、鐘を鳴らした。

「到着側の隣駅からの応答信号です」

 蒼寧地方鉄道局長が説明した。

「上り御召列車、閉塞!」

 受話器を手に、駅長がそう叫んだ。

 通票閉塞器が、カン、カンと二回鐘を鳴らした。

「隣駅よりの、閉塞承認の信号です」

 駅長は、把手(レバー)を引き続けている。

「閉塞器は、隣駅と二台一対となっております。隣駅でも、当駅同様に把手(レバー)を引いております。両方の駅で、把手(レバー)を引き続けないと下の引き出しが全部引き出せず、通票を取り出せません。通票の取り出しには、必ず到着側の隣駅の承認が必要です。通票を一枚取り出すと、閉塞器は鎖錠され、取り出した通票をどちらかの駅で、閉塞器へ戻さない限り、再度通票を取り出すことはできません。これにより『一駅間一通票』の原則が守られます」

 蒼寧地方鉄道局長は、そう言いながら、通票閉塞器の引き出しを指差した。

「通票、四角(よんかく)!」

 駅長は、取り出した通票の、真ん中の穴の形を確認し、喚呼した。そして、大きな輪っかが付いた皮袋に、通票を収めた。

「えっ、もう終わり?」

 銀鈴が意外そうな顔で言った。

「通票の取り出しは、だいたい一分ぐらいで終わりますからね。ですよね、局長」

 忠元は、銀鈴に向かって答えてから、蒼寧地方鉄道局長に言った。

「はい、左様でございます」

 駅長が拱手して、一同に通票を入れた輪っかを示した。

「これが、通票です。通票そのものは、皮袋の中の円盤です。通票の真ん中の穴で、どの駅間のものかを区別します」

 蒼寧地方鉄道局長が、そう説明した。

 輪っかの革袋には、丸い穴が開いていて、通票の穴が見えるようになっている。

「あんな大きな輪っかに入れる必要あるの? 通票はそこまで大きくないでしょ」

 香々は尋ねた。

「それはこの後のお楽しみで」

 忠元は、そう答えて、蒼寧地方鉄道局長をチラッと見た。

「左様でございます」

 蒼寧地方鉄道局長は、軽くうなずいた。


 午前七時半ごろ。

 御召列車の展望車の展望台(デッキ)。御召列車は既に翠塩湖駅を出発していた。

 展望車は通常、列車最後尾になる。だが、このたびは機関車のすぐ後ろに位置している。

「こちらにご注目ください」

 蒼寧地方鉄道局長が、掌で片側を示した。

「何かあるの?」

 香々はそう言いながら、展望台の手すりから身を乗り出そうとした。

「何やってるんですか。危ないですよ」

 銀鈴は、そう言って香々の袖を引いた。

 駅が見えてきた。駅の入り口側、出口側ともに、腕木信号機の腕木は、下向き四五度の進行を現示――表示――していた。

 列車が、駅入り口側の歩廊の端に差し掛かると、機関助士が輪っかを、舌の部分――通票が入った皮袋――を持って持って、渦巻き状の通票受器に引っかけた。

 そして、歩廊の出口側の端では、列車に向かって突き出された輪っかから、腕を突っ込んで、抱きとめるようにして、輪っかを取り去った。

「すごい! 曲芸みたい!」

 香々が歓声を上げた。

「……曲芸でやってるわけではないんですが。これが、出発前の『お楽しみ』でして。これを『通票通過授受』と言います」

 忠元がそう言った。

「でも、危ないんじゃないの?」

 香々が疑問を口にした。

「危ないといえば、危ないんですよね。局長、お願いします」

 忠元が答えて、目線を蒼寧地方鉄道局長へと向けた。

「ご指摘の通り、危険を伴っているのは事実でございます。ただ、運動神経が優れている機関士・機関助士にとっては、怖さはありません。むしろ『楽しい』と言いますね。まあ、運動が苦手な者は『怖い』と申しておりますが。

 特別急行や急行のように、速達性を重視する列車でございますと、通票扱い駅でいちいち停車していては速く走れません。そのため、このように徐行して走りながら受け渡しを行っております。ただ、授け器から取り損ねた場合には、急停車して通票を取りに行かねばなりません。受器にかけ損じたときには、車上から駅に返した通票の無事が確認できる場合は、そのまま進行します。ただ、夜間などで車上から無事が確認できぬ場合は、やはり停車して無事を確認します。駅へ返す通票を受器にかけ損じて、探し回っても見つからず、やむを得ずそのまま発車したこともあります。後日、客車の台車に引っかかっていたのが、車両基地で発見されたこともあります」

 忠元の後を受けて、蒼寧地方鉄道局長が説明した。

「わたしの実家のほうで、こんなこと、やってたっけ?」

 銀鈴は、首をかしげた。

「銀后、あなたの実家の路線は普通列車しか走っていないので、このように通過授受をする必要はありませんよ。一般の時刻表に載っていない貨物列車や回送列車ならやっているかもしれませんが」

「そうなんですか、越先生」

 銀鈴はうなずいた。

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